(2024年10月現在)

生成AI、スーパーコンピューター、量子コンピューターなど、未来社会に役立つ新技術を耳にする機会が増えてきました。しかし、新技術が現実の社会でビジネスとして利用し利益を上げるようになるには時間がかかるものです。今回は、JSOL認定プロフェッショナルのITアーキテクト 石川 淳也が、未来の社会で役立つテクノロジーの実現に向けて今できることを解説します。

JSOL認定プロフェッショナル
ITアーキテクト
石川 淳也

自身の専門分野とプロフェッショナル職の活動について

次のステップへ飛躍するための新規事業創出を支援

 私が所属している未来共創デジタル本部 事業企画部 事業企画課は今年(2024年)新設されたばかりの部署で、そのミッションはJSOLの新規事業推進を強化することです。
 もちろん、JSOLでは以前からも新規事業の創出に取り組んでいましたが、各部門、各担当者が思い思いのやり方で推進しており、課題やノウハウが共有されにくい一面がありました。それを改善するために、新規事業を始めるときに踏むべき手順、ルールや仕組みなどを作り、新規事業の立ち上げを支援、加速するのがこの部署です。

 私自身は、以前からAIや機械学習など、比較的新しい技術の業務活用推進やお客さまとのプロジェクトに取り組んできました。先進性のあるプロジェクトは、どうしても試行錯誤も多くなりがちで、実験的な取り組みとならざるを得ないという側面もあり、これらの技術をビジネス面の成果につなげることは容易ではありません。
 そのような案件をお客さまと推進する際に、新技術に関するコンサルティングを行い、ビジネスとしてのターゲットを定め、実証実験などを繰り返し、システム導入までつなげるといった仕事をしています。
 実際には、まずはコンサルタントとして「その技術の内容」「技術の発展状況」「ビジネスとして期待できる点」などをお客さまとお話して、「このようなPoCをやってみませんか」「次はこのような実証実験を」と一歩ずつ歩みを進める提案をしています。
 その際に留意しているのは、できるだけ正確に伝えることです。登場したばかりの新技術をアピールしようとする思いが強すぎると、相手が夢のような過剰な期待を抱いてしまう危険性があります。しかし、それでは良い結果につながりません。そこで大風呂敷を広げず、できるだけ正しく、誠実に伝えることを心がけています。

 また、2020年にJSOL、理化学研究所、株式会社理研鼎業(現:株式会社理研イノベーション)が設立した理研数理との協業では、スーパーコンピューターの利活用支援や量子コンピューターの産業応用調査などに、取り組んでいます。特に、量子コンピューターについては、従来のコンピューターとはまったく違う仕組みで動き、用途も異なります。そのため量子コンピューターが「ビジネスにどう役立つか」と明確なイメージを持っている人は珍しいのではないでしょうか。しかし「ライバル企業に後れを取りたくない」「早めに新技術に触れて、スキルを蓄積したい」と考えている企業も少なくないはずです。そのようなお客さまに、できるだけ早いタイミングで価値提供が行えるようになることを意識しながら、取り組みを進めています。

現在の課題や注力している取り組みについて

答えのない「新技術の利用法」を、お客さまと共に模索する

 AIやスーパーコンピューター、量子コンピューターといっても、基本的には個々の技術要素にすぎません。新技術を導入したからといって、直接お客さまの課題や社会課題を解決することや、新規ビジネスの創出につながるわけではありません。

 最近高く注目されている生成AIも、ニュースなどでいくつか成功例を目にするようになりましたが、ビジネス活用は途についたばかりです。今後の発展次第では、さまざまなビジネスシーンで活用され、業務変革をもたらすポテンシャルを秘めた技術と私は見ており、ユースケースの検討も含め、お客さまとの取り組みを継続・拡大していきたいと考えています。
 生成AIについては、ハルシネーションの問題が指摘されています。企業が所有しているデータや、インターネット上で公開されているデータなどをもとにAIが答えを導き出し、新しく文章や画像、映像などを作り出すのが生成AIですが、もともとのデータに誤りが含まれていたり、関係のないデータを結びつけたりしてしまうと間違った答えを導いてしまいます。これを完全に防ぐことは、実際には不可能です。

 このような「正しさが保証されないシステム」を企業の事業や業務にどうやって活用すればいいのでしょうか。
 この問いの答えはユースケースによって異なり共通解があるわけではありませんが、ポイントは「不確かなシステムであることを前提に、どう使えばビジネスとしての効果が期待できるか」を、提供者側も利用者側もしっかりと検討し、合意形成しながら進めていくことです。これを怠ると、機械学習やAIの案件は実証実験(PoC)どまりで、その先へ進めず、いわゆるPoC貧乏と呼ばれる状態に陥りかねません。AIのシステム開発、導入を経て、実際のビジネスに活用するためには、重要なポイントと考えています。

 ある建設業の会社では、深刻化する人手不足に対する施策としてAI活用が検討されていました。コンサルタントとしてそのプロジェクトを支援したJSOLは、AIによる自動化、効率化の可能性を示し、具体的な形でロードマップを提案しました。この提案はお客さまの経営層にも高く評価され、実証実験や現場部門との議論を経て、実際のシステム開発、導入にまで至りました。その際には将来AI利用をさらに広げることを前提に、汎用的な基盤として構築するなど、JSOLの持つノウハウを生かした導入を実施しました。

 一方、量子コンピューターについては、「この技術はどう使えばよいのか」が見えておらず、まだまだ暗中模索の状況です。量子重ね合わせ(0と1を重ね合わせた状態)などの量子の特性を応用して、高速に計算する量子コンピューターは、従来の古典コンピューターに比べて、特定の計算に対して大幅な処理能力アップが期待されています。時々ニュースなどで「スーパーコンピューターで数万年かかる処理を一瞬で完了」などと取り上げられたりもしています。しかし、現状では利用できる量子ビット数やノイズの影響により実行可能な計算に制約があり、実用的な問題を解ける段階に達しているとはいえません。

 量子コンピューターを現実問題で活用するには、量子コンピューター単体ではアルゴリズムの一部しか計算できないため、「量子・古典ハイブリッド技術」が必要になります。このうち、古典コンピューターの担当する部分にスーパーコンピューターを用いる場合は、「量子・HPCハイブリッド」と呼ばれることがあります。

 スーパーコンピューターを用いた大規模な計算を行うとき、スーパーコンピューターであっても非常に時間がかかるが、一部、量子コンピューターを用いると高速化できる処理があるとします。そのような量子コンピューターが得意な処理を切り出して、量子コンピューターに計算させ、それ以外の部分を従来型のスーパーコンピューターが担当することで、全体の計算を加速させるというコンセプトです。量子・古典ハイブリッドアルゴリズムは、いくつか提唱されていますが、実際の問題に対して、量子・HPCハイブリッドのコンピュータシステムが、どの程度有効なのかは、今後検証を重ねていく必要があります。

学生時代に取り組んだ内容、興味のあった領域について

大学時代に触れたスキルが、スーパーコンピューター「富岳」の活用に役立っている

 大学では理学部に進み、タンパク質の分子動力学シミュレーションの研究室に入りました。入学時は物理学の道を進もうと考えていたのですが、生物分野に興味が出てきたのと、もともと好きだったコンピューターを用いて研究しているということで、選びました。その研究室の計算機室には、たくさんのコンピューターがあったのですが、そこでUNIXに触れたことが、今につながる人生の転機だったと思います。

 分子動力学シミュレーションでは、コンピューターでシミュレーションを実行し、その結果を用いて、実際にタンパク質が動く様子をグラフィカルに表現することに取り組みましたが、振り返ってみると個人的には興味を持って取り組めたと感じています。卒業研究の発表の後、直接の指導担当ではない先輩から良かったといってもらえたのは、今でも印象に残っています。

 大学院では、物理分野に戻って、原子炉から放出された特定の放射性元素を粒子ビームとして取り出し、それを試料に打ち込み、放射性元素から放出されるガンマ線を計測することで、試料の物性を調べる実験をしました。その研究室の助手の方がUNIXの管理者をされていて、私も管理者権限をいただいて、GNUなどのツール類をインストールするお手伝いをさせていただき、UNIXの知識を深めることになります。
 その経験を通して、コンピューターを扱う仕事に就きたいという思いが高まり、JSOLの前身となる日本総研に入社することになります。ちょうどインターネットが一般に普及していく頃であり、ネットワーク管理に携わりたいという希望を出して、情報システム部に配属されました。その後、しばらくはネットワーク管理やシステム開発などの業務に携わりました。2014年に、ビッグデータやAIの活用を推進している部署に異動し、2015年頃から本格的に機械学習やAIに取り組んでいます。

 先に述べたように2020年に、JSOLは理化学研究所、株式会社理研鼎業(現:株式会社理研イノベーション)と手を組んで理研数理という会社を設立します。この会社は、「理研と民間企業をつなぎ、アカデミックな世界の研究を実社会で有効に生かそう」という目的で設立されました。設立されて間もない頃から、私はJSOLのメンバーとして、その支援をすることになったのです。
 当時はちょうどコロナ禍が始まった時期であり、スーパーコンピューター「富岳」を用いたシミュレーションによる感染対策の取り組みを一部、JSOLで支援しました。具体的には、口腔から放出されたウイルスを含む飛沫が、室内をどのような経路で飛散するのかをシミュレーションし、場所による感染リスクの違いを分析しています。その研究結果は広く社会に伝えられ、感染防止対策に役立てられています。このシミュレーションを行う対象施設の1つとして、JSOLの九段下オフィスも提供させていただきました。また、JSOLオフィスでのシミュレーション結果を用いて、飛沫が浮遊する様子をリアルに体験できるVRアプリケーションも作成しました。
 飛沫飛散シミュレーション以外にも、民間企業向けに「富岳」を利活用する支援を実施しています。「富岳」の前身である「京」の時代からLinuxベースのOSが使われていましたが、「富岳」では一般に普及しているRedHat Enterprise Linuxが採用されています。このため、学生時代に学んで、経験を積んでいるUNIXやLinuxのスキルが、「富岳」関連業務で、有効に活用できていると感じています。

 AIやスーパーコンピューター、量子コンピューターのような時代の最先端を走る新技術に触れることは、「新しいモノ好き」という性分を持っている私にとって働くことの醍醐味といえます。今までになかった技術が登場する度についつい仕事の範囲を超えて研究してしまうのですが、そこで得た学びはお客さまに提供しなくてはいけません。そのときに役立っていると感じるのが、私が「短期間で本質を捉える」ことを得意としている点です。
「その技術は端的にまとめると、こういうものである」「その新技術に関連する過去の取り組みにはこういうものがある」「この領域で活用しようとしたら、このようなことが期待できる」——。そういうことを誰もがイメージしやすい明確な形にすると、議論もしやすくなり、プロジェクトを一歩でも前に踏み出せるようになるのです。

プロフェッショナルとして今後取り組んでいきたいこと

これまでの技術をこれからの世代へつなぐために、新技術の成長を見守っていく

 生成AIは世の中全体を変えうる技術と見ていますが、その真のインパクトが顕在化するのはこれからだと思います。そこには発想の転換も必要です。これまでの業務を生成AI活用により改善するというアプローチではなく、「生成AIありきという前提で、業務そのものをゼロベースで再構築する」という考え方も必要になってくるかもしれません。

 SIerの業務であるソフトウエア開発を例にとると、「自然言語でAIにやりたいことを伝えると、目的のコードを生成してそのまま実行する」時代が到来すれば、プログラミングの必要性やアプリケーション開発手法がこれまでとは異なってきます。ひいては、人材育成のあり方も変わってくるはずです。
 量子コンピューターがいつ、どのように社会にインパクトを与えるかは、まだ見えていませんが、同様に量子コンピューターが実用化した時代に向けて、「社会がどう変わるのか」「その時代にはどのような人材が求められるのか」をしっかりと考えなくてはいけないでしょう。

 私が期待しているのは、20歳代の若い世代です。私たちの世代は、インターネットが社会やビジネスに浸透していき、人々が利用する端末がPCからスマートフォンに置き換わり、企業で利用するサーバーがオンプレミスからクラウドへ移行していくという過程を、リアルタイムに体験してきました。それと同じような技術発展と社会への普及が、これからAIや量子コンピューターの分野で起こっていくと想定されます。今起こっている技術の発展をリアルタイムに体感しながら試行錯誤するのと、ある程度完成されて普及している技術を後から学ぶのでは、技術に対する理解の深さが全く異なるように感じます。これらは、今後、大きく発展していく技術であり、将来どのようなインパクトを社会に与えていくかは未知数ですが、そういう中で同時代人として技術の発展を目の当たりにしながら習得していくことは、若い世代のエンジニアにとって大きな財産になるでしょう。これから社会人になる世代、社会人になって間もない世代には、ぜひ興味を持って飛び込んでいくことを期待しています。

 私自身の今後の取り組みとしては、これまでの経験を生かしつつ、JSOLのビジネスとして、これらの新しい技術に取り組める機会を作っていくことで、次の世代につなぐことが使命ではないかと考えています。生成AI、機械学習、量子コンピューターの真価、その影響が社会を一変させるのは、私が第一線を退いた後かもしれません。一方で、どの技術も現時点において、すぐに大きな利益を生むものではありません。かといって、取り組み時期を先延ばししているとブレークスルーを迎えたときに、JSOLのビジネスチャンスを失う可能性もあるわけです。そうならないように、「この業務に利用できるのではないか」ということを絶えずお客さまとも議論しながら、新技術への取り組みが途絶えることなく継続していく状態を作っていくことがプロフェッショナルとして取り組むべきことの一つと考えています。

 特に量子コンピューターについては、「どこで役立つか」を見つけること自体が至難の業です。この領域はアカデミアの研究においても多くの解決すべき課題があり、産業界のIT技術者にとっては、技術のキャッチアップ自体の難度が高く、社会のどこに役立つか、ビジネスのどこに適用できるかに至っては、容易に気づけるものではありません。ここについては、理研数理との協業が重要な役割を果たすと考えており、アカデミアの研究成果と産業界のニーズをどのようにマッチングさせていくかを検討していく必要があります。
 その際、重要なのは、「技術」と「お客さまの業務」の両方に興味を持ち、幅広い視点で全体を網羅的に見ることです。JSOLには、お客さまの業務、抱えている課題、将来のビジョンを幅広く理解し、ITを活用することで、お客さまのビジネスを支援してきた実績があります。「この領域であれば、この技術を取り入れることで、投資価値が期待できるのではないか」という提案や議論を通じて、技術とビジネスの橋渡しをJSOLが担うことができれば、技術の発展への寄与のみならず、ビジネスチャンスの創出にもつなげられるのではないかと思います。

 そうやってアカデミックな領域とお客さまのビジネスをつなげることを試行錯誤しながら、真新しい技術を活用し、未来につないでいける状態を作ることは、まさにJSOLのブランドメッセージである「今はない、答えを創る。」を体現する取り組みになっていくのではないかと考えています。


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