(2018年08月現在)

企業のビジネスにとって、重要度が高まりつつあるICTシステム。それを支えるインフラも同様に注力されています。しかしオンプレミスだけでなく、プライベートクラウド、パブリッククラウドなど、ICTの形が多様化するにつれ、インフラの構築、運用は複雑なものになってきました。ハイブリッド化していく環境に対して、これからのICTインフラはどうあるべきなのか、JSOL認定プロフェッショナル(ITアーキテクト)川邊哲也が解説します。

JSOL認定プロフェッショナル
ITアーキテクト
川邊 哲也

増加しているハイブリッド環境に、ICTインフラも対応する必要がある

技術の発展と普及により、企業におけるクラウドの認識は大きく変わりつつあります。3年前なら「クラウドのセキュリティーや信頼性は大丈夫なのか?」という様子見の企業が多数派でした。しかし、現在は多くの企業で、クラウドサービスやサーバー、ストレージ、ネットワークの仮想化などの技術導入が進んでいます。

確かに、ビジネスのスピードに対応できるシステムを構築するのであれば、クラウドサービスは効果的です。クラウドには、「調達が早い」「すぐに利用を始められる」「従量制のため、スモールスタートしやすい」などの利点があり、それらのクラウドならではのメリットを生かしたいという声はよく耳にします。

一方で、「オンプレミスで構築していた従来の業務システムはなくせない」といった意見も少なくありません。また、早いサイクルで開発できると注目されているアジャイル開発はクラウドで提供するWebサービスには適しているのですが、業務システムに対してはそのまま適用しにくいという事情もあります。

そのため企業内システムは、従来型のオンプレミスとクラウドの混在、あるいは複数のパブリッククラウドを併用するものが主流となりつつあります。であれば、それを支えるインフラもまた、それぞれが円滑に連携できるように構築しなくてはいけません。

オンプレミスとクラウドにおけるICTインフラの質の違い

オンプレミスとクラウドでは、それぞれのインフラの質が異なる点を理解しておく必要があります。

オンプレミスの場合、いったん作ったものはその役目を終えるまで、大きな変更をせずに利用していくことが前提です。そのインフラもまた、同じ仕様のまま長期間運用することになります。しかしオンプレミスにはオンプレミスの利点もあります。それは、可用性、データの保護など要件に合うように設計できること。つまり、インフラを含めたすべてを自分たちでコントロールできるメリットがあるのです。

一方クラウドは、提供するプロバイダーが用意した機能を使うのが基本であり、自分たちですべてをコントロールできるわけではありません。そして、検討しているサービスがニーズに合致しているのかという検証は自分たちでやらなくてはいけません。

そのため、クラウドにはオンプレミスとは異なる種類の検証が必要となります。オンプレミスでは、仕様書の要件を満たせるインフラを構築できるかという検証が中心になりますが、クラウドの場合は要件を満たしているのかどうかを検証することになります。そして検証した結果、ニーズに合っていないと判断した場合は、別の方法を検討しなくてはいけません。

もう一つの注意点として、クラウドのサービスは進化していくということが挙げられます。検証段階では搭載されていなかった機能が、あとになって追加されることも珍しくはありません。しかも、ユーザーに対して機能の追加が通知されるとは限りません。最新の環境を把握しながら運用を続けるには、自ら情報を求めて探しにいく必要があります。

こういう事情は、SaaSだけでなく、ICTインフラでも同様なのです。そのため、常に情報をキャッチアップしていくという姿勢が重要になります。

クラウドを将来にわたって長く活用する鍵は柔軟性

私の仕事は、お客様にメリットがある技術を取り入れながら、コストやリスクを抑えつつ、インフラ全体の構想を考えることです。

デジタルビジネスという言葉があるように、企業においてICTシステムの重要性は大きくなる一方であり、いかに活用できるかが、ビジネスの成功に直結している、といっても過言ではありません。

しかし、真にビジネスを成長させるシステムを構築するのであれば、社会の変化、ビジネスの進化、ユーザーニーズに合わせて柔軟性を持つことは必須です。当然、インフラにおいても、構築段階で、将来どのような変更が想定できるかを見越して、柔軟に変えられるように設計しなくてはいけないのです。

インフラの柔軟性とはどういうことでしょう。例えば、サーバーの構成を変更する、ストレージの容量を増やすなどが挙げられます。しかしこれは、従来のオンプレミス環境のサーバー仮想化でも対応できていた変更といえます。それ以外にも、以前からあった機能のうちの一部を、新たにリリースされたクラウドサービスに置き換えることなどが考えられます。

また外部要因から変更を迫られることもあります。例えば、新しいタイプのサイバー攻撃が発生し従来のままでは対策が難しい場合には、攻撃を防ぐためのセキュアなネットワークを追加するといったこともあるでしょう。

サーバー、ストレージ、ネットワークの仮想化などによって、そのような柔軟性を実現できますが、ただその技術を取り入れるのでなく、運用に移ってからも効率よく変更しやすいように設計しておくことが重要になるのです。

仮想化によって急増したサーバー。運用対象も増加

仮想化が普及してから顕著なのが、仮想サーバーなどの急増です。かつてはサーバー増設場合、新たなハードの購入、設計・構築が必要でした。しかし、仮想化が主流になってからは手軽にサーバーを増やせるようになりました。その反面、管理すべき対象も増加してしまい、運用側の負担増加をもたらす結果となってしまいました。

ITアーキテクト 川邊 哲也

そこでいかに稼働後の負担を軽減できるように設計できるかがポイントになります。この業界では、「ここまでは構築しているので、あとは運用でカバー」というような言葉をたびたび耳にします。しかしその手の運用は人手を使って対処しなければいけません。人手がかかることであれば、時間も手間も、そしてコストも増えます。そして実際にトラブルが発生してしまうと、最終的にはお客様に迷惑をかけることになりかねません。

それが分かっているからこそ、いかに設計、開発段階で先を見通すことが大切になります。もちろん、将来起こりうることのすべてを見通すことは不可能ですが、深く検討を重ねて設計することが、長期間にわたって使うICTシステムの安定運用につながるのです。

インフラの専門家として私は、お客様が利用されている間は価値を提供し続けたいと考えています。インフラの検証、運用の難易度は高くなりつつありますが、ニーズに応えるために柔軟、かつスピーディーに変更可能なインフラを提供できるように努力しています。

ICTインフラの鍵は自動化。素早さがお客様のビジネスのスピードアップにも

これからのICTインフラの開発、運用の鍵になるものとしては、自動化が挙げられます。

ITアーキテクト 川邊 哲也

ここで言う自動化とは、従来スタッフが行っていたインフラの構築、運用を、ツールなどを使って自動的に実行することですが、運用に対しては最近始まったことではありません。メインフレームの時代から、ジョブの自動実行などは当然のように使われていました。しかし最近の自動化は、当時のものとは様変わりし、インフラ構築や構成変更、テストなどをスピーディーに行うことを目的として使われています。

この流れの理由も、やはりシステムがビジネス要求に迅速に応えなければならないという点にあります。アプリケーションの変化に俊敏性を求められるということは、その土台であるインフラの構築、変更にも素早さが求められるということです。そのためには、従来通り、人手で構築、変更するのではなく、積極的に自動化技術を取り入れていかなければなりません。そうでないと、インフラがシステム全体の足かせ、それどころかビジネスの足かせになってしまいます。

インフラの構築、運用を自動化するためには、構築や運用の手順をプログラムとして記述する必要があります。これまでのインフラエンジニアはアプリケーション開発者と比べるとプログラムを書くことは少なく、必須スキルというわけでもありませんでした。今後はインフラエンジニアにもプログラミングやソフトウェア開発のスキルが必須になっていくでしょう。

ベンダー同士の関係性にも変化。お客様第一の姿勢で協力体制

このような変化のなか、ベンダーやSIerとの協力の形も変わってきたことも実感しています。それを特に感じたのは、2つの会社が合併した際のシステム統合でした。合併前はそれぞれの会社が別々のベンダー、SIerを使っていました。当社もICTサービスコーディネーターとして、一方の会社から請け負っていました。

合併にあたってはシステム、およびネットワークなどのインフラの統合が必要となります。このケースでは、お客様を交えた3社、ときにはお客様を交えず、エンジニア同士が膝を突き合わせて、さまざまな議論を行いました。エンジニア同士の話し合いなら、細かい技術的な話も具体的に議論できることもスムーズに進んだ要因です。

印象的だったのは互いに腹を割って、どうすればシステム統合を成功に導けるのかを相談できたことです。昔だったら、秘密を明かさずに交渉を続けて、中途半端な統合に陥っていたかもしれません。しかしこのときは、必要な情報を交換し、助け合いながら統合を成功に導きました。

私にとって、このプロジェクトは大きな糧となりました。こちらが壁を作って秘密を守りながら交渉に臨むと相手も同じような対応をしたでしょう。しかしお客様第一という姿勢で応対すると、相手も協力してくれました。ベンダー同士が深い信頼関係を結べたこと。それがプロジェクトの成功の大きな鍵となったのです。

いずれは「インフラエンジニア」という言葉がなくなるかもしれない

ビジネスをめぐる社会環境は変化していきますし、次々と新しいテクノロジーが登場してきます。お客様のビジネスに最適なICTを提供しつづけるには、インフラエンジニアも、社会の変化やビジネスの進化、そして多岐に亘る新しいテクノロジーを把握しなくてはいけません。もはや「インフラだけを担当していればいい時代ではない」ということです。

そうなると、必要になってくるのはシステムの開発、運用だけでなく、お客様のビジネスを俯瞰して仕事ができるエンジニアです。自分の専門分野だけでなく全体に対して目を配ることで、将来性やお客様のニーズに対応できるインフラが構築できるわけです。

ICTインフラを構築し、運用するのがインフラエンジニアの仕事ですが、その内容の変化を考えていくと、「インフラエンジニア」という言葉はそう遠くない将来にはなくなるのではないかと感じています。

ただ、この分野の専門家がまったく必要なくなるとは見ていません。やはり従来通りのオンプレミスは残り続けるでしょうから、インフラに精通したエンジニアは不可欠です。

すべての過去の仕事が今の自分を作っている。そして今の仕事が将来の自分を作る

私が社会人になって最初に担当した仕事は、メインフレーム用のミドルウエアの開発、保守でした。その後も、メインフレームからのオープン系への移行、データセンターの運用、サーバー仮想化など、一貫してインフラに関する業務をやってきました。7年くらい前からは仮想化、最近はパブリッククラウドが主力です。

なかには、希望ではない業務を担当していたことも事実です。しかし、今にして振り返ると、すべての仕事が今の私につながっていると感じています。ネットワークの仕事もメインフレームの仕事も、そこで得た経験やスキルが私自身の血肉になっているから、インフラ全体を提案するという現在の仕事に生きているのです。

ITアーキテクト 川邊 哲也

現在のITアーキテクトの仕事も、数年経って振り返れば、別の新しい仕事への足がかりになっているかもしれません。そう考えると、すべての仕事に対して前向きに取り組むことができます。

私事になりますが、長男が大学に通いながら、Webサービスを運営している企業でITエンジニアのインターンをしています。そういうこともあってか、長男とICTに関する話をすることが増えました。私自身の経験がこのような形で未来へとつながっていくのかもしれません。

ICT業界は、技術が大きく進展しています。ですが、変わっているのは技術だけではありません。お客様のICTの活用方法も大きく変貌しています。以前は、業務の効率化やコスト削減のために活用していました。しかし今は、ビジネスを成長させる起爆剤、売上に貢献できるパワーを求めるようになっています。

私はITアーキテクトとして、ICTインフラの技術力を駆使して、お客様のビジネスに貢献することが使命と考えています。昔から使われている技術に精通し、それを下敷きに、新しい技術を取り入れて進化させ、新たな価値を持ったインフラをお客様に提案していきます。ICTは「使ってナンボ」というものです。構築だけでなく、運用も大切。お客様のビジネスに対して伴走できるように、全力で支援していきたいと考えています。


  • 本ページ上に記載または参照される製品、サービスの名称等は、それぞれ所有者の商標または登録商標です。

  • 当コンテンツは掲載した時点の情報であり、閲覧される時点では変更されている可能性があります。また、当社は明示的または暗示的を問わず、本コンテンツにいかなる保証も与えるものではありません。

関連リンク

もっと見る