トラス(Truss)とラーメン(Rahmen)のこころ

院生だった私は、たまたま「ラーメン学」の背文字のついたファイルを机に置いていた。新任の教授秘書(正式には事務補佐員)が見て「あのー、ラーメンってあのラーメンですか?」とけげんな顔。質問の意味は分かっていたがわざと「そー、あのラーメン」と答えた。彼女は家に帰って「建築工学科ではラーメンの研究もしているのよ」と言って母親を驚かせたそうだ。

普通ラーメンと言えば「3分間じっと待つのだぞ」のあのラーメンだ。しかし、構造力学の分野では、ラーメンはドイツ語(Rahmen)で、ある種の骨組構造をさす。殆どのオフィスビルはこのラーメンもしくはそれに近いものである。ビルの工事現場で遊園地のジャングルジムを大きくしたような鉄骨を見かける。ああいったたぐいのほとんどがラーメンだ。

又、ラーメンと対比されるものにトラスがある。このトラス(Truss) はなぜか英語だ。トラスにはドイツ語にもFachwerk という立派な名前がついている。しかし例えば静定トラスを静定ファッハベルクと言うと「なんじゃそりゃー?」となってしまう。逆にラーメンだって英語にすると rigid jointed frame である。しかし不静定ラーメンを不静定リジッドジョインティッドフレイムと言うと、それだけで口のあたりがもごもご引きつる。英独混合でもトラスとラーメンが簡単で良いようだ。


何語かはともかく、コンピュータ解析の時代にトラスやラーメンなど古くさい・・と言うなかれ。コンピュータは、解析は得意だが、混沌とした設計空間から「原案を生み出す」ようなことはちょっと苦手だ。生み出す苦しみは構造設計家に与えられた幸せな作業でもある。色々と選択にせまられるが、そこは度胸、直感と経験からエイヤットと大筋を決めていく。設計者の好みも多分にはいる。だから生真面目なコンピュータはその支援にとどまらざるをえない[1]。

したがって良き設計者は、普段から引き出しの中身を知っておくことが必要だ。さらにはトラスやラーメンの解析法だけでなく、それらに含まれる「こころ」も知っておくことが必要ではなかろうか。

・・と、大上段に構えてみた。内心は若干うしろめたいが、ともかく次に進もう。


トラス構造は基本的には3角形の組み合わせよりなる骨組と言える(図1参照)。三角形は3辺の長さが決まれば形もきまる。それを組合せていけば全体の形も決まるという寸法だ。

よくある説明では、トラス構造は部材が回転可能な接合、つまりピン接合よりなる構造、とされる。しかし、実際にディテールの設計が回転できるようになっている場合は少ない。ガセットプレートが添えられ簡単な溶接やボルトで接合されたりしている場合も多い。(その極端な例は図2参照)


一方のラーメン構造は長方形の組み合わせよりなる骨組と言える。しかし、この場合は4辺の長さが決まっても、すぐ菱形にクシャットとなりたがる。だから柱や梁などは接合部をしっかりと剛につないでおかないとひどいことになる。工作の時間に額縁を作った経験があるかもしれない。ガタピシするので4隅に三角形の補強板を打ち付けたはずだ。(ちなみに、ドイツでRahmenの看板のある店は画材屋さんである。Rahmenは額縁も意味するからだ。お腹をすかしてあわてて飛び込んでも、画材屋のおっちゃんに「なんでっか?」と言われるだけである。)

図1 トラスは斜材があるので利用者の動きの方向が決まっている橋梁などで用いられる

(クリックすると拡大できます)

図1 トラスは斜材があるので利用者の動きの方向が決まっている橋梁などで用いられる
写真1 近年はケーブルを利用した斜張橋なども多い
写真1 近年はケーブルを利用した斜張橋なども多い

ところで、講義のときに、一本のチョークを学生に渡して「二本にしてください」ということにしていた。その学生はポキンと折る。すかさず「なぜ折ったのですか? なぜひっぱらなかったのですか?」と聞く。学生は怪訝な顔。そこでコホンと咳払いをして「部材は一般に軸力よりも曲げに弱い。そのことは子供の頃から知っている」と言う。キャンプで焚き火をするとき、拾ってきた長い木の枝は膝を使ってボキンと曲げて折る。大袈裟に言えば外側面から各個撃破されるわけだ。もし力が断面全体にまんべんなく加わる軸力の場合だと攻撃力がにぶることになる。


このことをトラスとラーメンに置き換えてみよう。

外力が働くとトラスの部材には「主に」軸力が生じる。一方、ラーメンの部材には軸力、せん断力、曲げモーメントが生じる(これら断面力の説明は省略)。このラーメンに生じる曲げモーメントがチョークを折る話や各個撃破の話につながる。それゆえに曲げモーメントの生じない軸力だけのトラスはラーメンよりも材料強度からいって効率的な構造だといえるかもしれない[2]。
しかし、いざ、トラスの中で人が住むとなると、斜めの部材がじゃまだ。家具を置けなくなったりオデコをぶつけたりする。したがって居住空間としてはトラスよりラーメンに分がある。

ただし、橋梁のように利用者の動く方向が決まっている場合は古くからトラスが用いられてきた。近年では、施工性や景観の点からトラス以外の斜張橋(写真1)やアーチ橋なども立地条件に応じて採用されている。
勿論、ラーメンの場合はチョークではないが曲げモーメントがからんでくる。地震などに備えて、じゃまにならない程度に筋違いや耐震壁で補強することになるのは覚悟しなければならない[3]。


次に、少し話は細かくなるが、トラスにおいて完全なピン接合でない場合は「多少の曲げモーメント」が接合部を通じて他の部材に伝わる。このことは例えば接合部に集まる部材軸力の作用線が一点に集まらないような場合に問題となる。偏心による付加モーメントが生じるからだ[4]。これは「トラスの二次応力問題」と呼ばれ、ゲッチンゲン大学のH.Manderla らを中心として大いに議論された[5]。しかし、それも徐々に沈静化した。結論から言えばトラスが3角型の組合せであるかぎり接合部が多少剛であっても軸力が支配的であるのと(図3参照)、偏心は避けるべし、で落ち着いたからなのであろう。

図2 このようなものもピン接合として扱われた[8]

(クリックすると拡大できます)

図2 このようなものもピン接合として扱われた[8]
図3 上の図は軸力図で下図は付加応力図[8]

(クリックすると拡大できます)

図3 上の図は軸力図で下図は付加応力図[8]

しかし、この二次応力問題は意外な役割も果たした。当時アメリカでは摩天楼建設への動きがはじまっていた。そして風荷重による摩天楼のたわみ計算のヒントを得るためヨーロッパになぜか?W.M.Wilson がいた。彼はH.Manderlaの誘導した材端モーメント式に着目し[6]、イリノイ大学に戻って熟成したのち「たわみ角法」として開花させた[7]。「たわみ角法」は接合部を大胆にも剛な「節点」としているところがミソだ。その仮定は鋼構造でも抵抗があるのに、鉄筋コンクリートのハンチなどで固められた接合部さえもエイヤットと一つの剛な節点で表してしまったのである。この大胆な仮定は潔癖症のドイツ技術者にとっては到底許されない発想だ。まさにアメリカ型実利主義(プラグマティズム)の面目躍如たるものである。そして、剛な節点でもおおむねよろしい、と実験からその仮定を支えたのがイリノイ大学に在籍していた阿部美樹志である(本コラムのFEMのルーツと「たわみ角法」参照、2012.1.30付け)。

さらに皮肉なことに「剛な節点」への反省は他ならぬ日本で興った。武藤清、小野薫らの剛域を有するラーメン、戦後の、日置興一郎、田中尚らによる接合部のせん断変形を考慮したラーメンなどである。IBMの解析コードFRANにはsemi-rigid joint などはあったが、節点に拡がりを与えたものではなかった。これらについては別の機会にゆずろう。


トラスとラーメンについて軽く書くつもりがついつい力が入ってしまった。果たしてここまで古めかしい話にお付き合いいただいた方は何人おられるのだろうか?




■次回予告
1987年にNIKE2Dに導入した2方向メモリー形状記憶合金の構成則を紹介する。相変態の温度は接触面の面圧に依存したものとなっている。

■文献
[1] とかく人間の好みほどデリケートなものはない。コンピュータで用いられるFuzzy 論理なども種をあかすと最後は重心法などでDefuzzify され評価されたりする。曖昧なままそっとしておいてはくれない。「僕の嫌いなところを言って下さい」と清少納言を口説いても「フン」とよけい嫌われるだけだ。映画好きの方にはゴダール監督の「軽蔑」をお勧めする。
[2] 効率的だからといってもトラスの圧縮材をあまり細くすると座屈する。座屈は鋼構造のいたる部分で常に気を配る必要がある。もっとも、本コラムは4分6なら6の方が2分だけ得、学術的な厳密性より荒っぽくても分かりやすさを採る、といった書き方をしているので読者も眉にツバをつけておくことをお忘れ無く。
[3] 平面図上で偏在した補強の配置は地震の際に捩れ振動を誘発するのでヤブヘビとなる。
[4] 意図的に斜材を大きく偏心させたトラスもある。トラスの梁で、背の高さが建物の1層分もあるようなメガストラクチャー用の梁だ。上弦材と下弦材との間のせん断剛性を低くする目的で考えられたもので坪井トラスと呼んでいる。(考案者の故・坪井善勝東大名誉教授の名前から)
[5] 成岡昌夫「構造力学要論」丸善のp.138 では 2次応力問題の初期の論文としてManderla H.: Die Berechung der Sekundarspannungen, welche im einfachen Fachwerke infolge starrer Knotenverbindung entstehen, Allgemeine Bauzeitung,1880 を挙げている。
[6] 材端モーメント式については Wilson の文献[4]のp.16の脚注に The slope-deflection equations for a member acted upon only by forces and couples at the ends were deduced by Manderla in 1878. See Annual Report of the Technishe Hochschule, Munich, 1879 とある。
[7] W.M.Wilson, F.E.Richart and Camillo Weiss,”Analysis of statically indeterminate structures by the slope deflection method”, University of Illinois, Engineering Experiment Station, Bulletin No.108, 1918
[8] Fritz Stüssi,”Entwurf und Berechnung von Stahlbauten”, Springer-Verlag, 1958より

目次に戻る


記載されている製品およびサービスの名称は、それぞれの所有者の商標または登録商標です。

ページトップへ戻る

JSOLへのお問い合わせ