(2021年02月現在)

2027年にサポートを終えるSAP ERP 6.0。SAP利用企業の多くが、新しいERPへの移行、クラウド化などの判断が迫られています。JSOLにおけるSAPのベーシス事業に関わり、J’s SMARTなどクラウド移行の標準化を立ち上げたITアーキテクトの平田 和久が、ICTインフラ事業の仕事について語ります。

JSOL認定プロフェッショナル
ITアーキテクト
平田 和久

自身の専門分野とITアーキテクトの活動について

SAPのインフラ「ベーシス」は、サッカーのボランチ的な役割

 企業の統合基幹業務システムの中でも、多くの企業に支持されてきたのがSAPのERPです。その構造は、アプリケーションのレイヤーと、ベーシスと呼ばれるインフラ基盤のレイヤーの2段階に分かれています。

 アプリケーションのレイヤーでは、会計、販売といった業務に直結する機能、使いやすさを左右する画面などの設計、開発を行います。一方ベーシスは、ハードウエアとなるサーバー、アプリケーションと連携するデータベースなどを構築、管理、運用するものです。万が一、基幹業務システムがトラブルを起こして停止すると、事業全体に影響を及ぼしかねません。そのためベーシスには、強固な信頼性と堅牢性が求められます。

 私が所属するプラットフォーム事業本部 プラットフォームビジネス第一部では、ベーシスの構築と保守を中心に事業を展開していますが、最近はベーシスのクラウド移行や構築といったプロジェクトも増えてきています。

 新規にSAPを導入、構築する場合は、既存の業務を理解し、SAPのアプリケーションとして実現できるかどうかがミッションとなります。そのため、プロジェクト全体の推進はアプリケーションチームが担い、ベーシスチームは1つのチームとしてプロジェクトに参画がする事が多くなります。

 一方、すでに稼働しているSAPのシステムをクラウドへ移行したいというような場合は、アプリケーションはそのままにして環境を変えるプロジェクトになりますので、ベーシスチームが中心となって推進することもあります。

 ただしクラウド化には、オンプレミスとは異なる注意点があります。オンプレミスではハードウエアもインフラも自前で用意するので、自社で必要とする条件に合わせることが可能です。しかし、クラウド化の場合は、クラウド事業者が提供するサービスや基盤を組み合わせることで、お客さまの要件、要望を満たせるか、求める可用性、性能は満たせるかいう点を検討します。

 例えば、クラウドではシステムの停止を伴う様なメンテナンスが発生します。ところが、工場などで利用しているシステムは、生産に直結するので容易には止められず、メンテナンス時間の調整も難しくなります。
 そのために私たちは、お客さまの要件をヒアリングして整理しクラウドの制約も考慮しながら、クラウド上でのシステム構成を基盤の設計に落とし込み、テストをしながら構築していきます。

 長年ベーシスに関わってきて感じるのは、「連携するシステムが多様化してきたこと」です。最近は、他のシステムと接続するためのインターフェースやバッチ処理、さらには経営層の意思決定に活用する分析システムとの連係など、SAPに求められる役割も多様化してきたと感じています。

 その結果、ベーシスチームの仕事でも、いろいろな部門、組織や他社のサービスと連携する業務も増えてきました。また、私たちは基本的にはJSOL内のアプリチームと一緒にプロジェクトを行いますが、ベーシス単独でプロジェクトに参画する場合は、他社のアプリチームやクラウドベンダー、ソフトウエアベンダーと一緒にプロジェクトを進めることもあります。

 このように、いろいろな立場、立ち位置の人と接することが多いので、他の領域のメンバーと信頼関係を築くことを大切にして、プロジェクトに臨んでいます。例えば異なる立場、異なる部門のメンバーが協力するプロジェクトの場合、隙間にこぼれてしまう決めごとなどが生じやすくなります。

 インフラであるベーシスの仕事は、そのような隙間を見つけやすい立ち位置なので、なるべく見つけだして、こぼれ落ちないように調整するということも、プロジェクト全体をうまく回すためには大切な仕事です。

 サッカーに例えると、ベーシスはボランチといえるでしょう。ボランチの後ろには守備をするディフェンダーが控え、前には攻撃するフォワードがチャンスを待ち構えています。中間のボランチは全体を把握しながら、ディフェンダーからフォワードへとボールをつなぐ攻守の要となります。

 システム構築においても、プロジェクトのメンバーが自分の役割をこなし、持てる能力を発揮できるには、ベーシスが広い視野を持って全体を俯瞰していくことが必要です。

現在の課題や注力している取り組みについて

SAPの2027年問題を確実に乗り越えるには、クラウド移行の標準化が不可欠

 2027年に「SAP ERP 6.0」などの製品の保守サポートが終了する予定です。それに対してSAPは、SAP S/4 HANAという後継となる製品を用意しています。ERP 6.0を利用している企業には、当面そのまま使い続けるか、S/4 HANAに移行するか、あるいは別のERP製品に切り替えるかという判断が迫られており、現在はいろいろ検討されているタイミングにあります。

 JSOLでは、SAPシステムをクラウド環境に移行するためのソリューション「J’s SMART」を用意しています。これはすでにSAPをご利用の企業に対して、インフラのクラウド移行やバージョンアップをする業務のプロセスを標準化したものです。

 SAPのクラウド化といっても、多くのお客さまにとっては初めての経験。どのようなプロセス、タスクが必要なのか、どのくらいの期間を見ておけば良いのかなど、不明なことがたくさんあると思われます。

 そこでJ’s SMARTでは、プロジェクトの進め方、構築の方法、安定性や品質を高めるためのノウハウ、移行先のクラウド業者の選定などを標準化して整理しました。クラウド化の際にはそれらをモデルケースとして提示しますので、進め方やスケジュールの目安が最初の段階で明確になります。これにより、スケジュールを守りつつ、無駄な作業をなくしてコストを抑え、クラウド化を成功させることができます。

 また、クラウドならではの制約、注意事項の解決にもJ’s SMARTは役立ちます。例えば、オンプレミス環境での機能をそのままクラウドに乗せ換えようとしても、うまく機能しないこともあります。またAWSとAzureでは同じクラウドでも細かい仕様の違いもありますので、それらに対する知見も重要です。J’s SMARTをベースに検討すれば、実績をもとに「その制約については、このような設定で対応できます」と、具体的な検討を進められます。

 さらに複数のチームで協力する際に認識をそろえやすいという利点もあります。J’s SMARTは最初のフェーズでプロジェクトに必要な全体のタスク、スケジュールを具体的に提示できるので、お客さまはもちろん、一緒にプロジェクトを進める他のベンダーとも認識をそろえ、協力しながら推進しやすくなります。

 このJ’s SMARTは、私自身の過去の体験がきっかけで生まれたものです。あるSAPの移行を担当したとき、最終的にはスケジュールも厳守し、プロジェクトも成功したのですが、お客さまとの認識の違いが生じたり、試行錯誤を連続したりと非常に苦労しました。

 そのときに「プロセスを標準化したものが必要だ」と実感したのです。そこで、SAPのクラウド移行には、どのようなタスクが必要なのかと洗い出した結果、作り出したのがJ’s SMARTでした。その後も、クラウドの環境や仕様が変わったり、実績も増えたりしているので、J’s SMARTは時代に合わせて常に更新を続けています。

 このようなSAPのクラウド化の取り組みが評価され、JSOLは「マイクロソフト ジャパン パートナー オブ ザ イヤー 2020」において、「SAP on Azure アワード」を受賞することができました。多数のSAPシステムのMicrosoft Azure移行実績と、バックアップの自動化などのPaaS機能の積極活用したことが評価されての受賞です。

 またSAPからは、SAPビジネスの貢献度やSAPの顧客満足度調査などで評価される「SAP AWARD OF EXCELLENCE」をこれまで19回受賞しています。

学生時代に取り組んだ内容、興味のあった領域について

しんどいときこそ、頭を使って考えることの大切さを学ぶ

 大学は理学部の地球惑星学科に進み、地学について学びました。私が研究していたのは、惑星の生成に関わる内容で、宇宙空間での塵やほこりの結合しやすさをコンピューターでシミュレーションを行いました。それがプログラミングとの出会いでした。

 地球に関する学問である地学は、研究室だけでなく、自然の中でも行われます。屋外での実習で大学の先生から言われた言葉で忘れられないのは、「しんどくて動けなくても、頭で考えることが大事」という一言です。それは悪天候のもと、身動きが取れないような状態で言われたのが、その言葉でした。社会人として仕事をすると大変なときはありますが、そういうときこそ「考えることだけは、やめてはいけない」と思い出しています。

 大学時代は、バトミントン部の活動にも力を入れていました。学生リーグで6部だったのを2部まで上がることができたのは、思い出になっています。部活では上級生との上下関係や、他大学との横のつながりもありましたので、知らず知らずのうちにいろいろな人と一緒に活動するための知恵を身につけていたかもしれません。

 それから一人暮らしのマンションは友達のたまり場になってしまい、多いときには週に50人も集まるようになりました。近所迷惑にならないように注意してはいましたが、人数が人数ですので、やはり多少の迷惑はかけていたと思います。ですが、近所の人とも積極的に付き合うようにして、良い関係が築けるようにと心がけていました。これも、人間関係を構築する上での知恵につながっていたかもしれません。

 このようなことから、周囲の人、特に上に立つ人の考え方に気に掛けるようになりました。人の上に立って仕事をするためには、広い視点を持つことが必要となります。実際、これまでの上司も俯瞰的な考え方をする人が多く、話を聞くと「なるほどなあ」と思うこともしばしばありました。

 何かのプロジェクトに関わるとき、一度プロジェクトマネジャーやリーダーは「何を意識しているのだろう、注意しているのだろう」と考えてみることは、業務の成功だけでなく、自分自身の成長にもつながると感じています。

プロフェッショナルとして今後取り組んでいきたいこと

10年先の仕事を想像しながら自らを成長させ、若手を育てる

 2027年問題に向けて、SAPのクラウド化、S/4 HANAへの移行などのプロジェクトは増えると思います。しかし、その先の10年後20年後を見通して、ベーシスの仕事はどうあるべきなのかを想定しておかなくてはいけません。

 今後もクラウドサービスが進化して機能が向上していくことは間違いないでしょう。SIerのスタッフがインフラ基盤の細かい設定をするような業務は姿を変えるでしょうし、そういう業務自体がなくなってしまうこともあり得ると思っています。そうなった場合、私たちは活躍の場を別のところに求めていかなくてはいけません。

 クラウドを活用すれば、新ビジネス、新サービスを始めるときのPoC(概念実証)も簡単に実施できます。新技術へのチャレンジ、新しいビジネスへの挑戦もやりやすくなります。そしてサービス開始までのリードタイムを短縮化したり、ダウンタイムを最小限に抑える運用など、さまざまなことに配慮したクラウドサービスの活用などを推進するには、インフラの知識、ノウハウは欠かせません。

 それを踏まえて私が考えているのは、「クラウドを前提とした、新しいシステムデザイン」を設計するイメージです。いくつものクラウドサービスを連係させ、「このビジネスには、クラウドサービスを最適な形で組み合わせて活用する」といったグランドデザインは、これからの時代必要になってくるのではないでしょうか。

 そういう中で、JSOLとしてのメリット、強みを発揮して、ビジネスを発展させるには、人材育成も重要です。それには一人ひとりのメンバーが、一歩一歩確実に技術を学び、プロジェクトを運営する経験を積むことです。

 若手の育成という点では、最近、セミナーやハンズオンによる実践的な学びの場を設けました。ハンズオンでは、SAPを実際に触れる環境をAzureで構築し、若手が実機に対して実際に操作しながら技術を身につける場です。参加した若手メンバーからは「1年前に学びたかった」という声も上がっています。過去の知見を集約しているJ’s SMARTもまた、先人の経験を学ぶものとして有効です。

 私自身も、上の役割に立つ人の考えに思いをはせることで、広い視点を学びました。これからは次の世代に向けて、次の道、将来への広がりを見せられる人になりたいと思っています。


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