導入開始から間もなく四半世紀を迎えようとしている地方自治体の情報システムが抱える課題は、大きく2つある。(1)システム経費の削減と、(2)個別システムの最適化ではなく全体システムの最適化の実現だ。
一つ目の課題について、どの自治体も厳しい財政状況が続くなかで、増加する固定費の見直しを議会も一体になって進めている。地方自治体の情報システムに関しては、地方自治情報センターが毎年行っている全国自治体の経費調査結果が公表されるので、それを基に比較・検証がなされることが多い。
「情報システムの担当者は、住民や議会に説明責任を負っているわけですが、議会で『うちの町の費用は高いのか安いのか』と問われたときに、実は客観的に評価するツールがありません。そこでまずわたしたちに、経費の妥当性、調達の仕方、契約の内容などについて客観的に評価して課題を明らかにして欲しいという依頼が寄せられます」
たとえば「ベンダロックイン」という言葉がある。アウトソーシングしている先が固定化してしまい、結果的に費用が割高になってしまう事態をいう。
地方自治体では、財政状況の悪化に対して職員数の補充を行わなかったり、情報システムの一部をアウトソースしてコスト削減を進めている。さらに、定期的な人事異動により情報システム部門も含めて早いところでは3〜4年おきに担当者が変わる。そうするとシステムの実態を十分に理解した職員が減り、「ベンダロックイン」がますます助長されることになる。
二つ目の課題について、個別のシステムは非常に使いやすく最適化されているのに、自治体のシステム全体の最適化、つまり全庁最適にはなっていないケースが多く見受けられる。全庁最適でなく個別最適であることによって、皮肉にも多様化したり高度化している住民ニーズに対応できなくなっていたり、家庭へのIT普及などに連動した情報インフラの高度化が阻まれていたりする。重複した機能、重複した投資といった問題も少なくない。部分最適の集合が全体最適になっていないのだ。

「地方自治体が汎用コンピュータなどを使って独自に構築してきた情報システムは、導入以降度重なる法改正などにより、システムのなかは複雑化し、さらにはさまざまな個別のシステムとも繋ぐ必要が発生するなど、いわゆるスパゲティ症候群化してきています。その結果、全庁のシステムを総合的に診れる人がいなくなり、その結果、自治体の抱える行政課題とリンクして全方位的な視点で情報システムの将来を判断することができなくなっています」
個別業務のシステム担当者にもそうした問題認識がないわけではない。しかし自治体特有の縦割り組織が邪魔をして議論が広がらない。さらに、システムの改変を促す最も大きく、分かりやすいきっかけは法改正だが、個々の手直しを全庁最適につなげるグランドデザインを描く部署も人も乏しいのが現状だ。
「情報システムと行政効果の評価、セキュリティ状況の把握など、結果的に全庁的なITガバナンスが機能していない状況が出現しているのです。こうした事態に対して、庁内のITの将来ビジョンを明確にしたうえで全体最適に向けた方針を立て、強力に推進する必要があります」
(2010年07月現在)
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