(2014年06月現在)

今や、あらゆる組織において、大規模システムなくして業務遂行は不可能だ。だが、それほど重要なものなのに、「誰が、システムを統治できているのか」という疑問を探ると、そこには深い闇がある。「真の意味で情報システムをお客様主権に変え、お客様の手元に取り戻す必要がある」と訴えるのが、(株)JSOL・ITコンサルティング事業部 ITプロフェッショナル(アプリケーションコンサルタント)の大泉洋一だ。

JSOL認定ITプロフェッショナル
アプリケーションコンサルタント
大泉 洋一

「情報システムをお客様主権に変える」などと聞くと、穏やかではないと感じられるかもしれない。しかし大泉の話を聞くと、それは情報システムが定着する過程で積み重なってきた課題を解消するための、極めて明快な思想であることが分かる。肝は、情報システム開発をベンダー任せにせず、システムの透明性を高めながら、システム部門と現場の業務部門が協調しながら開発に当たる仕組みをつくることだ。

「多くの組織では、情報システムについての専門的な知見を備えた人材が少なく、システム開発を、ベンダー任せにせざるを得ない時代がありました。その象徴が、大型のホストコンピューターによる基幹システムです。ベンダーの開発者以外は、システムの肝を知らない。あえて悪く言えば、ベンダーは、お客様向けに開発したシステムの中にブラックボックスを潜ませているのです」

最近は、コストの低減やシステム拡張の容易性などからオープンシステムへの転換が進んでいるが、そこでもなお、ベンダーしか分からないブラックボックスが残っているケースが多いという。

「例えば、新しい税制に対応するためにシステム変更が必要になった場合、ベンダー各社は自社が担当する各業務システムの追加オプションとして個別の導入を提案します。価格もさほど高くないし、システムづくりの時間もかからない。だから、それを選びたくなる気持ちは分からなくはない。しかし、それを許してしまうと、それぞれの業務システムに同じ機能の仕組みが入り込み、システムは複雑さを増し、自分でコントロールできないものになってしまいます」

共通基盤と業務システムの2階建て構造に切り分ける、全体最適化

では情報システムの主権をお客様に取り戻すには、具体的にどのようにすれば良いのだろうか。大泉の思想は実に明快で、「共通基盤と業務機能の2階建てシステムを構築すること。すなわち全体最適です」と説明する。

例えば、先の税制への対応を考えてみよう。税制の変更は、どの業務にも関わる課題なので、それぞれの業務システムは対応しなければならない。だが、税制の変更がどの業務にも関わることであるならば、その対応を、業務システムではなく共通のシステム基盤でも行えるはずである。さらなる税制の変更があった場合は、共通基盤の該当部分だけを変更すれば済む。

このように共通にできる部分は共通、業務に特化した部分は業務、と切り分ける。その上で共通基盤として各業務システムが汎用的に活用できるインターフェイスを構築する。このことで、業務システムベンダーに依存しないシンプルなシステム構造を実現するというアイデアだ。
それは、システムの構造が透明性を増すことにもつながる。しかも透明性が高まれば、TCO削減に象徴される経済合理性の追求にも合致するのだ。

「システムが透明性を増せば、機能の重複がなくなり、そのためのコストの重なりもなくなります。ブラックボックスが減れば、無駄はないか、今あるシステムで何ができるか、新しいことをやるために何が必要かといったことも、自ずと明らかになってきます。透明性は、経済合理性の追究と創造の起点になるのです。環境が猛烈なスピードで変わり、しかも変化の度合いも劇的な現代において、情報システムが事業の足を引っ張ってはなりません。それを阻止するための基本的な理念が透明性なのです」

アプリケーションコンサルタント 大泉 洋一

考えてみれば、共通業務の統合化は大手グループ企業ではすでに当たり前になっている。例えば、グループ会社の総務や経理を共通業務として担当部門を集約し、業務の効率化をめざす取り組みなどは、すでに珍しくない。
だが、システム関係の統合は、それほど簡単ではない。システムの寿命は長いし、新規のシステムには多額の投資と時間がかかる。だからこそ、システム構造の2階建て化から目を逸らしてはならないと訴える。

「業務システムに横串を入れると、たくさんのものが見えてきます。縦割りで構築されたシステムの重複と、それによるコストの重複。さらには、システムの縦割りとあいまった業務の縦割り、重複。共通基盤と業務システムの2階建てというシンプルな思想でシステムを見直すと、システムの力を活用して新たなサービスを創造できることが分かってきます」

伝道者として、経営者の意志をシステムに落とし込む

大泉の仕事は、システムのコンサルティングである。と聞くと、「情報システムの主権回復」というキーワードも、コンサルタントらしい発案だと気がつかされる。だが、大泉は、理論の空中戦に熱を上げるようなコンサルタントではない。
コンサルタントとしてまとめ上げた報告書をベースに、顧客側を代表したプロジェクト・マネジャー(PM)として実際のシステム開発も指揮しているのだ。

「報告書を提出しても、システム開発を担う部隊が、その思想を実現できない事例は少なくありません。評価いただいたシステムプランを、きちんと完成させるところまで担い、その過程でお客様のシステム部門と業務部門の役割分担などの仕組みづくりも進めていきます」

建築の世界で言えば、設計家と施工監理士が一体になったようなものだろうか。設計家の考えを、きっちりと形にするために現場を指揮するのが監理士だ。
だとしても、そうした仕事はまず、顧客の情報システム部門が主体的に担っていくべきものではないのか。大泉も、「情報システム部門の職員は、業務部門のサポーターとして課題解決の主体であらねばならない。そういう認識を育てることが大切です」と語る。顧客企業の業務内容やサービスが、多様化したり高度化したりするなかで、優れた業務知識を備えた人材がシステム領域に関わっていかないと、ITそのものが業務を支援できる機能を持ち得なくなっている。

だが、それでもなお、大泉がコンサルティングから開発指揮まで一貫して担うビジネスに力を注ぐのは、情報システム部門の“翻訳機能”が、まだ十分に機能していないからだ。

アプリケーションコンサルタント 大泉洋一

「ITは、単なる道具にすぎません。大事なのは、経営や上位者の意志の実現に使われてこそITはITたり得るということです。どんなに立派なシステムでも、経営者の考えが明確でなければ宝の持ち腐れになるし、逆に経営者の思いがシステムに反映されなければITは仕事に邪魔な存在になるだけです。しかしシステムの開発部門が、経営者の意志を十分に咀嚼できず、システムという形に翻訳して落とし込めていないケースが多いのです」

例えば経営者が、ITコストのオフバランス化によって顧客ニーズに迅速に対応できるITの仕組みを構築すべきと考えたとしよう。その手段として、自社ではハードを持たず、他社のクラウドサービスを利用してシステムを運用すると決断した場合、株主総会や取締役会では、「それで個人情報保護は大丈夫なのか」という疑問が、当然出てくるだろう。
こうしたケースでは、情報システム部門はどうしても「アクセス許可の多重化」とか「ファイヤーフォールを固くする」などと考えがちで、それが複雑な仕組みにつながったりして、経営者の決断とは裏腹に不自由な状況を出現させかねない。

「重要なのは、経営者の意図をITで実現することです。私の仕事は、経営者や上位者の言葉の裏にある意志を汲み取り、その伝道者として現場に伝え、具体的な形に仕上げていく。その点で、システム開発に専念してプロジェクトをリードするPMとは、ちょっとニュアンスの異なる存在かもしれません」

「ITが生み出すベネフィットで、お客様からいただいた報酬を返す」

コンサルティングと実際のシステム開発の指揮までを一体とするビジネスモデルを展開しているのはJSOLの強みである。大泉が、このビジネスモデルの構築に取り組み始めたのは10年ほど前から。その大きなきっかけは、「悔しさにあった」という。顧客の将来を思い、力を注いでコンサルティング報告書をまとめても、システム開発の現場ではそこに込めた思想は実現されない。

アプリケーションコンサルタント 大泉洋一

「コンサルティングは高いお金をいただきます。しかし、システム開発には関わらないために、出来上がったシステムが換骨奪胎されて、想定した利益をお客様にもたらしていない現実がありました。旧・日本総研の時代から『当社はITが生み出すベネフィットで、いただいた報酬をお客様にお返ししなければならない』と言っていましたが、まさに、それを実現させることが求められていました」

ITの進化により、共通基盤と業務システムというシンプルな構造でシステムをつくることが可能になり、大泉のビジネスモデルもまた実現の基盤を得られるようになった。

大泉の話は非常に論理的だ。取材メモは、そのまま談話原稿になる。これは、大学で数学を専攻した“数学脳”によるものなのか。

最後に、プライベートなことを書き留めておこう。
家族は、妻と19歳、16歳、14歳の2男1女。長男が中学入学前に、沖縄本島の東南端沖合にある人口200人足らずの離島への山村留学を希望した。小学校を出たばかりなのに親と離れて暮らす。
なぜ息子が、そのような決意をしたのかは、大泉は説明しない。
だが、「何か行事があると現地を訪ねました。再会ごとに息子の成長に驚きます。子どもたちは、自分の力で生きているという実感が持ちたかったのかも知れません。その自覚が成長の原動力なのだと思います。」と語る。

そして、次男、長女も兄に続いた。
「島で頑張っている子どもの姿に対して恥ずかしくない親でいたい、そういう姿を見せたい。それが私の仕事の原動力にもなっています」
この、子どもたちが自立へ突き進む姿と、大泉が“情報システムの主権回復”を訴える姿勢が、強烈に重なってくる。


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