(2021年11月現在)

次々と新たな製品が生み出されている製造業。その設計、開発の現場で生まれた課題を解決するために、先端技術の取り入れや機能の改善を繰り返しながら成長してきた電磁界解析ソフトウエアJMAG。その開発に1990年代から携わり続けてきたCAEプロフェッショナルの磵浩司が、JMAGの歴史と今後の展望について語ります。

JSOL認定プロフェッショナル CAEプロフェッショナル  磵 浩司

JSOL認定プロフェッショナル
CAEプロフェッショナル
磵 浩司

自身の専門分野とプロフェッショナル職の活動について

JMAGの黎明期を支えた「情熱」と「技術」

 私は電磁界解析ソフトウエアJMAGの開発・販売・サポートをしているJMAGビジネスカンパニーにおいて、新機能を搭載、あるいは機能の改良をする際のプリ調査などを行う「技術開発」というポジションにおります。そこでの主な役割は、業界内外で発表される新技術に目を向けながら、それらの技術を「JMAGに搭載するべきか」「どのように載せるべきか」について検討することです。

 電磁界解析の世界では新しい技術が次々と生まれています。国内外の論文や学会の動向にアンテナを張り続けながら、「お客さまの業務に役立つ技術」を見極めて採用の有無を決めることは、なかなか骨の折れる作業といえます。しかし、新技術の導入が困難、かつ重要であればあるほど、競合他社に先駆けて取り組む仕事に意義を感じます。

 今では多くのお客さまからご支持をいただいているJMAGですが、実は事業の縮小が検討されたこともあります。それは私が入社して間もない1990年代のことでした。当時の電磁界解析ソフトウエアは、電磁界の現象や有限要素法という離散化手法を理解している一部の研究者しか使いこなせない代物でした。そのため、JMAGの売れ行きも芳しくなく、「この事業から撤退するのでは」と懸念されているような状況だったのです。

 この状況を打破すべく、私たちは「本当の意味で、よりユーザー目線に立ったJMAG」の開発に取り組み始めたのです。当時のメンバーは私を含めてもごく少数で、私自身も製品開発、不具合修正、お客さまの受託解析やその結果報告、サポートなど、求められた業務はすべてやっていました。

 そして当時ブレークスルーを起こした離散化技術や、使いやすいGUIを取り入れながら、JMAGのリニューアルを成し遂げました。今でこそ国内の電磁界解析ソフトウエアとしてトップシェアを誇るJMAGですが、あのときのチームが抱いていた情熱がなければ、存続することもできなかったかもしれません。

 もうひとつの大きな変化として、1990年代後半にJMAGが搭載したメッシュ自動生成機能が挙げられます。メッシュとは、解析対象を複数の三角形や四角形、四面体や六面体などの集合体として表した数学モデルのこと。解析したい部品をさまざまな形の立体に細かく分解し、シンプルな形状を持つ要素の集合体として構成してから解析するわけです。

 この要素の数が多ければ多い(細かく分解する)ほど、解析対象の解像度が高まり計算精度も向上します。しかし、そのぶん多くの計算時間もかかることになります。また、当時の性能の低い計算機では、膨大な要素のメッシュを構成すると、処理の限界を迎えて計算できなくなるという課題もありました。

 解析しやすい実用的なメッシュを作るには、「要素数を抑えつつ、計算精度も担保する」というバランス感覚が求められます。技術者の経験とそれに基づく予測やノウハウによるところが非常に大きく、そういう能力を持つ一部の技術者にしか使いこなせない機能と認識されていました。

 その課題を解決するために開発したのが、メッシュ自動生成機能でした。私たちは、この機能の開発を行う際、「経験豊かな技術者がメッシュをデザインする際のロジック」をできる限りプログラムで再現できるようにと専念しました。例えば、対称性と周期性に関するロジック。工業製品の部品をよく見ると、左右対称だったり、同じ形状が繰り返しているところがあります。

 当時の技術者は、こういった形状の特徴を捉え、対称性や周期性があるところを見つけてメッシュに反映させていました。つまり、対称な部分はメッシュも対称になるように、周期性のある部分はメッシュも周期性を持つようにと分割していたのです。

 そこでJMAGでは、CADで作成された解析対象の形状パターン、特徴を捉えて自動認識し、あたかも人間の技術者が作ったようなメッシュを自動で作成する機能を開発しました。これにより、特別な知識やスキルを持たなくても、実用的なメッシュを自動かつ短時間で作成できるようにしたのです。

 国内の電磁界解析ソフトウエア業界でいち早く搭載し、形状が複雑なものも簡単に自動生成できるメッシュ自動生成機能は、お客さまからの評価も高く、当時のJMAGの売りになっていきました。この機能を搭載したことで、電磁界数値解析のハードルをひとつ超え、より多くの人に使ってもらえる道を開いたといえるでしょう。

 1997年に開催された地球温暖化防止京都会議(COP3)にて採択された京都議定書により環境に優しい製品の開発が求められ、製造業のお客さまは省エネに優れた製品の開発にしのぎを削っていました。またCADが普及したり、安価なWindowsマシンが普及したことで、コストを抑えて電磁界解析ができるようにもなり、その流れに乗って、多くの製品メーカーにJMAGが急速に普及していきました。この時期は、JMAGの歴史を踏まえても大きなターニングポイントだったと思います。

 メッシュ自動生成機能の開発に関わってきた私は、「美しいメッシュが解析を成功に導く」という信念を持っています。一般的にメッシュは、「精度を高く。計算時間を短く」するために、機能性、効率性を重視しています。このような実用主義と「美しいメッシュ」は、相反するように思うかもしれません。しかしメッシュは、数式と同様に、シンプルかつエレガントであればあるほど、精度の高い解を高速に導き出せるはず。だからこそ「メッシュはアートである」という思いを持って、機能開発に取り組んできました。

現在の課題や注力している取り組みについて

機械学習で最適化計算の高速化を

 かつては日本国内を中心に事業を展開してきたJMAGですが、現在ではグローバル市場でも積極的に活動しています。中でも電磁界解析が必要とされる業界として、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)が求められている自動車業界が挙げられます。自動車開発に求められるさまざまな技術革新を推進するために、国内外のメーカーでは電磁界解析ソフトウエアが設計に欠かせない必須のツールとして利用されているのです。

 ものづくりの設計フェーズで行われていることに「最適設計」があります。最適設計とは、複数の設計変数の取り得る範囲の中で、その目的を満たす最良の解(ベスト)、あるいは最善の解(ベター)を見つけること。例えば、近年の高性能で高効率なモーターではモータパワーを意味するトルクは可能な限り大きく、かつ、モーターの振動の源ともなるトルクリップルは可能な限り小さく、加えて、高価な高性能磁石の体積は可能な限り小さく、、、といった多くの設計要求を満たすものが求められます。さらに、モーターの直径はX(mm)以内に、モーター軸長はY(mm)以内に、磁石幅はZ(mm)以内に、、、といった多くの制約条件の元で、このような設計要求を満たす解を求める必要があります。そのためには電磁界解析をはじめとする、さまざまな数値シミュレーションが必須となります。このシミュレーションでは、さまざまな設計変数を操作してたくさんのパターンを計算するので、非常に多くの時間がかかることになります。時には、1個の解を求めるまでに1カ月程度もの期間を要することもあるほどです。

 その計算時間の短縮のために今、私が注力しているのは、機械学習を援用した最適化計算の高速化です。AIの一要素である機械学習では、たくさんの「入力と出力のセット」を元に予測モデルを構築し、その予測モデルにある入力が与えられると瞬時に結果を出力します。この機械学習を電磁界解析に活用することで、膨大な時間を要する最適化計算の短縮化に取り組んでいます。

 上述した最適化は、形状や部品のサイズを設計変数にして最良・最善の解を求める最適化ですが、これには「どの部分のサイズを変数としてパラメーター化するか」は技術者が持つ経験やノウハウがキモになっています。これに対して、近年では、これまでの技術者の経験やノウハウに頼らない、全く新しい形状のものを見つけ出すための「トポロジー最適化」も概念設計のフェーズで実施されるようになってきています。
 このトポロジー最適化も、多数の計算を行いますので、機械学習を用いて、計算時間をいかに短縮するかがキーになります。

 トポロジー最適化に機械学習を用いる場合、上述の機械学習を取り入れるだけではなく、それに加えて最適化計算の過程で得られる形状トポロジーを画像化し、形状の特徴を捉えるという前処理が必要になります。これも研究段階であり、今、学会などでもホットな研究課題となっています。特に3次元におけるトポロジー最適化は難しく、電磁界解析に関わるものたちを悩ませています。

 現在取り組んでいるのは機械学習を援用した最適化ですが、20年前に試行錯誤しながらメッシュ自動生成機能を作り出そうとしていたころと共通するものを感じています。メッシュ自動生成の際は、部品の「形状のパターンを自動認識する」ことを強みとしました。機械学習では数値データよりそのパターンを認識し、また、形状の特徴を上手くとらえることが重要となります。
 「形状のパターンの自動認識」、「数値データのパターンの認識」、「形状の特徴を捉える」、、、もちろんメッシュ自動生成と機械学習では目指すものが異なりますが、両者の根底に流れているものには共通するものがあり、20年前のメッシュ自動生成での経験が、今の仕事に生きるかもしれません。

JSOL認定プロフェッショナルとして今後取り組んでいきたいこと

AIの活用で、電磁界解析は新たなステージへ

 私が入社した当初、電磁界解析を用いたシミュレーションは、研究機関に所属するような一部の人だけが利用するものでした。それが今ではJMAGの普及により、製造業で製品の設計に携わる方々にも気軽に使っていただけるようになりました。

 その過程で、シミュレーションの持つ重要性も変わってきたと感じています。かつては、製品設計、開発段階でいくつもの試作品(実機)を作って、テストを行っていました。もちろんシミュレーションも活用されてはいましたが、あくまで実機主導であり、シミュレーションはその検証という位置づけでした。

JSOL認定プロフェッショナル CAEプロフェッショナル  礀 浩司

 しかし、今ではシミュレーションがメインへと変わりつつあります。シミュレーション・ベース開発と呼ばれる手法がそれです。これは実機を使わずに、コンピューター上のモデルを使ってシミュレーションを何度も繰り返しながら、設計や開発、テストを進めていくものです。
 そうなるとシミュレーションには、実機と同レベルの精度が求められるようになります。精度の高いシミュレーションを実行するには、大規模で詳細な解析を行い、かつ高速に解く必要があります。また、物理現象を正しく表現するためのモデリング技術も欠かせません。
 JMAGは、このようなシミュレーションを実現していくために、日々改善に取り組んでいます。

 さらに将来について思いを巡らせると、電磁界数値シミュレーションを新たなステージへと導くためのキーテクノロジーとして、AIが秘めている可能性も大きいと感じています。例えば、音声認識でソフトを操作する。あるいは計算結果が間違っているのか、正しいのかをAIが画像診断してジャッジする。過去の計算結果をビッグデータとして処理し、要求にマッチするものを瞬時に導き出す。そういったことも可能になれば、JMAGも電磁界解析の世界もさらに広がるでしょう。

 これからも、お客さまが抱えるさまざまな課題の解決、さまざまなニーズに応えるためにも、そしてものづくりを支援するためのツールであり続けるためにも、JMAGの新機能の開発、機能の強化をしていかなくてはいけません。その実現のために、私も「必要なことは何でもやる」「今できなくても、続けていればいつかはできる」という強い思いを持って、JMAGの成長に関わっていきたいと考えています。

 JMAGそのものは私が関わる前からありましたが、実質的には1990年代のリニューアル時から現在のJMAGが始まったといえるでしょう。そう考えると、JMAGの成長、組織の発展を含めて立ち会えたのは非常に運が良かったと思っています。JMAGの黎明期から開発に関わり、仕事をする意義をたたき込まれたこと、そして今なお新しい学びを続けられていることは私にとって貴重な財産になっています。

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