(2016年10月現在)

企業間や業界の壁を乗り越えて電子データの交換を可能にするEDI。その広がりは、企業だけでなく業界の競争力を規定するまでになってきている。JSOLでEDI関連のサービスの共通基盤の設計やサービス全体をコントロールするサービスマネジャーとして活躍しているのがJSOL認定プロフェッショナル(ITアーキテクト)の香坂真人である。

JSOL認定プロフェッショナル
ITアーキテクト
香坂 真人

ミッションクリティカルな任務を高信頼で運用

突き詰めれば、部門や企業、業界の壁を気にすることなく、取引が発生した時点のデータが一気通貫で取引終了に至るまで活用できれば業務データの処理は格段に効率的になる。
実際、そのような仕組みはすでに稼働している。EDI(Electronic Data Interchange=電子データ交換)で、その具体的な手法を示しているのが全国銀行協会の「全銀手順」や、メーカー・卸・小売りなどの流通事業者が利用している「流通BMS」などである。例えば流通BMSでは、流通事業者は発注、出荷、受領、支払、請求などのデータを高速かつ低コストで交換できるようになっている。

ただ、事は、そう簡単ではない。例えば流通BMSも通信階層ではebMS、JX、AS2と3種類のプロトコルがある。A社ではebMSのみを取り入れ、取引先のB社ではJXのみ取り入れていると通信手段(プロトコル)が異なっているために相手方に合わせたプロトコルを別途用意しなければならない。
また受発注などのデータを、どのような"書式"(フォーマット)でシステムに取り込んだり印字したりするかは、いわば企業独自のノウハウであり、取引先から受け取ったデータは自分たちのフォーマットで見、分析したいと考えるのは当然だ。

「プロトコルの違いを超えてデータを交換するだけならばさほど難しいことではありません。重要なのは『データのなかには貴重な情報が含まれており、それを自分たちのシステムに素早く、確実に、低コストで取り込み、自分たちのフォーマットで分析したい』という要望があることです。そうした課題に応えるのが、『EDIサービスプロバイダー』です」と香坂は説明する。

EDIサービスプロバイダーは、いわば複数の通信手順の違いを受け止め、さらに相手先のフォーマットに変換した上でデータを中継する。A社とC社がB社にデータを送る際、それぞれのフォーマットがすべて異なっていたりすると、EDIサービスプロバイダーは、A社とC社のフォーマットをB社の専用フォーマットに"翻訳"(変換)してB社に届ける。その逆のパターンもあり得る。

「EDIサービスプロバイダーは、中継VANとも呼ばれます。データを送る側とデータを受け取る側の間に立ち、両者のギャップを埋めることで付加価値を届ける機能と言っていいでしょう」

つまり各企業に導入されているERPなどの基幹システムの一番前にあって出入口としての役割を果たしているのがEDIだ。

EDIサービスを運営している事業者は各々得意分野を持っている。JSOLは流通系や金融系に強みを持つ。
流通業におけるJSOLの顧客は主にメーカー。つまりメーカーの得意先である小売り事業者との接続をサポートしているパターンが多い。取り扱いデータでは発注データ(EOS=Electronic Ordering System)が多く、JSOL EDIサービスに障害が発生するとメーカーは小売り事業者から注文を受けられなくなる。きわめてミッションクリティカルな仕事だ。

「JSOL EDIサービスをご利用いただいているお客様は、メーカーが多いということもあり、非常に安定した信頼性の高い運用を求められています。毎月1回、2時間のメンテナンスでの休止以外は、24時間、365日の運用がなされています。これはお客様からEDI業務を委託していただくにあたり十分な運用実績と胸を張っていいでしょう」

業界VANやFBでもプレゼンスを発揮

EDIを考えると、もう一つの発展系も考えられる。ある業界が、「私たちの業界内だけでもフォーマットやレイアウトを統一して効率的にデータをやり取りできるようにしようではないか」と合意し、決められた標準ルールでデータのやり取りをする。
だが、膨大な数にのぼる取引先同士のそれぞれが、勝手に複数の取引先めがけて直接データを送る事は非効率である。集荷して中央ターミナルを経由せずに相手先に配達するようなイメージだ。
そこで、やりとりするデータを受け取り(=集荷)、送り先ごとに分割したりデータのセットをしたりして(=中央ターミナル)、受け渡しをする機能(=配達)がEDIサービスにはある。これは「業界VAN」と呼ばれるサービスだ。

「契約上、数は明かせないのですが、現在、JSOL EDIサービスの上で数多くの業界VANが稼働しています」

EDIサービスプロバイダー側からの業界VANの運営提案では、2つの点が重要になる。つまり、業界標準のルール策定までのコンサルティング活動と業界ルールを遵守してもらうための啓蒙活動。もう一つが業界全体にとって有益となる新サービスの提案だ。
つまり個社別のEOSでは違いを吸収してつなぐことに価値があったのとは正反対に、業界VANでは利用企業が、「このルールならばうちも乗れる」と確信できるような仕組みづくりの提案力が問われるのだ。
しかもそのルールが、利用企業に従来にはない業務の効率化をもたらすものでなくてはならない。

ITアーキテクト 香坂 真人

「業界VANで扱うデータの種類は、受発注などの売買から収支関連、物流管理に至るまで業界で定義されたすべてのデータを扱うために、障害が発生すると大規模な影響が出ます。EOS同様に、ここでもJSOLの安定運用には高い評価をいただいています」

JSOL EDIサービスには、実はもう一つ、別の形がある。銀行との決済データ、照会データをやり取りする「FB=Firm Banking」だ。
取引先は多くの銀行の多くの支店で決済を行っており、その口座振替依頼や口座振替結果データのやりとりを行おうとしてもシステム規模によっては対応できない。また個別に対応していては運用コストもかさむ。
そこでJSOL EDIが銀行の膨大な数の口座振替データを企業の代わりに送受する。

「FBにおけるJSOL EDIサービスの付加価値は、代行してとにかくデータを受け取り、データを送る、という点にあります。もう一つ、お金を取り扱うEDIの特徴として、銀行などどこかで機器のリプレースが入るときに入念なテストを実施することがあります。中継VANとして、テストに関する段取りを一括して調整する点も、私たちの重要な付加価値だと考えています」

「JSOL EDIサービスの最大の強みはきめ細やかな運用」

JSOL EDIサービスが高い評価を受けている背景には、先にも紹介したような毎月1回、2時間のメンテンナンス休止だけで24時間、365日稼働する高い安定運用力の他にも、「お客様の立場にたった運用サービスと評価いただいている」(香坂)というきめ細やかなサービスがある。
代表的な例として顧客先企業に代わってきめ細かくデータの流れをフォローしてもいる「0件確認」がある。例えば大手のメーカーがJSOLの顧客で、その取引先としてスーパーがつながっている場合、EOSではメーカー(JSOL側)からスーパーに対して注文データを取りにいくケースが多い。
しかし時には、注文数が「0件」の場合がある。これは本当に0件なのか、それともスーパー側のシステム障害なのか。当然、両方の可能性が考えられる。
JSOL EDIサービスには、曜日別時間別スケジュールマスターを保持し、例えば月曜日の朝10時の注文データ受信処理でデータが0件の場合は、「0件確認」としてアラームを発する機能を備えている。アラームが発生するとJSOL EDIサービスのオペレーターがスーパー側に確認を取り、本当にデータなしでよいかどうかを確認する運用サービスを標準で提供している。

ITアーキテクト 香坂 真人

「大手お客様のEDIであれば、0件確認が1カ月に300件程度発生します。それをJSOL EDIのオペレーターが確認し、お客様であるメーカーに確実に注文データをお届けするサービスを用意しているのです」

また、より簡便にEDIを活用してもらうために、Web画面を利用して受発注などを行う「Web-EDIサービス」も提供している。Web-EDIとはインターネットに接続できる環境があれば企業間でのデータ交換が可能となる大変便利な機能である。

「Web-EDIでは、JSOLは多くの大手の小売業やジェネリック医薬品メーカー向けにサービスを提供しています。特にジェネリック医薬品メーカー向けWeb-EDIは、製薬メーカーと販売代理店それぞれの業務効率化に大きな貢献を果たし、大変ご好評をいただいています」

香坂はJSOL EDIサービスの優位性について、「インフラを提供する装置産業にとどまるのではなく、利用企業の業務内容を把握したうえで、EDIの観点から何ができるか、何をしたら利用企業にとってハッピーかを常に考えている点にあります」と言う。
0件確認もそうしたニーズから生まれたサービスだった。

インフラ、EDIといった言葉は、ともすると会計システム、販売システムといった業務系システムとは異なる意味合いを持たれることが多い。しかしJSOL EDIサービスは、利用企業の業務を熟知した上で、さらにお客様に求められていることを把握し、どんなサービスを提供すればいいのか、そのサービスは標準で提供できるものなのか、それともADD-ONが必要なのかを考える。
接続部分だけを考える役割から常に一歩踏み込んでいる。それが装置産業にとどまっていない証左でもある。
もちろん装置産業としての責務、つまり新しいプロトコルの素早い導入といったサービスメニューの拡充についても万全を期している。昨今話題になっているISDN廃止、いわゆる2020年問題についても、代替プロトコルの設置をタイムリーに実施しており、利用顧客に対して啓蒙活動を行っている。

「フォーマットや手順などさまざまな違いを柔軟に吸収する"ショックアブゾーバー"としての機能と、そこに業務・業界に対する深い知見を加味することで、お客さまの事業展開の新たな可能性をご提供する。そこにこそJSOL EDIサービスの意義と狙いがあります」

EDIもバイオリンも基本はハーモニー

EDIとは、言葉を換えれば「取引先とのハーモニーを創造するサービス」と言えるかもしれない。共通のプラットホームを活用して互いの違いを乗り越え、データの美しい流れであるハーモニーを生み出す。

こんな書き出しを思いついたのも、香坂の履歴が非常に興味深かったからだ。ミッションクリティカルなインフラ系のシステムの開発や普及を担っているが、大学で学んだのは日本文学だ。しかも研究対象としていたのが平安文学だった。
さらに平安文学のなかでも研究していたのが『夜の寝覚め』。作者不詳ながら(菅原孝標の娘の説も)、『源氏物語』の影響を色濃く反映し、落丁が激しいがために研究心をくすぐる名作だ。これは「かなり通好みの研究」と言ってもいい。

「卒業時には、ものを書くのが好きなので出版社や新聞社をめざそうと思ったのですが、ハードルが高かった。就職氷河期でもあり営業マンになる覚悟を決めて化学系の専門商社に就職しました」

 ITアーキテクト 香坂 真人

しかし決意とは裏腹に、配属されたのは情報システム部。どうやら適性検査の結果で単純に配属が決まったらしい。「キーボードを触ったこともない男が、情報システム部です。正直、嫌でしたが、やるしかないですから」と笑う。
大手コンピューターメーカーの研修所に通って勉強を続けたが、「帰り道はいつも泣いていました」。しかし、芯の強さを失うことはなかった。
「大学時代に指導教授から、一つひとつのことを調べていけば、それが自ずと己の考えになるものだ、と言われました。分からないならばどうするかを考えねば、と前向きに取り組みました」

そうすると転機は必ず訪れるのである。入社2年目に、EDIの構築担当を命じられる。ここが本当の運命の分かれ道だった。
「EDIは他社も関与してくるので、システム開発の影響範囲は広く、責任も重い。それは大きなやりがいにもなりました」
ついにはEDIを究めたいと考えるようにまでなった。32歳のとき、旧日本総研(JSOL)への転職試験に臨んだ。
「面接では、それほど積極的にEDIとは言わなかったのですが、逆に面接官がしきりにEDIのことばかりを聞くのです。いえ本当の偶然なのです」
入社後は、願い通りEDI一筋。あらゆる案件に取り組み、新しいネットワーク技術やデータ処理技術を学び、JSOLのEDIサービス事業をリードしてきた。
「偶然とはいえ、こんなに恵まれるとは思っていませんでした。やりたいことを、とことんやらせてもらっています」

趣味は子どものときに習っていたバイオリン。3年前に新居を構えたのを機に、すでにバイオリンを習っていた夫人と2人の娘さんに触発されるように自身も練習を再開した。家族と一緒に発表会に出ることもある。
「人前で演奏するのは目茶苦茶に緊張します。仕事の比ではありませんよ」
香坂には夢がある。娘さんとJ・S・バッハの『ドッペル~2つのバイオリンのための協奏曲』を弾くことだ。
音楽にうとい筆者はYouTubeで確認。バックのバイオリンやチェロの奏者たちがまるで丘の上に風が吹いているような情景を創りだし、そこで2人のバイオリニストが、会話を楽しむように短音が続くメロディーを奏でる。会話で「そうよね」と相づちが打たれたような瞬間に、バックと一体になった伸びやかな演奏になる。
「このハーモニーは、まさにEDIそのものではないか」そんな風に感じたのである。


  • 本ページ上に記載または参照される製品、サービスの名称等は、それぞれ所有者の商標または登録商標です。

  • 当コンテンツは掲載した時点の情報であり、閲覧される時点では変更されている可能性があります。また、当社は明示的または暗示的を問わず、本コンテンツにいかなる保証も与えるものではありません。

関連リンク

もっと見る