特集

ITよもやま話

「絵を描く」ことから始める人材育成

技術本部 JSOLデヴェロップメントセンター 長谷川 敦司

 年が明け、就職活動はこれからが勝負の期間に入ってきたところだろうか。IT業界は門戸が広く、当社の採用実績も例年、文系/理系の配分はそれぞれ半々くらいといったところである。新入社員をどう育てていくかは、どの企業も悩みを抱える重要なテーマであろう。幸いなことに筆者は、新入社員研修のスタッフとして「教える側に立つ」機会と、配属先の先輩社員として新入社員と「一緒に仕事をする」機会の両方に恵まれ、人材育成に携わる時間を多く得た。この2つの立場で新入社員を見た経験から、新入社員の育成について、少し私見を述べてみようと思う。

■研修による新入社員育成の課題とその対策
 現在、筆者は配属先の先輩社員として、新入社員とともに仕事をしている。研修を担当していた時にはなかなか見えてこなかったことだが、一緒に仕事をするという目線に立つと、新入社員は以下の2点が弱いのではないかと感じるようになった。
   1.技術の“本質”を理解すること
   2.問題を“自力で”解決すること
 あくまで主観的な分析ではあるが、これらは研修による育成がもたらす一般的な課題である。この課題への対策として、新入社員に「絵を描いてもらう」という取り組みが効果的であると、筆者は考えている。詳細については、順を追って以下に述べていくことにする。

■技術の "本質" を理解する
 冒頭に述べた通り、IT業界の採用では文系/理系の制限があまりないため、入社時点での技術スキルがゼロであることをベースに研修計画を組み立てる。特に技術的な内容については、1からひとつずつ教えるようなカリキュラムを組むのが一般的である。だが初学者にとって、技術の話を一朝一夕に理解するのは非常に難しい。それは、これまでになかった新しい概念が多くあったり、直感的ではない制約が多く散りばめられているためである。
 ひとつ簡単な例を挙げてみよう。プログラミングの世界では、変数と呼ばれる箱にデータを格納し、変数を使って処理を記述していく。例えば、以下のような処理がある。

○ 2つの数の合計を計算し、表示する。(ここでは仮に4+3とした)
  1. 変数aに4を格納する。
  2. 変数bに3を格納する。
  3. 変数cは変数aに変数bを足した結果を格納する。
  4. 変数cを表示する。

int a = 4; // 変数には名前と型を指定する。ここでは int(数値型)。
int b = 3;
int c = a + b; // 原則的に、計算する変数と計算結果の変数は同じ型とする。
System.out.println(c); // 変数を表示するためには、左記のように記述する。

 たった4行の処理にも関わらず、そこには制約がいくつか存在する(プログラム例の緑字の説明が制約にあたる)。これはほんの初歩的な部分に過ぎず、学習範囲が広がれば広がるほど、新しい概念や細かい制約は増えていく。これは教える側にとっても難しい問題であり、新入社員がある程度その背景や意味を理解できるようになるまでは、説明を省略して、"おまじない" と称して仕組みを丸暗記させることがしばしばある。
 このような状況から、新入社員にとって技術研修の内容は、理解を伴わないただの暗記となってしまう傾向が非常に強い。ただの暗記であったとしても、講義の説明はなんとなく頭に入り、演習問題もそれなりに解けてしまうため、技術の本質を理解しないまま研修を進めてしまうことは可能である。だがこれでは、その場は凌げるものの、後の応用が全く効かない。「研修で教わったはずなのにできない」という状況がしばしば見られるが、その主な原因はこのような丸暗記による本質の不理解であろう。
 技術の本質を理解するためにはどうすれば良いか。
 ひとつの方法として、処理のイメージを共有するのが良いのではないかと筆者は考えている。具体的には、処理の流れを絵に描いてもらうのである。ただ絵に描き起こすだけでも、相手の理解度をだいぶ知ることができる。
  ・全体像として何を描いているか
  ・フォーカスをどこに当てているか
  ・抜けているポイントはないか
などが一見してわかる上に、あやふやな点・気になる点は絵を使いながら説明してもらえば、より一層理解の度合いがわかる。絵を描くことで、すぐさま新入社員が技術の本質を理解できるわけではないが、現在の理解度を知り、不足を補うための次のステップを踏み出すには有効な手立てであると感じている。

■問題を“自力で”解決する
 さて、もうひとつの課題は「自力で問題を解決する力を養うこと」である。
 初学者向けの研修を行っている間は、自力で正解に辿りつけるだけの知識がないことが多く、どうしても「質問→回答」の流れで問題が解決する場になってしまいがちである。もちろん、正しい知識を伝えることは必要なことなのだが、それに慣れ切ってしまって、調べることが疎かになる傾向がある。システム開発の現場においては、自分が抱えている問題について誰かに回答をもらえることは稀であり、自力で問題を解決する力は必須と言っても過言ではない。とは言え、いきなり全てを自力で解決するというのも無理な話なので、現実的な落とし所を考えてみた。問題を解決するには、次の2つのステップが必要である。
  1. 原因を突き止める。
  2. 原因への対策を実施する。
 ここで重要なのは1.の原因を突き止めることである。原因が正確にわかれば、その対策を実施するのはそれほど難しいことではない。新入社員が問題を解決できない時は、原因を正しく理解していないことがほとんどである。
 従って、まずやるべきは問題の原因をはっきりさせることである。具体的には、現在の状況を絵に描き起こさせ、出来る限り原因を究明させるのである。
  ・ターゲットは何か
  ・うまくいっているのは何か
  ・うまくいっていないのは何か
 口頭での説明でもある程度理解できると思うが、絵に描いてもらうことが重要である。少なくとも、原因の切り分けはかなりやりやすくなる。
 以下にひとつ例を挙げる。これは、マシンAのブラウザからマシンBのサーバーにアクセスしようとして、アクセスできなかったときの原因切り分けの図である。
  ・マシンAとマシンBへの直接アクセスは可能
  ・マシンB内で、ブラウザからサーバーへの直接アクセスは可能
 これらの情報は、口頭で説明されるよりも図で目に見えた方が何倍もわかりやすいということが、おわかりいただけると思う。ちなみに、この問題の原因はマシンAのブラウザのプロキシ設定にあった。マシンAから直接マシンBのサーバーにアクセスしているように見えて、実は別の社内サーバーを経由していたのである。新入社員はまず気が付かないポイントであるが、ここまで原因を切り分けてもらえれば、先輩社員はすぐに気付くことができる。原因を知らずとも、効果的に原因を切り分けることは可能だという好例である。 原因切り分けの図

■絵を描くことによる頭の整理
 ここまで、新入社員の課題と「絵を描いてもらう」ことによる状況の改善について説明してきた。「技術の本質を理解すること」と「問題を自力で解決すること」の2点について、「絵を描く」という1つの解決策を提示したが、この解決策だけでこれらの課題が正しく改善されるのか、疑問に思う方もおられるかもしれない。一見して、この両者には明確なつながりがないように思えるが、根っこの部分では深い結びつきがあると筆者は考えている。絵を描くという行為は、自分の頭の中にある考えやイメージを整理することである。本質の理解にしろ問題の解決にしろ、結局は自分の考えを整理することが重要なのである。
 実際にやってみるとすぐわかることだが、よく理解していないものを絵に描くと、すぐに疑問や違和感が生じる。なぜこの処理はこの順番なのか、なぜこの制約が必要なのか、なぜこの処理は分かれているのか。丸暗記の知識であっても、絵を見ながらその理由や背景を整理していくと納得しやすい。絵から生じた疑問点を整理して無くしていくことが本質の理解につながるわけである。また、問題解決の場合は、先に述べた通り原因を究明することが重要である。これはまさに自分の状況を整理する作業であり、問題のありそうな部分と問題ない部分を切り分けて、怪しいところを絞り込むことである。
 まとめると、「絵を描く」ことで整理するスキルの向上を図り、それによって「技術の本質の理解」と「問題を自力解決する力」を伸ばそう、というわけである。

 筆者が所属している課では、新入社員に絵を描くことを実践してもらっている。絵を描くことを通して、処理の流れをイメージしたり、問題を自力で整理する力が、徐々にではあるが確実に、彼らについてきた、というのが筆者の実感である。これから技術を学ぼうと思っている方や技術について理解が曖昧なままになっていると感じている方、問題の切り分けがうまく出来ていないと感じている方は、ぜひ自分の頭の中を絵に描き起こしながら整理してみることをお勧めしたい。
 今回は人材育成の観点で「絵を描く」ことについて述べてきたが、これは日常の業務を進める上でも重要なスキルである。実案件における業務仕様やデータの関連など、複雑なものを整理するためには、同様に「絵を描く」ことが多いためである。筆者自身もまだまだ絵を描いて整理することが上手なわけではないが、引き続き、精進していきたいものである。

(2012年01月10日)

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