(2018年01月現在)

システム投資の効率化を求める動きは尽きることがない。それはシステム運用の管理・監視分野にまでおよび、それによってオンプレミスに対応したハウジングサービスが拡大してきた。そして今、クラウドという新たな利用形態が急速に普及し始めている。その波のなかで、JSOLとしてのシステム運用の管理・監視で新たなビジネスの構築に取り組んでいるのが、JSOL認定ITプロフェッショナル(ITアーキテクト)の宮本茂樹である。

JSOL認定プロフェッショナル
ITアーキテクト
宮本 茂樹

システムのあらゆる技術要素を熟知する運用の管理・監視

まず、自身が新本社ビルへの引っ越しと、新本社ビルの維持管理に関わるすべての事柄についての総責任者になったとイメージしてみよう。
引っ越しの作業は膨大である。什器類や資料などの"断捨離"は、どんな基準で判断すればよいだろうか。引越業者との段取り設定もある。同じように新本社での什器類の手配があるし、停電を起こさないためにどうするか、快適な空調を維持するにはどうするか、はたまたセキュリティーはどう確保するかなどの難題がある。さらにはIT設備の引っ越しや切り換えをトラブルなしに行うにはどうしたらよいか等々。
総責任者は、さまざまな事柄について熟知して万全の段取りを整えなければならない。

「新本社ビル」を、「ITシステムの運用」に置き換えてみよう。より効率が良く低コストのシステムへのハードとソフトの両面の移行と移行後の安定した運用を維持するためには、物としてのコンピューターについてだけでなく、組み込まれているシステム、コンピューターの置かれる場所の空調や電力、ネットワークなど、システムについてのあらゆる技術要素に熟知していなければならない。
宮本は、「私の仕事は、いわばシステムの設置場所を提供する不動産屋さんと、電力や空調などを管理するファシリティー屋さん、さらに日々のシステムの運用を管理・監視するシステムの運用管理者という3つの側面をコーディネートしJSOLのサービスとして構築、提供することです」という。

「例えばサーバーがたくさん置かれているセンターは、室温が22~23度で維持されており、面積当たりのサーバー台数の密度が増せば必然的に発熱で室温が高くなるので設計を見直さなければなりません。またサーバーが物理的に壊れてシステムがダウンすることもありますし、悪意のある第三者がシステムに侵入してくるかもしれません。またSAPなどの基幹業務向けソフトウエアごとによってトラブルの発生要因も異なります。それらをトータルに管理・監視しています」

これらを1つのパッケージとしてお客さまに提供しているのがJSOLのハウジングサービスだ。お客さまが所有するサーバーをJSOLのセンター内に設置してJSOLがITシステムを運用する。システムには24時間365日、オペレーターが貼り付き、トラブルが発生しないように管理・監視する。
データセンターとシステムの運用時間に合わせて勤務するオペレータを自社で保有する形態と比べコストを大幅に低減できることから多くの企業がハウジングサービスを利用している。

「いわゆる高速大容量のネットワーク網が整備されてきた2000年ごろからハウジングが注目されるようになり、運用管理サービスがビジネスとして成立するようになりました。JSOL自身がお客さまのシステムを開発し、そのままJSOLのハウジングとして運用しているケースも数多くあります。作り手の下でシステムが動いているのでお客さまの安心度も高くなるのです」

2月間11回分割の大規模ハウジングプロジェクトを指揮する

ハウジングが普及する前は、自社内にサーバーを置き、自社で運用管理する形態が多かった。ハウジングサービスへの移行は、当然ながら「引っ越し」という作業が生じる。またシステムの切り換えなどで躓けば、お客さまの業務が停止してしまう。
「不動産屋兼ファシリティー屋兼システム運用管理者」という宮本の真骨頂とも言える仕事になったのが、ある大手スーパーの全システムをJSOLのデータセンターに移行するハウジングプロジェクトだった。

この移設プロジェクトは、2カ月間に11回の移設作業を行い、お客さまの手元にあったホストコンピューターも含めてJSOLがハウジングする大規模なものだった。お客さまに全店休業にしてもらい、一挙に移設する方法もあったが、「地元の住民の生活を守っている者として1日たりとも休業はできない」という要望を受けて11回に分割された。

「プロジェクトでは、リスク対策を徹底しました。お客さまのシステムは、多くのベンダーが関連してつくられており、いくつものシステムが連携しているような状態でした。また、各システムの運用管理は開発した複数のベンダーに任されていました。システムの全体像を業務との関連性も含めて紐解きながら、移設作業に伴うリスクを明らかにしていくのが最初の難題でした」

浮かび上がってきたリスクと対応策は、大まかなものだけでも次のような具合だった。
ハード障害時の対応=移設作業によってハードになんらかの障害が発生したときにどう対応するか。緊急保守体制を確保しておき、保守部材も事前に確保しておく。
業務処理異常時の対応=同じく移設作業によって業務処理ができなくなってしまう可能性もある。これはアプリケーションの保守要員を待機させ、事前にリカバリー方式を設計してテストし、何時間ぐらい遅延が許容されるかを定義しておく。
戻し計画の策定=移設作業が予定通りに進まなかったときは、作業を止めて元の状態に戻す。その戻し判断の基準や時間、手順を策定しておく。また作業当日の進ちょく状況を見える化して適切に判断できるようにする。

これは宮本が練ったリスク対策のほんの一部にすぎない。
「この他にも例えば、作業動線の確認や予備設備、機器類の確保なども重要でした。作業動線の確認では、事前に機器移動の計画を策定してルートや設置場所を確認し、移設予定時間にエレベーターの保守作業がないかも確認しておきました。また予備設備や機器類の確保では、コネクタの形状が違っていることもありますので予備の電源や形状の異なるケーブルなども確保しておきました」

実は、JSOLへのハウジングでは、他社の協力なしには移設は成功しない。
「相手の考え方に併せてさまざまなアプローチを行い、良好な関係づくりに力を注ぎました。こちらが指示できることでもあえて他のベンダーさんに計画を委ねるなどして主体的に取り組んでもらえるような環境づくりが重要でしたね」
人間関係づくりも運用の重要なノウハウなのだった。
そして同時に部下たちには、リスク対応策の伝授を中心にして「なぜこのリスクが発生するか、発生するとどうなるのか、どのように事前に対策を行うのかの3つを、ファシリティーとネットワーク、サーバー技術の観点からじっくりと考えさせました」という。

クラウドという新たな波にさらされる

低コストと安定・安心のシステム運用を提供するハウジングビジネスだが、実は今、大きな節目に直面している。アマゾンの「AWS」やマイクロソフトの「Azure」など、クラウド型のコンピュータープラットホームサービスの台頭だ。
宮本に言わせると「これまでのハウジングビジネスで蓄積してきたサービス力を、まったく異なる舞台でいかに花を咲かせていくかの挑戦」になる。

クラウド型コンピュータープラットホームサービスとは、アマゾンやマイクロソフトが持つ膨大なコンピューターに、基幹システムまで含めてまるごと移設してしまい、ユーザーはネットワークを通じてアプリケーションを利用し、データもクラウドに保存する。多くのユーザーが同じコンピューターを利用するので「パブリッククラウド」とも呼ばれる。
アマゾンやマイクロソフトの"売り"は、利用料金が利用時間に応じた従量課金であることに象徴されるシステム投資費用の削減と、最新の設備を利用できるという点にある。

「パブリッククラウドが大きな関心を集め、強烈な勢いで利用者を増やしているのは事実です。では私たちはなにができるのか。JSOLでは2016年からパブリッククラウドを前提とした運用管理、監視サービスの提供を始めました」

ITアーキテクト 宮本 茂樹

新しい流れは、3つのサービスの重なりを促している。まずネット経由でハードウエアのリソースを提供する「IaaS(Infrastructure as a Service)があり、その上にアプリケーションを実行するためのプラットホームを提供する「PaaS(Platform as a Service)」があり、頂上部分にはアプリケーションそのものも利用できる「SaaS(Software as a Service)」が重なる。
では、従来のような運用管理のビジネスがなくなるのかと言えば、宮本は「そうではありません」と断言する。
「SaaSが主流になってくるだろうとは言え、アプリケーションや、その下層にあるミドルウエアは、やはり独自の仕組みを開発しなければなりません。日本企業は、独自の商慣行などを多く抱えておりカスタマイズの要求が強いので、クラウド事業者が提供するテンプレートだけでは業務は行えません。ですからミドルウエアとアプリケーションの開発の際に、それらの運用を管理・監視し、不具合に対応するための仕組みも同時に必要になるのです。また、さまざまなプラットフォームを跨ぎサービスを提供するシステムの運用管理のノウハウ、ここに新たなビジネスチャンスがあります」

クラウド時代のワンストップサービスを構築する

宮本によると、特にお客さまの要望が強いのがセキュリティーだ。システムの物理的な使用形態こそPaaSやSaaSに転換していくとしても、ミドルウエアやアプリケーションそのものに対するセキュリティーの確保は絶対命題であり、これは個別に確保しておかなければならない。コーポレートガバナンスの側面からも、その要請は強い。
パブリッククラウドは多くの利用者でプラットフォームを共用する宿命のためか、徐々に改善傾向にあるものの、予告のあるなしにかかわらず「よく落ちる」。落ちたときにはどのような対策を打つか。物理的なフェイルセーフはオープンクラウドの業者が対応しているが、業務遂行のためのフェイルセーフ策の策定やリカバリー設計は利用者がしておかなければならないのだ。

「カスタマイズ文化を背景とするシステム運用の管理と監視、そしてセキュリティーの確保、さまざまなプラットフォームを跨ぐシステムはクラウド時代の喫緊の課題です。そうしたときに、システム全般を見ながらワンストップで運用の管理と監視、セキュリティー確保のサービスを提供できる業者は限られるのです。もちろんJSOLは、システム開発から運用の管理・監視まで一貫した技能を持っているのですから、ワンストップのサービス提供に絶対の自信を持っています」

JSOLは、ハウジングビジネスで培ってきた自動化と人の目の両方を駆使したノウハウに絶対的な強みを持っている。つまり人手と自動運用をフレキシブルに組み合わせて24時間365日のサービスを提供するのだ。

「システムの管理と監視では自動化も重要なポイントです。しかしシステムにはどうしても技能の高いオペレーターによってしかトラブル対応ができない部分がまだ残っています。もちろんお客さまからすれば運用の管理・監視も任せられれば、マルチベンダーに託す煩雑さやコミュニケーションタスクが排除できます」

実は宮本は、ハウジング時代にも多くの「仕様集」「規定集」をまとめている。いわばJSOLと宮本の知見を網羅した移設や運用のためのマニュアルだ。それらのすべてが、宮本が各種のプロジェクトでお客さまから寄せられた要望にどのように対応してきたかが軸になってまとめられている。

「クラウドにおいても変わらないのがお客さまを基軸とした運用の管理・監視のノウハウです。クラウドとハウジングではお客さまのニーズがどのように変化し、それに対してどういう運用の管理・監視ノウハウが必要なのか。日々進化するクラウドサービスとともに今、一所懸命に体系化してJSOLの強みにしたいと思っています」

運用の管理・監視における攻めの面白さ

宮本は福岡県生まれ。父の転勤で全国を転々としたが、大阪の府立高校を卒業した後に大阪工業大学の経営工学科で学んだ。
「生産管理のプロセスやコンピューターを利用した推論方式を学んでいました」
1991年に日本総合研究所(現JSOL)に入社。同時に大阪にあるデータセンターに配属となり、現在に至るシステム運用のプロとしての道を歩き始める。振り返れば、勤め人人生の8割方がシステム運用にかかわる仕事だった。

「データセンターでのシステム運用の仕事は、一見地味に見えるかもしれません。しかしこの仕事には、運用の管理・監視という"守りの部分"と、サービス型のビジネスを考案してお客さまにお勧めしていく"攻めの部分"の2つの側面があるのです。特に攻めの部分の仕事は、自分の意見を組み立てて採算が取れるのかどうかを検証し、そして実行してビジネスを構築するという意味で大変に面白いものです」

ITアーキテクト 宮本 茂樹

それは仕事に対する基本的な姿勢にもつながっている。
「座右の銘などはありませんが、とにかく人の話をよく聞き、理解して、調和を図ることを旨としています。運用という仕事を支えているのはまさにお客さまとのコミュニケーションであり、コミュニケーションの充実度は理解の深さと直結しています。つまりここでも守りと攻めの両面が必要なのだと思います」

趣味は「歩くこと」。休日ともなれば夫人と一緒に1日15~20キロは歩いているという。ここ20年ぐらいのことで、大阪時代は、近くに、その日の天気を見てから出かけられる山が多くあり、ハイキングも兼ねた歩きを楽しんでいたという。

・・・・・と、説明をしてくれているのだが、どうも「全部を話しましたよ」という感じではない。目がしきりとカメラマンの方に向かうからだ。「ひょっとして」と水を向けると、「えぇ、確かにカメラも大好きなんです。実は撮り鉄でして」と打ち明ける。
「ここ10年ぐらいは、歩いていない休日は、田舎のお花畑などのなかにいてカメラを据えています。"花と列車"とか"伊吹山とSL"などいうテーマが好きですね。フィルム時代は飛行機を撮っていましたが、今はもっぱらに撮り鉄です」
その後、カメラマンとのカメラ談義は尽きることがなかった。


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