(2018年04月現在)

企業のグローバル化が進むなかで、やっと手が付いてきたのが国内外のグループ会社が一体となったERPシステムの構築と運営だ。グローバルERPの導入に必要な方法論や手法を体系化して数々のグローバルプロジェクトを手がけ、なかでもSCM領域における業務プロセス診断とKPI定義などの手法を実践して上流工程のコンサルティングで活躍しているのがJSOL認定プロフェッショナル(アプリケーションコンサルタント)の中野修平である。

JSOL認定プロフェッショナル
アプリケーションコンサルタント
中野 修平

グローバル企業におけるICTの実態

外務省の『海外進出日系企業実態調査』(2016年10月1日現在)によれば、海外でなんらかの形で事業を展開する日系企業の総数(拠点数)は71,820にのぼり、過去10年間で2倍となった。過去の動きを見れば総数が減少している年もあるが、これは海外拠点の見直しや集約によるもので、全体としてはなお増加傾向にある。
またM&A助言会社のレコフによれば、2017年の日本企業による海外企業の買収は672件で年間としては過去最多になった。いずれにしても日本企業のグローバルな事業展開は、もはや"戻らざる河"と言うべき状況にある。

しかし国内外のグループ企業におけるICTシステムの一体運営という視点からグローバル化を見ると、「特にSCM(Supply Chain Management)分野でのERP(Enterprise Resources Planning)の活用は、やっと緒に就いたばかりで、これからの整備分野です」と中野は言う。
日本産業のグローバル化を牽引してきた大企業でも、似た状況にある。実際、中野がここ数年間に取り組んできたプロジェクトは、誰もが知っているような企業を対象としたものばかりである。

日本企業のERP活用には、"進化の過程"のようなものがある。つまり、まず本社で導入して、それを国内のグループ会社に展開させ、業界全体のシステムとも連動させてきた。そして今、海外のグループ会社へと展開しようとしている。
例えばSAP社のERPが海外のグループ会社でも導入されているケースは多いのだが、「それは、同じシステムであっても別のものとして導入されており、国内外のシステムが一体的に連携しているわけではありませんでした。未だに多くの企業では、日本と海外の担当者の間でExcelデータをメールでやり取りしているような状態にあります」
その上で、「リアルタイムでグローバルの状況を把握し、グローバルの視点で経営資源の最適化を図らなければ、現在の激しい市場の変化についていくことはできません。在庫の状況に応じて供給の最適化を図ったり、需要の変動をいち早く捉えたりできる、SCMの観点から経営判断を強力に支援するシステムが必要とされているのです」と解説する。

グローバルERP構築のための3つのポイント

中野は、「日本企業のグローバルERP活用が進んでこなかった原因の一つに、システムそのものに対する考え方の違いがあります」と指摘する。海外ではトップダウンでシステムの導入が進められるケースが多いが、日本では現場のやり方をなるべくシステムに反映させる"現場への配慮意識"が強く、その結果、日本では独自のシステムとなり海外のシステムとのつながりが悪くなるのだった。
つまり文化的な発想の違いや商慣習の違いなど、システムのみならず人の考え方をいかに統一していくかがグローバルERPの重要なポイントになるのである。

グローバルERPシステムの構築にあたっては、中野は「具体的には3つの大きなポイントがあります」と指摘する。つまり、(1)コード体系の統一、(2)KPI(Key Performance Indicator)の統一、(3)システムの展開戦略、だ。
コード体系が統一されていないことは、SCM分野におけるERP活用の最も大きな障壁となる。同じ製品や原材料でも国内外でコード(番号、分類など)が違っていると、システム上では同じモノと認識できず、また、同じ軸で分析することができない。一見統一されていることが当たり前のことのように思えるが、巨大なサプライチェーン、つまりグローバルSCMではしばしば独自の管理に陥った拠点が現れる。
「サプライチェーンでは、ネットワークの繋がりが強いほどコードを統一させる力が働く一方で、繋がりが弱くなれば、自然とそれぞれの管理の方向に力が働いてしまいがちです」

中野は、システム構築の要件定義の段階でコード体系を統一するコンサルティングにも力を注いでいる。
「コードは、それぞれの要件を満たすために細かく厳密にすれば良いというものではないのです。製品や原材料のコード体系、それにどれぐらいの組織が関わっているかなど、さまざまな切り口からどの大きさに揃えるかを検討し、その効果が発揮できるかを検討する。つまり"粒度"の見極めがシステム構築の最初の関門になります。細かすぎず、大きすぎず。国内外でコードに関わる人たちにとって同じ観点で可視化され、納得感があればよい、という考え方でアドバイスをさせていただいています」

グローバルERP導入の鍵となるKPIの統一手法

2つ目がKPIの統一だ。KPIは、重要業績評価指標の略語であることからも分かる通り、SCMの計画と実践において欠かせないものである。
同じ事業であればグループ会社間では同じKPIを採用していると思われるかもしれないが、実態はそうではない。それぞれの販売拠点や生産拠点において、従来の担当者より業務が脈々と受け継がれてきた結果、業務の評価指標までもが局所化されているケースが多いのである。ましてやこれがグローバルの話となると、評価軸も評価指標も異なっているのが実態だ。
中野は、「KPIそのものはシステムから出される数字にすぎないのですが、では何を指標にするかは経営の考え方に直結する重要な部分であり、ここにJSOLが培ってきた"ビジネスとシステムのコラボレーション"という力が発揮されています」と語る。

アプリケーションコンサルタント 中野 修平

統一化されたKPIの導入にあたっては会社、事業を横断して業務を区分けしていく業務診断が前提になる。
「そこで私たちはまず、業務を領域とプロセスに分解します。具体的には、販売、生産、購買、原価といった業務領域軸と、予算、計画、実績といったプロセス軸からなるマトリクスに顧客業務を当てはめていき、各業務プロセスが独立し確立しているか、業務プロセス間の連携ができているか、PDCAサイクルが回る仕組みになっているかを評価していきます。その結果、担当者に依存するような情報が局在化するプロセスが浮かび上がったり、数値が可視化されていない業務プロセスが判明したりします。そのように整理することで、何を指標として管理しないといけないのかが分かります」

グローバルERPで重要なのは、この業務診断とKPI定義のプロセスを、プロジェクトの早期にグローバルなレベルで実施することである。日本で行ってから海外に展開しようとしても、まず上手くいかない。業務診断により評価指標を定義し、評価軸をそろえることができるようにコードの統一化を行う、いわゆる業務の標準化に早期から着手できるか否かが、グローバルERP導入の成功の鍵となる。

「システムの展開戦略」というプロジェクト成功のコツ

グローバルERP構築における3つ目のポイントが、システムの展開戦略だ。中野に言わせると、「多くのプロジェクトを経験してきたからこそ分かるコツとも言える部分であり、どの拠点からシステムを導入していくか次第で、プロジェクトの効果が変わってくる」

海外の拠点と言っても、工場などの生産拠点、販売を行う拠点、管理を行う本社機能の拠点など性格はさまざまだ。また同じ生産拠点であっても、それがある国や地域によって従業員の技能習熟度やICTリテラシー、またコード定義に象徴される考え方の違いなど"特徴と個性"がある。
では、どの拠点からERPシステムを導入し一体運営を始めるべきなのか。中野は、「それは言うまでもなく、販売拠点からすべきなのです」と強調する。

販売拠点は、顧客に販売するのが任務であり、それは即ち「サプライチェーンとしては最下流に位置する」。そのために既存のシステムには、販売担当者が管理しやすいように独自のコード体系や管理方法が取り入れられ、局所最適化されているケースが多いという。前述のサプライチェーンのネットワークが弱い例が、まさにこれだ。
逆に生産拠点では、サプライチェーンの上流間で在庫の供給連鎖を行うため、既に統一されたコード体系を使っているケースが多い。つまり他のシステムとの関連や結合度が販売拠点に比べると強力なのである。
「とすると、まず全体のシステム像を前提として供給連鎖の結合度が比較的低い販売拠点でコード体系を統一し、国内外のグループ会社全体で売上実績などを共有できるようにする方が効果的です。ERP活用のための導入負担が軽いとも言えます。これを製造拠点側から構築しようとすると、他の拠点やシステムとの結合度が高いが故に、システム更新は"ビッグバン"になり、お客様の負担が飛躍的に大きくなりますし、システム開発においても非常にリスキーな状況が出現しやすくなるのです」
いわば、導入しやすい領域から進め、外堀を埋めて本丸に迫るという発想だ。

実際、中野がプロジェクトリーダーとしてシステム構築を支援した大手企業のプロジェクトでは、グローバルにおける部品供給と製品販売のサプライチェーン全体を手掛け、需給調整や三国間貿易システムの構築という極めて複雑な受発注モデルを実現したが、このプロジェクトの初年度に取り組んだのも販売拠点へのシステム導入だった。
「この方法が功を奏して次々とシステムを展開することができ、生販検討のリードタイム削減や販売計画・実績の可視化など、システムの導入効果が如実に現れた」と中野は語る。

デジタルトランスフォーメーションがグローバルERPを加速させる

中野の活躍でもう一つ忘れてならないのが、SAP社の最新ソリューション「SAP S/4HANA」を、SCMの領域にいち早く適用し、システム構築をやり遂げたことだ。SAP社が同社の優秀なパートナー企業を表彰する制度である『SAP AWARD OF EXCELLENCE』において最優秀賞『SAP Project of the Year』を受賞するなど、その功績は社内外から高く評価された。
「SAP S/4HANA」は従来の「SAP ERP」の後継製品であるが、その仕組みは従来製品とは全く異なるものとなった。特徴を一言でいうと「分析能力の高いERPソフトウエア」である。

従来のERPシステムでは、データを登録する機能と分析する機能は別のものとしてつくられていた。ICT用語で言うと、OLTP(Online Transaction Processing)とOLAP(Online Analytical Processing)が分断されていた。つまり、月中に発生した販売実績などのデータを月末に集計して分析用のシステムに渡し、それから前月の実績を分析するといった具合だ。
これに対して「SAP S/4HANA」では、HANAの持つデータベース特性を活かして、大量のデータでも瞬時に集計することができるため、データを集計するプロセスが不要となった。その結果、「過去のデータの分析ではなく、まさに今起きているデータの分析がSAP S/4HANAで可能となった」というわけだ。

中野によれば、技術革新が求められた理由は、「従来に比べて消費者の価値観が多様化し、ビジネスが変化するスピードが増したことで、常に迅速な経営判断が求められるようになったから」である。
かつて消費者は、自分の手の届く市場の範囲内で既成の商品を選んで買っていた。しかし現在は、自分の好みに合う商品を膨大な情報の中から選ぶことができるようになった。それだけではなく、自分用にカスタマイズされた商品を購入することも、今では珍しくない。
SNSなどの影響力も増している。メーカーもかつては、テレビのCMを打つタイミングなどに合わせて商品の供給計画を練っていた。しかし現在は、SNSで「いいね」などの評価がされると供給が追いつかないほどの大量の注文が入ったりする。つまりビジネスの計画が立てにくいのだ。
だからこそリアルタイムで判断できるシステムが求められた。

アプリケーションコンサルタント 中野 修平

今、中野はSAP Leonardoと呼ばれる最新テクノロジーに注力している。
「Machine Learning」「Blockchain」「Data Intelligence」「Big Data」「IoT」「Analytics」の6つの分類からなる最新テクノロジーの部品群であり、これらを組み合わせてデジタルイノベーションを起こす。
データ解析や画像識別、パターン認識などによりこれまで人間では気付かなかった洞察を与えたり、センサーを活用して今在庫がどこにあるかをリアルタイムに知らせたりすることができるようになった。
これらのうち、いくつかはすでにJSOL内での実証も行っているが、「これらの活用で今までのSCMの概念やカバーする範囲が変わってくる」と、既に実感を掴んでいる。ICタグを使ったグローバルの在庫管理。ラストワンマイル物流の実現によるSCMの拡張。インターネット上に溢れるデータを基に、市場の変化の兆候を検知して予測モデルを更新し、正確な需要予測を立てる。湧き出るアイデアは止まらない。

こうなってくると、もはや"現場への配慮意識"から、自社にカスタマイズされたERPが必要などと言っていられない。グローバルでシステムを共通化し、業務を標準化することがこれからのERPでは大前提である。
「SAP S/4HANAのERPシステム構築では、JSOLは先駆的な知見を持っており、お客様への訴求力も増しています。ERPで業務効率化を行って、浮いたコストでデジタルイノベーションを行い、市場での競争力を身に付ける。お客様と一緒にそういうビジネス戦略を立てたいですね」

「なぜ、なぜと突き詰めるのが好きな性格」

中野は徳島県吉野川市に生まれ、地元の高校を卒業後は大阪大学理学部へ進学。その後、同大学院に進んだ。専攻は「量子化学」というちょっと聞き慣れない分野だった。
「物質が、なぜその物質固有の性質を示すのか。固有の分子構造を成し、化学反応を起こすのか。それを数式だけで解明する理論化学の一分野です。子どもの頃から、『なぜ、なぜ』と物事を突き詰めていくのが好きで、紙と鉛筆で数式を紡いで物事を解き明かす過程は、それまでの何よりも楽しかったです」

大学院を修了した後、日本総合研究所(現JSOL)に入社したのは2003年のこと。大学院ではワークステーションをフル活用していたので、コンピューターやシステムと無縁ではなかったとはいえ、意外な就職先だったようにも思える。
「なぜ?を突き詰めていく学問と、コンサルティングは似たところがあります。なぜ?と問いを持つ思考回路がなければコンサルティングはできません」
中野が就職した頃は、コンサルタントをめざす若者が非常に多かった時代だ。自身もコンサルタントに魅力を感じていたものの、コンサルタントでは実現できることに限りがあると考えた。
「コンサル×ITという問題の答が日本総合研究所でした」

入社してからはSAP社のERP一筋。生産管理のシステム構築から始まり、販売物流、在庫管理、品質管理、原価管理などを学び、SCM全般に深い知見を持つようになった。現在は、グローバルERPの導入やSCMの上流工程のコンサルティングにプロジェクトリーダーなどとして活躍している。

「新しいお客様に出会うたびに、お客様から学ぶことがあります。今までより良いものを提供したい、一緒に面白いことを実現したいと常々思っています。こういう考え方のベースは学生時代の環境や、勉強した学問、入社後の環境によるところが大きいです」
さまざまなものから学んで知識を増やし、仮説検証を繰り返して物事の本質を探り当てる。なるほど、対象が「量子化学」から「SCM」に変わっただけで、やっていることは同じというわけだ。
これからのSCMを想像し夢を膨らます中野の姿には、頼もしさと共に改革を引き起こす強い意志が感じられた。


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