グループ会社の急増に伴う個社システムの併存リスクの高まり
経営の高度管理のため統合情報基盤をSAP®ERPで構築

医薬品開発支援の日本におけるパイオニアであるシミックホールディングス株式会社。事業成長やM&Aによるグループの拡大に伴う基幹システムの併存は、ITガバナンスや連結会計の精度確保などに大きな課題となっていました。このリスク拡大に、JSOLをパートナーとして取り組んだのがSAP®ERPによる新たな統合情報基盤の構築でした。本格稼働を始めた新基盤は、経営の高度管理と"One-CMIC"というグループシナジーの創出をもたらしています。

新薬開発のバリューチェーンをサポートするパイオニア企業

シミックホールディングス(旧シミック)は、1985年の創業で、日本で初めてCROビジネスを始めた業界のパイオニア企業です。

CRO(Contract Research Organization)とは「医薬品開発支援」のことで、製薬会社が行う臨床試験に関わる臨床開発モニターやデータマネジメント、安全性管理などの業務を代行・支援します。最近は、医薬品の国際共同開発にも深く関わるようになっています。

シミックホールディングスは、CROだけでなくCMO(医薬品製造支援)、CSO(医薬品営業支援)、ヘルスケア、IPD(知的財産開発)などの周辺事業を拡大し、開発から製造、営業・マーケティングまで製薬企業のバリューチェーンをフルサポートする体制を整えてきました。その発展は、事業成長に加え積極的なM&Aによってもたらされましたが、その結果、2002年の株式公開時には5社であったグループ会社数は、2014年9月期には22社にまで増加しました。

シミックホールディングス株式会社 IT総務統括部長 IT部部長 北中 詠司 氏

シミックホールディングス株式会社
IT総務統括部長 IT部部長
北中 詠司 氏

この急速な事業発展とグループ会社の増加は、同時にITシステム、特に基幹システムの運用に大きなリスクをもたらし始めていました。

北中詠司・シミックホールディングスIT総務統括部IT部長は、「一口に製薬開発のバリューチェーンと言っても、買収した会社には業態の違う会社があり、基幹システムの作り込みも異なっていました。必然的にITオペレーション支援の分散化や非効率化が顕在化してきました。システムの相違を穴埋めするために、担当者も全容をつかみきれないようなアドオンが多発してTCOも増加。こうした事態を放置しておくと、ITガバナンスを確保できないだけでなく、ビジネスモデルの拡大や法制度の変更、さらには国際共同開発などに対応できなくなってしまいます」と語ります。

異なるシステムの混在は、業務の現場にも大きな影響を与えていました。

同社財務経理部の杉浦和幸部長は、「会社によって勘定科目が異なり、連結会計のエビデンスの精度が高まらないので連結納税制度に踏み切れない。将来のIFRSの強制適用にも不安が残っていました。アドオンの多発による開発費用や保守料の増加は無視できないレベルにあり、さらにプロジェクトごとの損益を明確にできないことにも頭を悩ませていました」と解説します。

また人事部門を統括するコーポレートサービスグループ部長の西田恭子執行役員は、「グループ会社の社員数も毎月、各社から報告を受けるような状態で、しかも5つの事業が単位事業として成長してきたためにグループのヒューマンリソースを把握して最適化を図るにも壁がありました」と語ります。

こうした事態を受けてシステムの刷新が急務となり、取り組まれたのがSAP®ERPを活用した新たな「会計と人事の統合情報基盤の構築」でした。

会計と人事領域での統合を計画
グループシナジー創出の前提基盤をめざす

シミックホールディングスのSAP®ERPをベースにした会計と人事の統合情報基盤の構築は、まず国内のグループ会社12社を対象に行われることになりました。

ベースとなるERPパッケージに「SAP®ERP 6.0」が選定されたのは、広範な業界への豊富な導入実績と世界シェアトップの高い信頼性があったこと、また内部統制やSOA(サービス指向アーキテクチャー)への対応力を備えた堅固なIT基盤であることなどによるものでした。さらに業務の標準化や効率化が促進され、拡張性が高いことも高く評価されました。

シミックホールディングス株式会社 財務経理部 部長 杉浦 和幸 氏

シミックホールディングス株式会社
財務経理部 部長
杉浦 和幸 氏

プロジェクトではまず、会計と人事領域のそれぞれにおける「目的とゴール」が確認されました。

会計領域では、「シミックグループの事業目標達成や業績向上に向けた施策決定に資する経営管理基盤をめざす一方、連結決算の早期化とIFRS対応など、法制度の変更にも柔軟に対応できる体制を整えておく」(杉浦部長)。

具体的なゴールとして、(1)引き合い・見積もり時に戦略的な売価設定ができる、(2)見積もりの設定時のコストと実績のかい離をタイムリーに把握し、適切な手を打てる、(3)プロジェクト別・組織別の収支見通しの精度向上により、全体最適の観点から意思決定のための材料をフレキシブルに提供できる、(4)統一されたシステム基盤により決算データの収集や集計、グループ間取引の集計や照合における業務効率化と当月内開示を実現する、(5)来るべきIFRS強制適用に備えて会計ルールやシステム対応の準備を完了する、という5つが設定されました。

一方、人事領域では、「約5,500人にのぼるグループ従業員の資格情報などを一元的に把握できるタレントマネジメント基盤と、カンパニーや事業領域を超えたリソースマネジメントを可能にする人材管理基盤の2つを構築する」(西田執行役員)。

その上でゴールとして、(1)全従業員のタレントを俯瞰的にデータで把握、分析ができる、(2)要件に合致する人財を効率的に条件抽出できる、(3)事業、グレード、稼働状況、職務などのさまざまな切り口で適時に最新の人財情報を抽出し、定量分析できる、(4)勤怠管理、給与計算業務などのシステムアウトソーシング先の統廃合を進めてグループで標準化された業務が遂行できる、の4つが設定されました。

北中部長は、「グループの発展は喜ばしいことですが、それ故に出現した情報基盤の課題に適切に対処し、“One-CMIC”というグループ経営の体制とグループシナジーの創出を加速させる基盤を構築するのが私たちのミッションでした」と語ります。

シミックホールディングス株式会社 執行役員 コーポレートサービスグループ部長 西田 恭子 氏

シミックホールディングス株式会社
執行役員
コーポレートサービスグループ部長
西田 恭子 氏

“One-CMIC”の実現に向けて早くも成果
難易度の高いディザスタリカバリーや仮想化を低コストで実現

シミックホールディングスのプロジェクトで支援ベンダーに選定されたのがJSOLでした。両社は、プロジェクトを進めるのにあたり、いくつかの基本方針を確認します。

まず現行業務を追認せず、業務のあるべき姿を描いた上でERPパッケージのTo-Be業務プロセスや機能を活用すること。アドオン開発は極力行わない。課題は、早めに、その都度ステアリングコミッティーに報告・相談して、全体最適を検討しながらスピーディーに対応策を決定する、などです。

「特に、アドオン開発を抑えるのは重要な課題でした。これまでは、新たなグループ会社のシステムに全体のシステムが引っ張られる形になり、アドオンが"増殖"する状態にありました。この悪循環を断ち切りたかった」(北中部長)

技術面では、SAP®ERPが備える7システム(ERP、BWなど)を仮想化して集約し、かつ東京と沖縄でのディザスタリカバリー体制を実現するという難易度の高いテーマもありました。

またWindows Hyper-Vで仮想化を実現することで他の仮想化ソフトに比べてコストを抑える方策が採られました。さらにJSOLが提供するERP導入のための独自のテンプレートモデル「J-Model」を活用して、インターフェースの標準化を実現しただけでなく、トラブル発生時にシミックのIT部門がスムーズに対応できるリラン(障害対応後にバッチを再度実行すること)がしやすい設計、実装という配慮もなされました。

約14カ月のプロジェクトを終え、統合情報基盤は2014年10月から本格稼働を始め、早くも大きな成果を出し始めています。

まず会計領域では、会計情報の一元化が実現。ゴールとしていた決算データの集計、グループ内取引の照合などの業務も飛躍的に効率化されました。またSAP®ERPのBW(ビジネスウェアハウス)の活用によりタイムリーな計数分析が可能になっています。例えば、アクティビティ別工数レポートを作りプロジェクト別、アクティビティ別の作業時間の可視化ができるようになっています。

「プロジェクト別原価計算の導入で個別の損益が可視化できるようになり、予算を使いすぎている場合には人事システムと連携しての能力別投入策などを検討できるようになりました。今後、プロジェクト内容における見積もりと粗利の相関などを分析していけば、根拠に基づいた適正で説得力のある見積額を、他社に先駆けてお客様に提示できるようになります」(杉浦部長)

一方、人事領域でも人事情報の流通が飛躍的に増えています。グループ内のヒューマンリソースの現状を即座に把握でき、能力マネジメントや後任者計画に適切な基礎資料が提供されています。ちなみに、システム上で従業員の処遇やグレード管理を統一したことにより、グループ全体での処遇分布も把握できるようになりました。

電子申請の体制が整い、勤怠管理や給与計算業務などでアウトソーシング先の統廃合を行ったこともあり、業務フローの標準化と効率的な運用が実現しました。

「テクニカルな部分では、経理システムとの連動により人件費の分析を通じた固定費と変動費の振り分け策などが検討できるようになったのはありがたいですね。いずれにしても、従来は人事面での“One-CMIC”という施策の実現が難しかったのですが、今回のシステム連携で一歩前に踏み出すことができました。立派な器ができましたので、今後は、もっともっと活用するための手法を考えていかなければなりません」(西田執行役員)

データ移行を経て新たな統合情報基盤が稼働したのは10月1日。シミックホールディングスの決算期は9月のため、新年度入りの10月からすぐにシステムの真価が問われましたが、なんら問題がないまま導入後初めての決算開示にこぎ着けました。シミックでは、経営の高度管理化に向けた基盤が、しっかりと構築されたのです。

システム全体イメージ図

システム全体イメージ図

「一緒に仕事を変えてくれる」JSOLという存在
JSOLがPMを推進してプロジェクトが締まった

今回、JSOLはメインベンダーとしてプロジェクトをリードしました。JSOLは、1995年以来SAPの導入ビジネスに取り組み、特に医薬品業界やヘルスケア業界では50社以上の導入実績を誇っています。事業再編に伴うシステムの統合も多く手がけており、それらの成果としてJ-Modelには医薬品業界向けのテンプレートが用意され、短納期、高品質、低リスクでのシステム構築を可能にしています。

JSOLをメインベンダーに選んだ理由を北中部長は、「経験豊富なプロジェクトマネジャーと組織力、J-Modelに象徴されるシステム開発の蓄積などは従前から評価していましたが、最も重要だったのは、業務を変えていくための頼もしいコミットメントが感じられたことです。簡単に言えば、私たちと一緒に仕事を変え、一緒に価値を創造してくれる会社であるという信頼を感じました」(北中部長)。

そして統合情報基盤の本格的な稼働を受け、プロジェクトを振り返り、北中部長は次のようにも語ります。

「マルチベンダー体制のプロジェクトでは、こちら側にリード力がないとプロジェクトの統率が取れません。しかし、当初はSAPベンダーとして入ってもらったJSOLがプロジェクトマネジメントを強力に支援してくれたことで、プロジェクトが締まり、流れが生まれました。今回は、私たちIT部門も学び、鍛えられることができたプロジェクトであったと思います」

プロジェクトの推進にあたっては、JSOLは難度の高い技術テーマに取り組むだけでなく、統合情報基盤による“One-CMIC”の実現を側面から支援する活動も展開しました。つまり、シミックグループ各社のIT部門のキーマンや経理担当者などを対象とするテレビ会議、システム説明会などを頻繁に実施。「従来のままでよい」という意見もあるなかで、グループ全体の利益を意識した基盤構築の重要性をアピールしてきました。

西田執行役員は、「開発中は、社内で一番最後に帰るのはいつもJSOLのスタッフの皆さんでしたね」と笑いながらも、「こちら側の立場で考え、関係者に開発の意図を伝える“福音伝道者”としての活動も展開してくれたのはありがたいことでした」と振り返ります。

杉浦部長は、「自分勝手に走らず、終始一貫して同じ責任者が対応をしてくれました。これは何気ないことですが、仕事をお願いしている側にとっては非常に重要で安心につながるものでした」と評価します。

JSOL側のプロジェクトリーダーを務めた宮下雄介(製造ビジネス事業部グループマネジャー)は、「シミック様からはプロジェクトの早い段階から数多くのご意見をいただき、トップダウンによる迅速な意思決定など最後まで確実にコントロールいただけました。また、各種の技術検証のための環境準備にもご協力をいただき、非常に恵まれた環境で進めさせていただくことができたプロジェクトであったと思います。今後はデータ分析、活用の手法などをお手伝いしながら、シミック様のグループ経営のシナジー最大化に貢献したいと考えています」と語ります。

事業発展に伴う経営の高度管理体制の構築は、シミックホールディングスのようなミッションクリティカルな業務には不可欠のもの。その課題に、JSOLが的確かつ機動的に解決策を提示することができたプロジェクトとなりました。

シミックホールディングス株式会社 西田氏、北中氏 杉浦氏とJSOLメンバー

前列左から、シミックホールディングス株式会社 西田氏
JSOL 宮下グループマネージャー
後列左から、シミックホールディングス株式会社 北中氏、杉浦氏、JSOL 中村、増田

企業情報

シミックホールディングス株式会社

会社名

シミックホールディングス株式会社
CMIC HOLDINGS Co., Ltd.

本社所在地

東京都港区芝浦一丁目1番1号

設立

1985年

資本金

30億8,775万円

従業員数

5,479名(連結子会社含む / 2014年9月30日現在)

事業内容

CRO(医薬品開発支援) 、CMO(医薬品製造支援)、CSO(医薬品営業支援)、ヘルスケア、IPD(知的財産開発)

ホームページ

(2015年04月現在)


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