(2008年04月現在)

「人は石垣、人は城」を、いつ忘れてしまったのか

製造営業本部
名古屋支社長
銅伝 由香

企業にとって人材の持つ価値が再び上昇している。
新卒採用では「就職氷河期」は過去の話となったとされるし、中途採用の枠は拡大を続ける一方だ。それは、人が絶対的に足りないからであるが、派遣労働者やパート従業員の正社員化の動きは、「人的資源」という表現で人材をあたかも資本や設備と同じような「物的資源」ととらえる流れに対する見直しだろう。
そもそも日本には、人材をかけがえのない貴重な存在と捉える文化が古くからあった。「人は石垣、人は城」という言葉は武田信玄のものとされる。人材の価値を再評価するかのような最近の流れは、企業があらためて人の貴重さを見直しているからにほかならない。

こうした動きとITサービス業界も無縁ではない。そこで進むオフショア・アウトソーシング(海外への業務委託)は、国境を超えてまで人材を求め、活用しようとする試みの一例だ。
また一方で、国内・社内の人材こそが業務や経営の鍵であることも変わってはいない。特に、顧客の抱える課題に解決策を見出すことが使命であるソリューションプロバイダー企業にとっては、高い技術力と知見を持つ人材の価値は、従来よりもさらに増している。

人材の確保と育成は、課題の克服が目標の実現に直結しているテーマだ。
つまり、採用や定着の難しさが増すなかでは、人材の確保と育成は克服しなければならない課題だ。だが、それをいち早く乗り越えた企業だけが競争力を強められるという意味ではめざすべき目標であるのだ。

この課題にして目標であるテーマに、日本総研ソリューションズの人事関係部員としてではなく営業の現場で取り組んでいるのが銅伝由香だ。
“本業”はさまざまな業種のメーカーにソリューションを提案・提供する製造営業本部の管理職。だが、銅伝には別の顔がある。社長直属の機関である通称「女性諮問委員会」の委員長でもあり、また、『女性を活用できない会社に未来はない』(講談社)なる刺激的な書の共著者でもある。

そのミッションは本人によれば、「採用や教育に高いコストをかけた人材が、できるだけ長く働けるよう、環境を整えること」特に、男性に比べて定着率の低い女性に焦点が絞られている。

「あれだけ女性を採用しているのに・・・」

「出産や育児、介護といったライフ・イベントの比重が男性より大きくなりがちで、そうなると退職してしまうことの多いのが女性。一方で、採用の段階では能力もモチベーションも、むしろ男性より高いくらいなのが女性でもあります。そういう女性たちが、仕事と生活のワーク・ライフ・バランスをうまく取って、長期にわたって両立できるような会社にしていきたい」

日本総研ソリューションズが、こうした考えのもと、女性諮問委員会を立ち上げたのは2006年12月のことだった。社長直轄プロジェクトとなったのは、「あれだけ女性を採用しているのに、何年か経ってみるとかなりの人数が退職している。」という問題意識が経営サイドにあったためだ。

銅伝 由香

一般的には、ソリューションプロバイダーという業種には、女性が活躍しやすい場との印象が強くある。特にシステム開発では、インターネットにつながったコンピューターさえあればいつでもどこでもできる仕事というイメージがあり、実際、海外へのアウトソーシングの実例も多い。
だが、開発の現場では、クライアント企業への常駐は普通にあることだし、労働時間も決して短くはない。営業職などでも、クライアントとの擦り合わせに空白は許されない。ライフ・イベントを機に退職・休職した女性が長期にわたって在宅などで手がけるのは難しいのが実態だ。
その点で、日本総研ソリューションズが抱えていた課題は、ソリューションプロバイダー独自のものというより、むしろ多くの日本の組織が共通して抱えていた課題でもあった。

そうした課題の解決に取り組むプロジェクトのトップに選ばれた理由について銅伝は、「社内の女性では数少ない役職者ということもあるでしょうし、必要なら役員にも直談判するようなところが、この役目には向いていると判断されたのかもしれません」と語る。
そして、もう一つ大きいのは、企業向けソリューションの営業担当者として多くの企業の人事体系やその改革などの現場に接してきたことだ。

これまで銅伝が、女性の権利について声高に唱えたことはないし、むしろ男勝りと形容してもいいタイプ。営業部門で数々の実績を挙げ、部下や同僚が銅伝を慕って催す酒席は、冗談まじりに「舎弟会」と名付けられている。
そうした来歴ゆえなのだろう。女性諮問委員会でも大所高所から理想を説くスタイルは採らなかった。中間報告をまとめるにあたっては、さまざまな職場の女性たちの要望を集め、委員会の同僚と具体的な意見を出し合った。

その結果、委員会設置からまだ日が浅いにもかかわらず、育児休職期間の延長や看護休暇の拡大(「社員1人あたり年間5日」から「社員の子供1人あたり同5日」へ)、フレックスタイム制ゆえに扱いが曖昧だった半日休の制度化といった改革が実現している。委員会は引き続き活動を続けており、今後も提案を続けていくという。

社内改革から「女性活用」ソリューションの提供へ

銅伝 由香

委員会の提言する女性社員支援策が矢継ぎ早に制度化されることについて、銅伝はこう見ている。

「当社はかつては普通の日本企業で、いわゆる『女性に優しい会社』ではなかったと思います。一方で、男女を問わず、声を上げる社員がいれば、その声には耳を傾けてくれました。今は経営の側も『働いてほしい』、女性社員の側も『働きたい』という具合に思惑が一致したことで、私たち女性の声がこれまで以上によく通る会社になったのでしょう」

銅伝個人も、社内で自分の声を通してきた経験者だ。新卒採用時は一般職として入社し、しばらくは営業部門の事務を担当していた。そこで営業に強い興味を持ち、上司にかけあって女性営業担当総合職になった経歴を持つ。家族の介護で出社が困難だった時期には、モバイル環境を活用して社外で仕事を続けることを認めてもらったこともある。

「女性だから大切にされて当然という考え方を私は持っていませんし、女性諮問委員会の提言も、実は男女ともに働きやすい会社にするためのもの。しかし、少子高齢化が進むなかで、優秀な人材を確保することは当社以外の企業のマネジメントにとっても急務です」

女性を活用できない会社に未来はない!

もちろん、「優秀な人材」は女性に限らないがが、今の日本でこれから活用できる層として豊富なのは女性--。
そうした思いから、企業の人事コンサルティングを専門とする角直紀氏(日本総合研究所人事戦略クラスター長)と共同で『女性を活用できない会社に未来はない』も上梓した。「掛け声ばかり。本当に女性活用できるのか」「どうして女性を特別扱いしなくてはならないのか」「たかが事務職されど事務職」といった、建前ではない文言が目次に並ぶ。

今後は、社内の女性諮問委員会での活動に加えて、「女性活用」の考え方と技術をクライアントに提案していくことも新たな業務として加わりそうだ。日本企業にとって人材の価値が上がり続けている今、同性に着目した銅伝の提供するソリューションの価値もまた高まることになる。


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