(2012年04月現在)

ITが日々の業務を支援する度合いが高まるにつれて、システムにはより安定的に稼動する品質が求められてきた。そんな中で、システム機器とアプリケーションソフト、そして両者の中間に位置するミドルウエアが“三位一体”とならなければシステムの安定稼働は確保されない。JSOLでミドルウエアに象徴される基盤技術の向上に取り組んでいるのが、開発統括本部基盤技術部のJSOL認定ITプロフェッショナル(ITアーキテクト)、鈴木未知郎だ。IT世界におけるアーキテクト(建築家)は、システム構築の効率化に貢献する基盤技術の開発とJSOLにおける標準化をリードしている。

JSOL認定ITプロフェッショナル
ITアーキテクト
鈴木 未知郎

基盤技術部は、「基盤屋」と呼ばれる。システム構築のために使う機器を選んだりもするが、ミドルウェアの選定やアプリケーション基盤の開発が重要な仕事だ。
ミドルウエアは、いわばOSとアプリケーションソフトの中間に位置するソフトウエア。OSの上で動作するが、アプリケーションにOSよりも高度で具体的な機能を提供する。例えば、印刷機能のようにどのアプリケーションソフトでも共通して使う機能はOSが担っている。一方で、特定の仕事でしか使われないのだが、その仕事では必ず必要とされる機能がある。そうした機能は、ミドルウエアとして提供される。

「例えば、データベースシステムでは、共有されているデータを利用するためにデータへのアクセス要求に応える機能が不可欠です。こういう機能は、OSには装備されていないものの、データベースシステムでは共通のものですからミドルウエアとして用意されます」

ミドルウエアにはさまざまなものがあり、鈴木が紹介してくれたデータベースのアクセス要求の他にも、関連する複数の処理を一つの処理単位としてまとめるトランザクション処理のための「トランザクション・プロセッシング・モニター(TPモニター)」などがある。
一方、アプリケーション基盤とは、業務用のアプリケーションの土台部分にある部品類のことで、ユーザーインターフェースを快適にする画面アプリケーション基盤などがある。
ミドルウエアやアプリケーション基盤が豊富で、それぞれの機能が優れていれば、システム構築のさまざまなプロジェクトで共用できるし、それはシステム構築の時間を短縮し、コストの低減にもつながっていく。
つまり、ミドルウエアとアプリケーション基盤の充実度や高機能性とは、システム開発・構築会社にとっては大きな競争優位要因になるのだ。

「ミドルウエアとアプリケーション基盤の充実は、開発工数の削減による納期や品質の担保というメリットに直結しています。さらには、システムの構造が複雑にならず、シンプルな構造でさまざまなデータ処理もできるようにもなります。まさに基盤がしっかりとしていれば、さまざまなメリットを追究できるのです」

基盤を軸としてシステム全体の効率性や整合性、美しさを見る

実際に、鈴木が取り組んでいるシステム開発・構築を通して基盤について見てみよう。

2009年夏から始まり、2012年9月の本格稼働に向けて開発・構築が進んでいるのが大手専門店チェーンストアの物流システムの再構築だ。全国のフランチャイズ加盟店と本部を結ぶシステムは、JSOLによって構築された汎用機を使ったシステムだったが、これをオープン系で再構築している。
鈴木はこのプロジェクトでまず、システム機器やミドルウエア、アプリケーション基盤の選定などインフラを含めた基盤全体の基礎的な仕様を決めるリーダーを努めた。その後、2011年5月からは、本番で使う機器を最終決定するためのパフォーマンス検証を担当している。

ITアーキテクト 鈴木 未知郎

「本番で使われる各種のアプリケーションプログラムができあがってくると、そのプログラムと本物のデータを使い、極限までコンピューターを回して見ます。そして期待通りのパフォーマンスを得るための機器選びの基準や、プログラムのチューニングポイントなどを明らかにしていきます」

システムの肝は、データベースにある。こういうことだ。
システムは、6つのサブシステムからなっている。つまり、(1)加盟店からの商品注文、(2)本部在庫の確認、(3)在庫がなければ仕入れ先に発注、(4)仕入れ品の受け取り(仕入計上)、(5)出荷、(6)会計処理(支払・請求・入金)のシステムだ。それぞれのデータは、ミドルウエアであるデータベースシステムによって管理される。
6つのサブシステムを、データ処理という視点で評価した場合、すべてのサブシステムが同じようなパフォーマンスを示すとは限らない。つまり、データ処理が始まると予想以上に負荷がかかっていたり、逆に軽やかに稼動したりする。

「データベースというミドルウエアと、そのパフォーマンスを軸にシステム全体の効率性というか美しさを見るのです。例えばリベートが慣習化している業界では、買掛勘定のデータ件数がリベート処理の分だけ多くなり、多くあるサブシステムのなかでも突出して肥大化してしまいがちです。そうしたときに、処理に手間がかかったりするものを分けるとか、他のサブシステムとの連携を調整するなどして最適な状態にする。それがつまり、基盤技術を担うということであり、私がJSOL認定ITプロフェッショナルのITアーキテクト、つまり"IT世界の建築家"と呼ばれる所以なのです」

パフォーマンス評価試験には、データベースシステムを熟知した人材が不可欠だ。なぜならば、ミドルウエアとしてのデータベースとサブシステムとの整合性なども課題になるからである。プロジェクトマネージャーなどとは違った立場から構築されたシステムを検証している。
今回のプロジェクトでは、鈴木は部下を持たず、自分一人で取り組んでいる。いわば完成品質を担保するための“特殊任務”であり、「こういう仕事は一人のほうがやりやすい」という。

ハードウエアの処理性能は飛躍的な向上を続け、ソフトウエア性能も上がっている。しかし、日々の業務でのITの支援度合いが増せば増すほどハードウエアなどの進歩以上にデータ量が多くなり、結果的にプラス・マイナス・ゼロとなってパフォーマンスの向上を享受できないという問題が起きている。
しかも四半世紀前ならば、1万件のデータ処理でさえ、多いといわれたものだった。しかし今や億単位の処理がなされている。それだけ業務のシステムへの依存が強まり、システムはミッションクリティカルなものになっている。そうしたなかでITアーキテクトの役割もまた増している。

「ITアーキテクトは、上空からシステム全体を俯瞰して機能のつながりを見ている鳥のようなものです。システム内の業務プロセスの流れとデータの流れを把握し、各機能がそれらの流れに適切に配置されているかどうかを理解してデータ設計を行うことで、システム全体を無意識のうちに検証しているのです」

アプリケーション基盤の開発でも先陣を切る

鈴木はもともと「基盤屋」ではなく、業務用アプリケーションの開発者だった。2007年に技術本部に異動してから基盤技術に取り組み、専門家として先に紹介したプロジェクトのような"特殊任務"も担う。

「業務アプリケーションの開発で、さまざまな業務に共通する作業部分が多くあることを知りました。この経験があるからこそ、ある処理は基盤部分に渡したほうが良いとか、このシステムではどこに負荷がかかってくるといったことが分かります。業務アプリケーションと基盤技術の両方にまたがってシステム開発を見ているような感じですね」

ところで先にも紹介したように鈴木は、ミドルウエアだけでなくアプリケーション基盤も見ている。アプリケーション基盤は「フレームワーク」とも呼ばれ、業務用アプリケーションの土台になる部分の部品の集まりのこと。例えば、データ処理の最中にエラーが出たら検出して警告したりする機能や、送ったデータの数を受信側が確認できる機能、誰がアクセスしたかを記録するログ機能などがある。

ITアーキテクト 鈴木 未知郎

「ルールとか規約と表現しても良いでしょう。こういうときはこう、という規約を決めてアプリケーション基盤として組み込んでいくのです。かつてはアプリケーション基盤という考え方はなく、同じような機能でも個別プロジェクト毎につくっていました。これは無駄で、つくり置きしておけば使い回しができます。アプリケーション基盤をつくってみたいと異動希望を出して技術本部に移りました。実は、そこから基盤技術に本格的に取り組むようになったんです」

さまざまな規約を集めた"部品集"としてのアプリケーション基盤では、JSOLには「VEGA」という情報を一括(バッチ)処理するための部品を集めたフレームワークがある。鈴木はVEGAの企画とつくり込みを担った開発メンバーの一人でもある。その重要な部分は、鈴木のアイデアで占められている。
VEGAと同じようなフレームワークとしてNTTデータには「Biz∫(ビズインテグラル)」があり、VEGAとBiz∫の統合作業も進められている。

「アプリケーション基盤を充実させるというのは、システム開発の手順や環境を標準化するということでもあります。しかし、標準化はいうほどには簡単ではありません。個別の開発現場で、本当に活用できるのかといった疑問がなかなか払拭できないからです」

そうした課題を克服して行くにはまず「システムをつくる上でのお作法を知ってもらわなければならない」ともいう。何故にこれが標準なのか、その理由を背景も含めて理解できなければフレームワークの活用に象徴される標準化は進まない。

「ユーザーインターフェースが快適な画面デザインをつくろうとするならば、左上にメニューがあり、作業は右下に流れていくのが最もスムーズであるというように、システム開発にはお作法があります。失敗操作のエラー警告などもそう。標準化と表裏一体にあるものづくりのお作法を開発者が理解すればするほど新しいアイデアや技術が誕生してくると思います」

“文系理系”の本領が発揮される技術者になった

ミドルウエアとかフレームワークといった、情報システムの基盤部分に関わる高度な技術に取り組んでいるが、実は鈴木は理系ではない。大阪出身で、最終学歴は関西大学経済学部卒。ぴかぴかの文系だ。

「大学を卒業するときは、若干ですがバブルの余韻が残っていて、文系か理系かを問わずに就職できました。私自身は、なにか手に職をつけたいと思い、当時の日本総合研究所を志望しました。大阪採用なので転勤がないだろう、暮らすならば東京やなくて絶対に大阪や、と決めていましたので」

日本総研の教育は厳しかった。数年で大学の理系、しかも情報処理系の学科の出身者と肩を並べるほどに徹底的に鍛えられた。

「厳しかったですね。でも私は、プログラミングという物事を組み立てていくおもしろさに取り憑かれました。システムの世界では完成品は目に見えないのですが、断片的な部品を集めてまとまった機能を備えたものを実現すると期待した通りに動いてくれる。また、COBOLやC言語など異なるプログラム言語を駆使して機能を実現したりするのも実におもしろかった。英語を覚えたらイタリア語もフランス語も喋れるようになり、数カ国語を駆使して意思表示しているみたいな感じなのです」

さらに、「システムを構築するというのは、プログラムを書くだけでなく人間関係も含めてつくっていくものだというのもおもしろさの一つです」というあたりは、文系出身者ならではの言葉だろう。

ITアーキテクト 鈴木 未知郎

1日中プログラムを打ち込んでいても苦にならないという。しかも大切にしている趣味の一つが、“撮り鉄”。いまだにデジタルカメラは使わずフィルムカメラを愛用し、撮影ポイントでじっと列車がやって来るのを待つ。個というか静の世界に浸るのが好きなのだ。
それでいて、もう一つの趣味がバンド。現在は東京勤務だが、大阪ベースのJ-POPバンド「LANA」のメンバーとしてリードギターを弾き、すでに5回のライブ経験もある。軟らかい髪を長髪にして後ろ髪に結んでいるのは、バンド野郎のささやかなおしゃれであろうか。

最低ランクの偏差値で、さすがにこれではどこの大学も受け入れてくれないと一念発起。1年間の浪人でレベルを上げ、好きな地理で受験できた関西大学に合格した。このときの経験から「成せば成る。しかし、成るようにしか成らん」が信条となった。

「実は同じことをいっているというのが私の考えです。成るようにしか成らんとは、プラスのイメージで考えれば、成せば成るということなのだと思っています」

1969年11月生まれの42歳。動と静がバランス良く同居し、不思議なエネルギーに満ちた人物だ。


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