異なるシステムのデータを集約・一元化して経営視点での業務のあり方を創造する

三和化学研究所(本社・名古屋市)は、糖尿病関連の医薬品で知られる医薬品メーカー。医療費抑制に伴う薬価の低下などで経営環境が厳しさをますなかで取り組んだのが「マネジメントポータル構築プロジェクト」でした。独立した4つの主要システムのデータを、JSOLが提供するデータ集約・一元化ソリューション「J'sPATTO」で統合。分散していたデータが統合されることで、「全社が統一した経営指標で管理したり、業務を見直せたりする"見える化基盤"」が実現しました。

データが連携していないを解消する
「マネジメントポータル構築プロジェクト」

1953年創業の三和化学研究所は、特に糖尿病分野での医薬品、診断薬、ヘルスケア製品で知られています。医薬品では、糖尿病食後過血糖改善剤「セイブル錠」、選択的DPP-4阻害剤*1 「スイニー錠」の他、痛風・高尿酸血症治療剤「ウリアデック錠」の3製品が主力になっています。

特にスイニー錠は、1日2回の投与で血糖値の上昇をより強く抑えられる特性と、セイブル錠との併用によって24時間にわたり良質な血糖コントロールができることにより医療現場から高い信頼を得ています。

今後も、糖尿病合併症や腎臓・透析領域で開発範囲を広げており、毎年、新しい医薬品を上市できるパイプラインを整えています。また後発医薬品市場が急拡大しているなかで、独創的な製剤技術である「OSDrC」*2 をバネに、受託製造と後発医薬品の高付加価値化にも取り組んでいます。

厳しい競争に立ち向かいながら事業発展のペースを加速させる際に、1つの大きなネックがITシステムのなかにありました。システム間のデータ連携ができていなかったのです。同社には4つの主要なシステム情報源があります。つまり、
 

  1. 基幹システム=品目別売上高や売上原価、経費、予算や実績を扱うシステム

  2. 実消化システム=卸から医療機関や薬局に実際に販売された額を基にした売上高やMR(医療情報担当者)別の実績、施設別や地域別実績を扱うシステム

  3. SFAシステム=営業担当者支援のシステムで医師別の訪問実績情報、医師の属性情報を扱うシステム

  4. 社外情報=品目別の市場シェアなど第三者機関が提供する関連情報

です。

しかしながら4つのシステム情報源は独立・分散しており、各種の行動分析や業績分析、経営管理に資するデータを得ようとすると、それぞれのシステムからデータを抜き出し、表計算ソフトをベースにまとめなければならない状態が続いていました。

例えば、製薬会社から卸に販売された額である「送り売上高」のデータは基幹システムにあり、卸が実際に医療機関や薬局に販売した額である「消化売上高」のデータは実消化システムにあります。「Aという医薬品の、市場での本当の評価はどのようなものであり、送りと消化で乖離がないか実態を知りたい」とすると2つのシステムからデータを取り出し、表計算ソフトなどで分析しなければなりませんでした。

その結果、データはあるものの縦横に活用できていないことが、各部門にボディーブローが効くように課題を蓄積させていました。

営業部門では、「データ活用が個人技の世界に留まっているため取り組み方にばらつきがあり、それがチームリーダーによるMRの育成力の差にまでなっていました。MRチームとしてのPDCAサイクルも弱まり、結果的にMR力の停滞につながっていました」(大内徹・営業本部営業企画部長)

経営管理部門では、「経営会議のための資料作成に時間がかかり、気づきや未来予測につながるような経営管理の視点に基づいた十分な分析ができずにいました。支店やMRチームがどれぐらいデータを活用しているかの違いをベースにした経費の妥当性や売上効果などの分析を十分に行えないでいたのです」(澤井健・経営管理部予算統括グループ主査)

さらにIT部門では、「システム間の情報連携が不十分なために、営業部門の業績向上を支援できるような情報提供の仕組みを用意できていませんでした。分析ツールはたくさん用意していましたが、運用変更への対応の困難さが増すばかりの状況にありました」(高瀬良幸・システム開発部長)

株式会社三和化学研究所 左)営業本部 営業企画部長 大内 徹 氏 真ん中)経営管理部 予算統括グループ 主査 澤井 健 氏 右)システム開発部長 高瀬 良幸 氏

左)株式会社三和化学研究所 営業本部 営業企画部長 大内 徹 氏
中)株式会社三和化学研究所 経営管理部 予算統括グループ 主査 澤井 健 氏
右)株式会社三和化学研究所 システム開発部長 高瀬 良幸 氏

こうした事態を解消するために取り組まれたのが、4つのシステムのデータを集約・一元化して活用するための「マネジメントポータル構築プロジェクト」です。

  • 1 DPP-4阻害剤 インスリンの分泌を促進するホルモンを分解する酵素(DPP-4)を選択的に阻害し、インスリン分泌を促進することにより血糖を降下させる薬剤

  • 2 OSDrC(One-Step Dry-Coating) ワンステップで有核錠の製造を可能にするロータリー打錠機を使い、内核を2つ持つような分割有核錠や新配合剤など付加価値の高い製剤を設計・製造できる技術

プロジェクト目標

プロジェクト目標

どのデータが、どのような経営視点を育てるのか?
シナリオ検証が最初の大きな任務に

三和化学研究所の「マネジメントポータル構築プロジェクト」は具体的には、4つの主要システムは従来通りに運用しながら、(1)各システムにあるデータを集約・一元化する統合データベースを構築し、(2)各種の分析データをWEBベースや専用ツールで作成できる「BI(ビジネスインテリジェンス)環境」を整えることでした。統合データベースは、JSOLの「J'sPATTO」が担いました。

J'sPATTOは、Microsoft SQL Serverを活用して国内外の異なるシステムや異なるコードのデータを集約・一元管理し、BIツールによって予実管理を見える化するソリューションです。

三和化学研究所のマネジメントポータル構築では結果的に、4つのシステムから182種類のデータが集約・一元化されました。

実は、それぞれの部門が抱える課題に対して、どのようなデータを集約・一元化すれば全社に一気通貫となる経営視点を提供できるのかを探る初期の検証作業が、最も重要なものでした。

株式会社三和化学研究所 システム開発部 システム開発グループ 主任 足立 泰 氏

株式会社三和化学研究所
システム開発部
システム開発グループ
主任
足立 泰 氏

「これまでも、それぞれのシステムからデータを取り出して表計算ソフトでまとめていくツールは多く提供してきました。しかし、それらがどのような立場の人にどのように活用してほしいのかなどが、ユーザーに明確に伝わっていませんでした。言葉を換えれば、ツールや情報がありすぎて、本当に見なければならないデータとは何かを明確に提示できていなかったのです」(足立泰・システム開発部システム開発グループ主任)

JSOLの開発チームは、現状分析を終えると、どのデータによりどのような分析かできるようになるのかという分析コンテンツの整理に力を注ぎ、三和化学研究所と擦り合わせていきます。つまり経営視点に立った業務支援のあり方を具体的に実感できるレポート群を選択したり、新たに構成したりしたのです(結果的に、この作業が新システム導入後の活用研修で、経営視点でのデータ活用を促す重要な訴求ポイントになっていきます)。

その結果、統合データベースを基盤として営業関連のレポートを導く「営業向けマネジメントポータル基盤」と、経営管理レポートを導く「経営管理向けマネジメント基盤」を完成させました。

仕組みとして各種の分析データを見える化しているのがBIツールで、三和化学研究所の新システムの場合、WEBベースで定型レポートを提供する「WebFOCUS」と、非定型で独自にさまざまシミュレーションができる「QlikView」の2つが導入されました。

各種の要因の相関と打ち手を“見える化”した新システム

具体的にどのようなレポートが提供されているのでしょうか。

営業向けマネジメントポータル基盤では特徴的なものとして、KPI進捗表とマーケット情報、ターゲット医師活動検証リストが連携して課題と打ち手を検討できるレポートがあります。KPI進捗表では、全社・支店別・チーム別・MR別に概況・KPIの製品別項目別一覧、製品の売り上げ数値指標とKPIの相関などが分析され、医師への訪問や講演会の回数などと実績の相関、予算に対する進捗状況などが提示されます。進捗状況は、その率によって色別に表示して手薄な部分がどこかが分かるようになっています。

またマーケット情報レポートでは、トレンド分析やエリア分析を製品別・施設別に把握でき、それは同時にチームマネジメントとターゲット医師活動の検証リストへとつながります。

株式会社三和化学研究所 営業本部 営業企画部 マーケティングリサーチグループ長 山口 隆之 氏

株式会社三和化学研究所
営業本部
営業企画部
マーケティングリサーチグループ長
山口 隆之 氏

「これらは結局、本部、支店、チームマネジャーが同じ視点で営業活動やマーケティングを考えられるということです。つまり同じ切り口で見られる。とすれば例えば支店長は大きな軸で見て考え、チームマネジャーはより細かく見ることで打ち手が複層になっていきます。MRの育成でもばらつきを減らせることを意味しています」(山口隆之・営業本部営業企画部マーケティングリサーチグループ長)

一方、経営管理向けマネジメントポータルでは、経費差異分析表と経費計画進捗表が迅速に提供されています。

経費計画と実績が項目別に照合されて経費の差異分析がなされます。経費差異分析表では、回収した経費差異の要因を統合データベースに登録。また経費計画進捗表では、進捗に応じた経費科目のアラート表示とドリルダウン機能を備え、さらに差異要因の情報を表示します。

その結果、例えば臨床試験費では、「治験終了がまとまって発生したために(経費が)超過」「臨床試験費を計画していたが、一部が委託料で処理されたことと為替レートが安価になったため計画内にとどまる」などといった要因が導き出され、分析結果をグラフや一覧表でもチェックできるようになっています。

また「送り売上高」と「消化売上高」も、品目別や施設別などのマトリックスで比較できるようになりました。つまりどの商品が、どのエリアのどの病院で、さらに担当医師などによって販売価格への圧力が強いかなどが分かり、それに経費進捗表が連携することで経費との相関関係なども浮かび上がってくるのです。

マネジメント・ポータルを活用した戦略ターゲット施設攻略のマネジメント・イメージ

マネジメント・ポータルを活用した戦略ターゲット施設攻略のマネジメント・イメージ

「従来は経費進捗と理由を探るのは別な作業でしたが、新しいシステムでは一緒に見られるようになりました。原価分析でも利益率の高い製品が一目で分かるだけでなく、活動経費と売上高の相関がよりはっきりと分かり、経営管理部門として営業部門にどのように働きかけていくかのシナリオづくりにもつながるようになりました。かつては資料を作るのに2時間ほどかかっていましたが、20秒足らずで終わるようになったのもありがたいですね」
(澤井氏)

そもそも三和化学研究所での「マネジメントポータル構築プロジェクト」は、各部門が同じ経営視点を持って自身の仕事の仕方を見直せるようにするのが狙いでした。それは、「PDCAサイクルのCのためのシステム構築」であるとも言えます。

「見たい時に、見たい項目を素早く見つけ出し、見たいレベルまで追跡できる。活動状況の分析を基に、営業本部が立案した戦略や施策の実行度を、本社と営業現場が検証できます。営業本部の支店長面談や支店のチームマネジャーのMR面談時などで、売上目標から戦略や施策の実行度、営業現場の活動状況までが見える化されていることで、PDCAのCだけでなく、CからAの相関もスピーディーに捉えることができるようになりました」
(大内氏)

シンプルで使いやすく、それでいて活用の懐が深いJ'sPATTO

三和化学研究所の「マネジメントポータル」のベースになっているのがJSOLのJ'sPATTOです。

J'sPATTOは、グローバル経営の進展に伴い国内外のシステムで異なっていたコードなどの違いを乗り越えてデータを集約・一元化して経営の実態を迅速に把握できるようにすることを目的にしたソリューションです。これによりすべてのシステムを更新・再構築する必要がなくなり、投資コストの削減だけでなく、事業展開に併せた柔軟なデータ活用を可能にしました。

今回、三和化学研究所のプロジェクトでは、J'sPATTOの考え方を自社の異なるシステムデータの連携に活用したのです。

株式会社JSOL 西日本ビジネス事業部 東海ソリューショングループ 遠藤 冴己

株式会社JSOL
西日本ビジネス事業部
東海ソリューショングループ
遠藤 冴己

JSOLのプロジェクトリーダーを務めた西日本ビジネス事業部東海ソリューショングループの遠藤冴己は、「J'sPATTOは、お客さまが分析したい情報のインプットをエクセル(リポジトリシート)で作成すれば、それを基に自動的にさまざまな定義を付与してデータの入力の口が作成できるシンプルかつ分かりやすい機能を備えています。つまりお客さまにSQLServerに関する知識がなくても、さまざまなデータの収集をして、分析に向けた情報を集めることができるようになります。出力も、エクセルだけでなくWebFOCUSやQlikViewなどのBIツールも対象にしており、シンプルで分かりやすい活用度合いの広いソリューションになっています」と解説します。

その上で遠藤は、「BIツールでは、WebFOCUSはブラウザ方式で、CPU(コア)単位の課金のため、利用ユーザー数に依存せず展開でき、利用ユーザーが多い場合は結果として費用も安く、定型レポートなど多くの現場で広く利用してもらうデータの発信に向いています。一方QlikViewは、ヘビーユーザー向けの深く踏み込んだ分析に力を発揮します。とはいっても3日間ほどの研修を受ければ、分析者の着眼で基本的なデータの分析ができるようになり、非常にユーザーフレンドリーなシステムです」と語ります。

三和化学研究所のマネジメントポータルの構築でJSOLは、開発では「アジャイル型」の手法を取り入れ、構築後は全国の利用者への定着研修に注力しました。

「事業への取り組みの結果を示す営業施策は、事業が置かれた環境によって刻々と変わります。またそれに併せてPDCAサイクルの各段階の取り組み方も変わります。こうした状況では、あえて開発期間を短くして開発リスクを最小化するアジャイル型が有効であり、三和化学研究所様の開発もアジャイル型でなければできなかったと思います。またシステムデータの活用度合いにばらつきがありましたので、今回のシステム構築の意義と、新システムでどのような経営視点を共有しようとしているのかを理解していただく集合研修にも協力させていただきました」(遠藤)

実際、2015年9月の現状分析から始まったプロジェクトは、2016年3月には本格稼働を始めたスピード開発となりました。

マネジメントポータル基盤のさらなる拡充と活用高度化に向けて

マネジメントポータル基盤のさらなる拡充と活用高度化に向けて

「システムに魂を入れる」を柔軟かつ容易に実現する

プロジェクトでコンサルティングを担ったJSOL製造ビジネス事業部コンサルティングチームの河本直純は、「プロジェクト開始前には(三和化学研究所の)秦社長から『システムに魂を入れることが重要である』との基本方針が示されました。この基本方針があったからこそシステム化構想や教育でも基本方針の実現にこだわりました」と振り返ります。

その上で河本は、「システム開発と人材育成が強く連携しているのがこのプロジェクトの大きな特徴でもありました」と語ります。

「プロジェクトでは、新システムにおける営業戦略や施策の推進状況の見える化と同時に、当該情報を利用するユーザーの経営マインドの醸成に挑戦をさせていただきました。システムが出力する情報から"人と人がスピーディーに連携"して地域や顧客の変化や課題を読み解き、それぞれの立場で地域や顧客に最適な施策などを立案・推進する。それができる人財育成をシステム構築と同時に実施する取り組みは、他社には類を見ない取り組みであったと思います」

株式会社JSOL 製造ビジネス事業部 コンサルティングチーム1 河本 直純

株式会社JSOL
製造ビジネス事業部
コンサルティングチーム1
河本 直純

本格稼働から10カ月を経た段階で、新システムの活用では、いわゆるベンチマークや活用成功例の広報・啓蒙活動が進んでいます。
「データの見方のベンチマークができ、『俺でも使えるのだ』と現場のマネジャーたちが強く実感してくれれば利用者も利用率も急速に増加するでしょう。今は、ビッグバンに至る前の膨張期のような状況にあり、使い方や成果物などを共有する環境づくりに力を注いでいます」(小林弘隆・経営管理部予算統括グループ主任)

高瀬システム開発部長も、「特に現場マネジャークラスへの経営視点の導入は、厳しい競争を勝ち抜くためにも不可欠な取り組みです。今回のマネジメントポータルの構築により大きく一歩を踏み出すことができました。チームマネジャーの利用率をさらに向上させ、自らの問題意識で各種のデータの相関を見いだし、仕事に生かせるような人材を育てたいと考えています」と語ります。

システムとしてはマネジメントポータル基盤をSCM向けや生産現場向けに拡充したり、基盤の活用の高度化などステップアップが考えられます。とはいえ高瀬部長のコメントは、シンプルで分かりやすく、柔軟性にも富むJ'sPATTOが秘めている業務改革の大きな可能性を実感していただき、期待をかけていただいた言葉でありました。

株式会社三和化学研究所 経営管理部 予算統括グループ 主任 小林 弘隆 氏

株式会社三和化学研究所
経営管理部
予算統括グループ
主任
小林 弘隆 氏

集合写真

前列左から、株式会社JSOL 樋口、株式会社三和化学研究所 高瀬氏、大内氏、
中列左から、株式会社三和化学研究所 足立氏、澤井氏
後列左から、株式会社JSOL 宇水、綾部、遠藤、株式会社三和化学研究所 小林氏、山口氏

企業情報

会社名

株式会社三和化学研究所

本社所在地

〒461-8631 愛知県名古屋市東区東外堀町35番地

創業

昭和28年12月

資本金

21億108万8千円

従業員数

1,501人(2016年3月末現在)

事業内容

医薬品、診断薬、医療・介護用食品、ヘルスケア製品の研究開発と製造販売、医薬品の受託製造

ホームページ

(2017年02月現在)


  • WebFOCUSはInformation Builders, Inc.の商標または登録商標です。

  • QlikViewは、QlikTech International ABの商標または登録商標です。

  • 本ページ上に記載または参照される製品、サービスの名称等は、それぞれ所有者の商標または登録商標です。

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