(2011年03月現在)

地方自治体の情報システムを最適化する「システム統合基盤」。これを実現するにあたり、統合基盤の思想を現実のプロジェクトを通してシステムという具体的な形に仕上げ、またその機能を「フレームワークライブラリー」として商品化したひとりのプロフェッショナルがいる。ITコンサルティング本部コンサルティング第二部ITアーキテクトの山科純である。

JSOL認定ITプロフェッショナル
ITアーキテクト
山科 純

地方自治体が利用している情報システムとは、縦割りの組織・業務に応じた縦割り型のシステムが集まったものである。それらの複数のシステムは、単一のベンダーによって構築されたり、複数の(マルチ)ベンダーによって構築されたり、担い手はまちまちだ。

「重複している業務を共通処理する統合基盤をつくる」といった場合、具体的なシステムの開発は次のようになる。
まず各システムにある重複している業務部分を切り離し、各システムが共同で利用する統合基盤をつくる。次ぎに各システムと統合基盤が連携できるための仕組みが必要だ。その際、統合基盤は単一のベンダーであろうと、マルチベンダーであろうが、その違いを気にすることなく統合基盤として利用できるものでなくてはならない。

山科は、「自治体には何百という業務があり、それに対応した何百というシステムがあります。これらに横串を刺して重複作業の共通化を進めるというコンサル担当者の考えと設計を受け、実現可能なシステムのアーキテクチャーを具現化するのがわたしの仕事です」と解説する。
統合基盤は、自治体向けシステムのチームで温めてきたアイデアだ。それを山科は、初トライアルとなったA区のプロジェクトから一緒に検証し、ソフトウェアとして形にしてきた。さらにB区のプロジェクトでも連携してソフトウェアの品質を向上させ、統合化機能をソリューションとしてビジネス化した。

「(初トライアルであった)A区のプロジェクトでは、ソフトウェアの概念設計に2年、さらに具体的なフレームワークづくりにさらに2年を要しました。これをいったん『システム統合基盤PKG(情報システム統合化フレームワークライブラリー)』として商品化し、B区のプロジェクトにはPKGを利用してさらに完成度の高い"統合のための部品"の開発にも成功しています」

長期安定的な「連携」の実現を目指して

システム統合基盤のフレームワーク開発にあたって最も重要なポイントになったのは、各システムの「連携」をいかに実現するかであった。
それは各システムがいかにつながるかというインターフェースの問題であり、かついかに長期的に安定したものとして形づくるかを明確にすることでもあった。

当初は、各システムが相互に連携する手法が検討された。しかし、これではシステムに多大な負荷がかかってしまう。たとえばA、B、C、Dという4つのシステムがあったとしよう。そして住所情報を共通に利用する仕組みをつくろうとしたとする。つまり、Aで住所情報の構成が変わればBもCもDもその対応が必要となるというものだ。
そのために4つのシステムが直接につながりあうとしたらA⇔B、A⇔C、A⇔D、B⇔Cというように6つのつながりを設定しなければならない。最低でも数十のシステムが稼働している地方自治体では、このつながり=連携方法ではとんでもない負担がかかってしまう。

「システムが1対1でつながる、いわゆるスパゲティ連携では、情報提供元のシステムが変更されたときの対応が、むしろ困難さを増します。そこで共通に使う情報は各システムから切り離した別のシステムに移し、それこそが統合基盤なのですが、そこに情報を集め、各システムが適時照会に来るようにするとシステムの負荷も少なく済みます。いわば統合基盤がシステムのショックアブソーバーの役割を担い、システム変更という衝撃を吸収してしまうのです」

ITアーキテクト 山科 純

一方、データが集約されたり照会したりするには、個別のシステムと統合基盤の間に情報を受け渡しする仕組みが必要だ。一般にシステム間の連携のためには「アプリケーション・プログラム・インターフェース(API)」といわれる仕様の取り決めがなされる。統合基盤の場合、データの受け渡しは、関連する情報を塊にして扱う形式を採るという取り決めがなされた。
つまり、共通情報が入っている箱ごと交換してしまうようなもので、箱の中の変更された箇所と関連をもっているシステムだけが変更への対応を行えば良い。一つの変更がもたらす影響範囲が限られるというか、それぞれの機能は相互に連携しているのだが依存性が弱い仕組みだ(疎結合)。

「システム間の連携APIをどのようなものにするかは、システムの評価にも直結する重要なポイントです。ただ、わたしはマルチベンダーが多い地方自治体のシステムでは、冗長でラフな結びつきである疎結合のほうがシステムは安定するし、使い勝手も良いと考えています」

統合基盤では、このAPIの安定化に関するアプローチを全体的に適用し、さまざまな部品で構成されるフレームワークを形作るとともに、サービス指向的基盤として発展させている。それはつまり、山科の採用したソリューションそのものが、非常に柔軟で成長しやすいソリューションであったということを意味している。

ソリューションが短期に進化をとげる訳

実際、「システム統合基盤PKG」は、常に進化を続けている。

ITアーキテクト 山科 純

現在、提供されている統合基盤を活用した自治体組織内での情報アーキテクチャーのイメージは図のようなものだ。
統合基盤は、「共通インフラ基盤」「統合運用基盤」「セキュリティ基盤」「システム活用基盤」「システム連携基盤」「各種行政情報」などで構成されている。さらにそれぞれにネットワークや入出力管理、運用資源管理、ウイルス対策などの具体的な機能がある。共通利用される住所情報などは「各種行政情報」に収められている。
B区のプロジェクトでは、A区の成果を引き継ぎデータの連携基盤、職員認証基盤などのいわゆる"高次部品"と呼ばれる仕組みづくりにも挑んだ。
「プロジェクトを通して高次部品を独自に開発できたのは大きな進化でした。またこれらの部品は、導入されるシステムに応じて簡単に変更できるようにつくられていて、柔軟性が高い。つまりソリューションとして販売するときに、使い勝手の良さをアピールしやすいのです」

自治体としては、できるだけワンストップで住民にサービスを提供できるようにしたいと願っている。たとえば移転をしたら住民票だけでなく健康保険も年金も、子どもの転校手続きもといった具合に、関係するすべての変更と手続きを一度に済ませてしまいたい。それはつまり、そうしたサービスを可能にするためのシステム連携が必要だということであり、より広い範囲で連携を実現する統合基盤が必要だ。
「わたしたちはワンストップを可能にするためのシステムコンサルティングも行っており、その際にやはり重要な武器となるのがPKGなのです」

ソリューションは、トライアルとなったA区も含めて7つの自治体に導入されている。アーキテクチャーのイメージ図にあるのは、わずか数年で、一挙に進化を遂げた統合基盤の姿なのである。

またソリューションは、大手ベンダーが販売・導入する仕組みになっていて、JSOLはコンサルティングと、それぞれのケースで得られたさまざまな教訓をソリューションに環流させることに専念している。
「これはビジネスモデルとして、そのような決断をしたわけです。営業力のある大手ベンダーのほうがはるかにユーザー開拓力はありますし、わたしたちは開発の先駆者として常に新しい課題に出会える。それが結果的に、他社にはない強い商品力を得ることにもつながるのです」

苦労を重ねて生み出した故に愛着のある統合基盤ソリューション

山科は、システム統合基盤のソリューション開発に当初からリーダーとしてかかわってきたが、実はそれは、「本当に苦労に苦労を重ね、相当にまいった体験の末に生み出されたソリューションでもあった。

1962年に大阪に生まれ、関西大学の大学院を卒業して86年に日本総合研究所に入社した。大学院は土木工学が専攻で、橋梁の構造解析の研究を続けていた。そのため日本総研入社後も、大阪にあった構造解析関係の部署に配属となった。
原子力発電所などの構造解析やシミュレーションに携わった。さらに航空機の胴体の強度解析を支援するシステムや、船舶の設計支援システムなどの開発も担当したことがある。

「4カ月間の東京出張を命ず」という辞令を受けとったのは2003年のこと。A区での統合基盤構築による経営改革プロジェクトの開始にあたり、実際にシステム化し、ソリューションに仕上げる人物として山科に白羽の矢が立ったのである。
「大阪で文教向けパッケージシステムづくりなどをやっていたことがあり、それでやれるのではないかと考えられたようです。もちろん上司からは、『大阪に統合基盤の技術を持って帰るのだ』と大いに発破をかけられました」

しかし、これがとんでもないことになった。検討を重ねれば重ねるほど、従来にはないまったく新しいフレームワークが必要であることが分かり、4カ月と予定された東京出張は、現在の統合基盤フレームワークの基礎が完成する2006年まで延長に延長を重ねたのである。
「4カ月の予定が結果的に4年ですよ(笑)。しかも慣れない東京での単身生活は相当つらかったです。休日に息を抜くにも中途半端で、最後のころは本当に体力の限界との戦いでした」

乗り越えられたのは、素朴な心情であった。サイエンスがテクノロジーやエンジニアリングへと変容していく、その過程にかかわれることがなによりも好きだった。構造解析とは、科学の結果を実際のものづくりに反映させることであり、ものづくりの重要な一翼である。統合基盤ライブラリーは、まさにそれを実感させてくれるものだった。「それが分かっていたから、限界につぶされずにやりきれました」

ITアーキテクト 山科 純

フレームワークの完成後に、ついに東京本社勤務の辞令が出た。ソリューションの提供には人材の力が大きい。だから東京の上司は山科を頼りにし、なかなか出張をとかなかった。そして実際に、山科がつくりあげたフレームワークは使いやすかったのだ。

4年間の鬱憤を晴らすかのように、週末ともなるとマラソンを続けている。1回20キロほど、年間700キロは走っているという。東京マラソンにも出場して完走を果たしている。今も、運河向こうにある自宅からの通勤は歩いている。
片道3キロ。いっこうに苦にならない。
むしろ、またどんな部品を組み込んで、どんなソリューションを生み出そうかと考える重要な思索のときである。


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