これからの『食』を考える

2020年7月9日、16日の両日、東京都千代田区の3×3 Lab Futureにおいて、「社会デザイン・ビジネスラボ 研究会第1回【テーマ:食】 これからの『食』を考える」を開催しました。

Day 1

Day1(7月9日)は、長年、有機農法による農産物を消費者に届けるビジネスを実践してきたオイシックス・ラ・大地株式会社 藤田 和芳氏による基調講演、いのべ場を活用したワークショップを行いました。

ウイズコロナ時代に求められるビジネスの役割

立教大学大学院
21世紀社会デザイン研究科 教授
社会デザイン研究所 所長 
社会デザイン・ビジネスラボ会長
中村 陽一 氏

中村:
私たちは今、新型コロナウイルス感染症という世界的な課題に直面しています。対面によるコミュニケーションが断たれ、プライベート、オフィシャル、パブリックという三つの領域が混在する「ライフ&ワークミックス」が始まろうとしています。
そのなかでビジネスに求められる役割は何か。企業や団体が社会とかかわりを深めていくには、どのようなアクションが必要なのか。
社会デザイン・ビジネスラボは、この課題を当面のミッションの柱として進めていきたいと考えています。

基調講演「 ダイコン一本から始まった革命 」

オイシックス・ラ・大地株式会社
代表取締役会長
藤田 和芳 氏

藤田:
農薬や化学肥料を使わない農産物を消費者に届ける——。このビジネスを45年間、一筋にやってきました。常に心掛けてきたのは「子どもや孫の世代から、飢えや戦争をなくす」ことです。
その実現には政治活動も重要ですが、私が選択したのは「ビジネス」という手法でした。持続的な経営、有機農業によって、「食」と「平和」を実現すること。当初、有機農業に対する風当たりは大変なものでした。しかし立ち止まることなく、常にイノベーションを起こして乗り越えてきました。
生産では、新しい堆肥の作りかた、害虫対策には天敵を活用するなど、新しい農業、将来性を訴えました。流通では、団地での青空市から始まり、共同購入、宅配、インターネットへと広げました。消費者には「見かけや値段」よりも「安全性や瑞々しさ」を訴え、食に対する価値観や生産者に対する信頼関係の構築を目指しました。
生産、流通、消費者の意識、これらのイノベーションのうち一つでも欠けていたら、日本の有機農業は成立しなかったと思います。
現在の新型コロナ騒動から学べることが一つあります。それは「自分だけがメリットを享受できる構造はありえない」ということです。私たち起業家、社会運動家は、ビジネスを進めるとともに、社会全体、世界全体が幸福に向かう構造を考え続ける必要があるのだと感じています。

ワークショップ-いのべ場を活用したグループディスカッション

基調講演のあと7つのグループに分かれてワークショップを行いました。いのべ場では、まず課題を抽出するために「要素分解」を行い、食に関する多くの要素を抽出し、新しいアイデアを自由に発想する土壌を作ります。
そして「食料問題」「フードロス」「環境問題」「アレルギー」などの食にまつわる社会的課題から各自がビジネス案を考え、グループ内で発表し意見を交わしました。

Day 2

Day2(7月16日)は、食に関するビジネスを推進している株式会社DATAFLUCT 久米村 隼人氏、株式会社CAN EAT 田ケ原 絵里氏、ロッツ株式会社 富山 泰庸氏による講演と、ワークショップを行いました。

講演1:フードロス問題をデータサイエンスの知見で解決する

株式会社DATAFLUCT
代表取締役
久米村 隼人 氏

久米村:
DATAFLUCTは「データサイエンス」と「新規事業」を組み合わせた事業を行う会社です。コアミッションは「いかにしてデータで世界を変えるか」であり、最初に手掛けたのが「フードロス」でした。
フードロスといえば家庭での廃棄がよく取り上げられますが、データとして分析すると店頭での売れ残り、農場での生産過多、流通過程での廃棄などサプライチェーンの全体で発生していることが見えてきました。
その理由の一つとして、データの非連携が挙げられます。例えば、スーパーでは閉店時間が近づけば値下げを始めます。しかし「今日は天気が悪いから来店客が少ない。早めに値下げをして売り切ろう」と対処すれば、効率よく売れ残りをなくし、損失も減らせます。
このコンセプトをもとに作成したのが、天候や需要の変動、ライバル店の販売戦略などを分析して、利益を上げ、廃棄率を下げる店舗支援型AIサービス「DATAFLUCT foodloss.」です。また生産や流通の現場向けの「DATAFLUCTagri.」は、衛星画像や気象データを活用し、農作物の市場価格変動をAIで予測することで価格の安定化を図ります。
私たちは、社会全体でフードロスを減らす環境作りを目指しています。

講演2:「 食べられない」というハンディキャップをなくす

株式会社CAN EAT
代表取締役
田ケ原 絵里 氏

田ケ原:
私たちにとって食事は重要なコミュニケーションの一つ。しかし、アレルギーや体質、宗教上の理由などで食事が制限される人もいます。CAN EATは、外食時であっても「食べられないことによるハンディキャップ」をなくしたいと願っています。アレルギーを抱えている人は外食のたびに症状を伝える必要がありますが、二度目、三度目と重なると「言いづらい、聞きにくい」雰
囲気になります。そこで開発したのが、個人の食の情報をいつでも確認できる食事プロフィール帳サービスです。ユーザーは、絶対に食べられないものや苦
手なもの、アレルギーレベル、好きなものといったデータを登録し、そのURLやQRコードを知人や同僚に送るだけで情報を見てもらえます。有料になりますが、ホテルなどの法人向けにアレルギー事故を防止するサービスも提供しています。食べる側の視点に加え、食を提供する側の視点も取り入れることで、双方にメリットのあるサービスを生み出せると考えています。

講演3:健康な人を増やせば、将来の子どもたちへの借金も減らせる

ロッツ株式会社 代表取締役社長
富山 泰庸 氏

富山:
ロッツの始まりは、東日本大震災で生じた薬不足を解決する調剤薬局の開設であり、訪問リハビリ、障がい者就労施設運営などに事業を拡げています。「岩手の気仙地域を健康な人で埋め尽くす」こと、そして復興のために全国へ波及できるビジネスの創出を目指しています。
2020年秋、陸前高田にオープン予定の発酵パーク「CAMOCY」プロジェクトで、ロッツはオーガニックカカオによるチョコレート「CacaoBroma」の開発に取り組んでいます。
カカオは抗酸化作用が高いとされています。しかし、一般的なチョコレートはくちどけをよくするためにさまざまな油を投入しておりますが、中には酸化しやすいものも含まれています。そのため、カカオの持っている抗酸化作用が薄れてしまいます。それに対してオーガニックなCacaoBromaは抗酸化作用を維持できます。
しかし正直なところ原材料のコストが高くつき、利益は期待できません。なぜそんなビジネスをやるのかといえば、やはり「挑戦する意義がある」からです。
高齢者の皆さんが健康になれば財政も健全化します。東日本大震災で助かった皆さんを一人でも多く健康に、そして雇用を一人でも多く。この地域の子どもたちの将来に借金を残さない社会を作りたいと考えています。

ワークショップ-いのべ場を活用したグループディスカッション

Day1で考えたアイデアをもとに議論を深めて、各グループで一つのビジネス案をまとめ、発表しました。冷蔵庫、地域コミュニティー活性化にもつながる空き家を活用した食育活動、食の大切さを伝える都市型の農地支援サービスなど、さまざまなビジネス案が発表されました。もっとも高い評価を得たのは、予防医療を組み合わせた旅行を提案してくれる予防医療ツーリズムアプリでした。

総評:「 本当の意味での参加型社会に向けて」

最後に社会デザイン・ビジネスラボ会長 中村 陽一氏が、2日わたる研究会について総評を語りました。
中村:今回のテーマは食。食と何を掛け合わせたら新規ビジネス創出になるのか。地域やコミュニティーとどうつながるか、そして事業としてのサステナビリティ、環境とのサステナビリティを意識したエコシステム構築という点も重要です。
少し視点を変えますが、「ベーシックインカムによって働く人がいなくなる」と懸念されています。しかしボランティアや社会貢献活動のように、人が何らかの形で社会にかかわっていること自体を評価して給付するという考え方も生まれています。
それが本当の意味での「参加型社会」です。この新しい社会に向けて、ビジネスとしてどのように取り組むのかを考えていけばワクワクするミッションになるのではと期待しています。

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