特集

ITよもやま話

“決定”をコントロールする

技術本部 技術事業推進部 開発課 川澤 さおり

 『我々SEの主な作業の1つは、業務アプリケーションとその動作環境を構築するために、全工程を通じてさまざまな事項を決定し、明確にしていくことである』この思いは常に頭の中にあって優柔不断な私の背中を押してくれる。
 決定事項を守り続けることが重要だと思うあまり、決めることを躊躇してしまう私であったが、今回、要件定義から担当してきた開発プロジェクトを通じて、“決定事項”に対する自分の感じ方が変わった。客観的な振り返りを通じても、そのことがいたく新鮮に感じられたので、ここで取り上げることとした。

 物事を決定する局面において、曖昧さを排除することの重要性を否定する人はいないだろう。曖昧さは発信者と受信者の間に、認識齟齬を生じさせる可能性を持つ。しかし、合意形成に至る第一歩としてはその曖昧さが有効な場合もあるだろう。問題は、互いに合意したつもりになって曖昧なまま放置してしまうことにある。
 合意形成に至った事項についても同じことが言える。“決定したら完了”ではなく、決定事項は常に“決定時の状況”の上に立っていることを忘れてはならない。決定事項は、言葉として明確に交わされていない情報も含めて、相互の担当者同士が判断・合意した結果である。そのため“決定時の状況”が変化すれば判断が変わり、決定事項も変わる可能性を内包している。状況の変化には例えば、納期や工数の圧縮要求による制限事項の変化や、新たなステークホルダが登場することによる全体意思の変化などがあげられるが、時には時間経過による担当者の理解度の向上が原因となって状況が変わることもある。
 このような変化を見逃しては、合意形成時にどれだけ適切な言葉を使ったとしても、後での問題発生を防げない場合がある。
 SEのような仕事をしていれば、誰でも一度は、「前に言っていたことと違う!」と心の中で叫んだ経験があるだろうが、発言した時点からの状況変化によって発言内容が違ってくるのは当然だ。溜め息をつく前に何が変わったのかを聞いてみる。内容次第では他所の調整により決定事項を変更しなくて済むかもしれない。あるいはそれが担当者の受け取り方の違いによるならば誠意を持って訂正したい。
 決定事項が変わらないのは、合意の上で決定した事項だからではなく、常に状況の変化に注意し、状況が変わっても決定事項が変わらないように、当事者同士が作用しあうからなのである。

 更にいうと、決定事項だからと言っていつまでも不変である必要も無い。
 もちろん開発対象スコープやスコープ決定時の前提条件、制限事項など影響範囲が広い部分は不変とするのが通常だが、それさえも納期や工数や要員確保など、変更によって生じる問題を解決できれば、当事者同士の合意形成を前提に変更してもよいのである。
 状況に合わせて決定事項を変更し育てていくべきものもある。例えば各種規約やプロジェクト内の標準化などがこれに該当する。まずはルールを決めて運用してみる。もしも規約が守られない場合、十分に規約が認知されているなら規約を守ることを阻害する何かが潜んでいると考えられる。何が阻害要因なのかをメンバーと共に考え、改善した内容を新たに規約として盛り込むことで、規約はよりプロジェクトに適したものに成長していく。そして、メンバーと共に作り上げた規約は、より強固で浸透力・実効力の高いものとなる。
 また、決定すべきタイミングでは、変更を覚悟の上で何かを決定しなくてはいけない場合もある。判断材料が少なく本来なら到底決定できる状況ではない時、作業効率を考えれば判断材料が揃うまで決定を待ちたいところだが、納期を守り作業を進めるためにあえて決定して作業を続けなければならないこともある。例えば連携する他システムの開発工程に比べ、自システムの開発工程が進んでいる場合などがそうだ。

 “決定事項”といえば「もう絶対に変えてはいけない」と頑なに信じていた私であったが、「この変更にはどんな背景があるのだろうか」と考えるようになったし、決定事項を決定事項として実効的であり続けさせるために、どうすればよいかを考えるようになった。また自分が決定したことを伝える際には、状況や今後の展開もあわせて伝え、思考の過程を示すようにした。そうすると、私が気付かない視点でより良い意見がもらえたり、私が直接参加しない意思決定においても私が重要視している観点でメンバー自身が決定してくれたりと、思わぬ効果が得られることに気付いた。私自身は、決定事項が変わることで感じていたストレスが軽減し、変更を前向きに捉えられるようになった。そのためだろうか、決定までのスピードがアップしたように思う。

 決定事項の背景を把握し、状況の変化に敏感になることで“決定をコントロール”する。それが大切だと実感した次第である。

(2011年02月10日)

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