特集

ITよもやま話

“システムの進化”と“エンジニアの進歩”

技術本部 技術事業推進部 ソリューション課 鈴木 利幸

 私がいくつかの業務システムの更改に携わってきて感じたこと、それは現行システムの“しがらみ”が、新システムの足かせとなると云うことである。いっそのこと、“しがらみ”をなくした新システムに刷新し、すっきりさせたい誘惑に駆られることもある。しかし、現行の仕組みを捨てて新しいシステムを構築することは、しばしば現実的ではない。勿論、主たる事由は、システムが大規模化、複雑化している為、新システム刷新に際して費用とリスクが増大することだが、それだけではない。重要なのは、システムを刷新する場合でも、既存の業務データを再利用しなければならない、と云う点である。すなわち、業務データがシステムの本質であると云える。
 このように考えると、システムは生物で、業務データの設計は遺伝子のように思えて興味深い。そう、業務システムの更改とは、新しい器に進化した遺伝子を移す作業である。

 もう少し、システムの成長を生物の進化になぞらえて考えてみよう。すると、システム開発のライフサイクルを適切にまわし、システムを成長させるためには、標準化だけでなく、多様性も重要な要因に思える。標準化と多様性、この二つは直感的には対立する概念に見えるが、業務システムでは適所で補完しあうケースが散見される。例えば、クレジットカードでは、カード番号や磁気ストライプの体系、CAFIS等の接続手順が標準化されているおかげで、我々は様々な店舗でカードが相互利用できる。その一方で、入会審査や債権管理の仕組みでは、各社が独自の工夫を行い、より良いサービスを提供するためしのぎを削っている。
 情報技術についてはどうであろうか。今日、クラウドコンピューティングに代表されるように、インターネットを用いたサービスは著しく成長している。これらの繁栄は、EthernetやTCP/IP、HTTPといった技術の標準化の基で成り立っている。つまり、標準化の下支えのおかげで、多様なサービス提供に取り組むことが可能となる。そして、一部の試みは生き残り、新たな標準として積み重ねられていく。このように、システムを取り巻く世界では、標準化と多様性が共存しているのである。

 ところで、情報技術の特性として、実物を取り扱う産業に比べ、複製のスピード、コストに優れている点が挙げられる。この特性により、どのような影響があるだろうか。すでにある技術や方法論を利用せずに一から作ることを「車輪の再発明」と呼ぶことがあるが、情報産業は、「車輪の再発明」をしないことで、特に多大な恩恵を受けていると云える。実際、現在「枯れた」として利用されている技術の多くが、20世紀には存在していなかった、もしくは実現性に乏しいとみなされていた技術である。
 すなわち、近年、技術進歩が加速し、情報量が爆発的に増大していることは、皆さんも実感されていると思うが、これは情報産業そのものの特性と云える。そこで忘れてはいけない点がある。それは、利用者の思考速度や身体能力は変わらない、と云うことである。業務システムを利用するのは、長年かけてゆっくり進化し、現在の成人たる思考や体躯を取得してきた人間そのものである。もちろん、業務システムを開発するのも人間であり、いかに技術が進歩しようと、この本質は変わらないだろう。

 それでは、我々はエンジニアとして、システムの進化とどのように向き合ってゆくのがよいだろうか。個人の中で標準化と多様性をバランス良く共存させるのは、なかなか難しい。例えば、基礎をおろそかにしたまま新技術に取り組んでも成功しない。逆に、過去の成功体験に囚われすぎても、新たな成功に向けた機会を失ってしまう。また、新技術へのアンテナを張るだけでなく、情報の洪水に溺れないよう取捨選択する必要がある。
 つまり、我々はエンジニアとして持っている知識・経験を大事にしながらも、時には自分の常識を疑う勇気を持つことが大事だと云える。エンジニアとしての価値は、学習するだけでは身につかない。様々な技術が淘汰・洗練される様を見続けること、過去の経験に裏打ちされた論理的思考を行うこと、この2つを組み合わせることで、今までの自分には出来なかったことを「出来る」と思えること。これがエンジニアにとっての進歩であろう。

(2010年8月10日)

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