(2025年04月現在)
専門性の高いERPは限られたスタッフが利用するケースも多く、全従業員が利用する経費精算などの業務を円滑に進めるための「フロント」領域のシステムは別に構築することが多い。今回は一般企業で用いられるフロントはもちろん、業界特有のルールに対応した会計フロント、購買フロントの開発を手掛けてきたJSOL認定プロフェッショナル アプリケーションコンサルタント 堀道子が、フロント開発の意義とポイントについて解説します。

JSOL認定プロフェッショナル
アプリケーションコンサルタント
堀 道子
自身の専門分野とプロフェッショナル職の活動について
会計フロントによってお客さまの業務を見直し、標準化と効率化を推進
JSOLでは、SAPやBiz∫などのERPパッケージを使ったシステム構築を手掛けています。主に会計システム、基幹システムとして利用されるERPの場合、経理部門や購買部門など、業務知識豊富な専門用語を熟知したエキスパートにとっての使いやすさが重視されます。
一方、上記以外の一般従業員は、従来はERPを利用することはありませんでした。例えば、従業員が行う経費精算業務。紙の申請を使っていた時代は書類に必要事項を記入して領収書を添付し、上司の承認を受けてから経理に回していました。しかし今はデジタル化が進み、一般従業員が自身で直接ERP側に必要なデータの登録をすることが必要になってきています。
ところが一般従業員は会計知識や専門用語を熟知しているわけではありません。そのためERPを直接操作するような経費精算システムでは、一般従業員にとっては難しいものになってしまうのです。
そこで別途開発しているのが「フロント」といわれるシステム領域です。ワークフローのシステムを使って構築し、ERPと連携させて利用します。例えば経費精算の場合は、一般従業員がフロントの画面にアクセスして経費を申請、上司もフロントの画面から承認して経理にデータを回し、最終的にERPにデータを連携するという流れで処理を行います。一般従業員の利用を想定しているので、画面の要素、UI、用語なども分かりやすくして、誰でも簡単にミスなく入力できるシステムを開発することが重要になります。
JSOLではERPを多くのお客さまに向けて提供、構築していますが、私が所属するプロセスインテリジェンス部では、他の部署と連携しながらさまざまなフロントを開発しています。上に挙げた経費精算に用いられる「会計フロント」以外にも、購買用途の「購買フロント」などさまざまなフロントを開発しています。
ところで、経費精算のような会計フロントは「申請→承認→経理の処理」という流れを作るだけの仕事に見えるかもしれませんが、実はそれほど単純な話ではありません。
そもそも会社によって業務ルールや承認規定が異なり、ケースバイケースで特殊なルールを適用する場合も少なくありません。そのためフロント開発の際には業務や承認規定の内容を整理し、標準化を図ることが重要です。また、ERPのパッケージ製品によってはフロントの開発方法も変える必要がある場合があるため、ERPのパッケージ製品を深く理解し、ERPの開発チームと密に連携を取りながら進める必要があります。それ以外にも、例えば新しい法令が出されたタイミングでは、法令で定められた規則に対応していく必要がでてきます。
まず会社による承認ルールの違いですが、転職経験のある方なら「以前の会社と経費精算のルールが違う」という体験をしたことがあるのではないでしょうか。例えば、「直属の上司は課長であるが、出張で不在なので、課長ではなく部長に承認してもらう」「本来は、課長承認でよいが、〇〇部の場合は部長承認までしている」など、会社ごとに業務を円滑に進めるための独自ルールが使われています。
そのため会計フロントを開発する際には、経理担当の方々と「本来あるべき経費精算のあり方」を議論して、業務フローの標準化を図り、規定にそったシンプルな流れを作らなければいけません。その際、「どこまで標準化を進めるか」「残さなければいけない独自要素はどれか」をしっかりと議論する必要があるのです。
またERPのパッケージ製品によっては、フロントシステムとの連携の方式が異なる場合があります。そのため、問題が生じないように基幹システムを開発するERPチームと連絡を取り合いながら、フロントのシステム構築を進める必要があります。
そして関連する法令に準拠することも必須です。近年、改正電子帳簿保存法やインボイス制度が施行され、フロントシステムも法令対応する必要がありました。特にインボイス制度は開始される期日が決まっていたので、それまでに開発を終わらせる必要があったのですが、新しい制度であったため情報が乏しく、また順次詳細な内容が国税庁から公開されるといった状態であったため、開発チーム内で情報を共有したり関係各所に問い合わせたりしながら開発を進めて、期日に間に合わせました。
さらには開発終了後の将来を見通すことも、重要なポイントです。私たちSIerは、開発したシステムが無事に稼働し、運用へ移ると「ゴールを迎えた」という気持ちになりがちです。しかしそのシステムを受け取ったお客さまにとっては、そこからが本番となります。画面が分かりやすいか、使いやすいか、また次の操作へつなげやすい機能になっているかどうかなど、運用しやすいシステムになっているかが試されることになります。
将来の組織変更にも対応できなければいけません。日本企業では、組織名が変更になったり組織が分割されたり、あるいは合体したりと、数年に一度組織変更を行うことも少なくありません。そのたびにシステムに変更を加えることは大きな負担になるでしょう。それを見越して、SIerの手を使わず、お客さま自身のメンテナンスでも対応できるような形でフロントを開発することも大きなポイントといえます。
フロント導入によってお客さまの業務が整理・標準化され、「日々の業務の手数が減って効率化が図れた」と喜ばれると、私たちもうれしく感じます。
現在の課題や注力している取り組みについて
業界特有のルールに対応した特殊なフロントも開発
フロントの開発を積み重ねていくことはERP事業の実績となります。業界によって特有のルールがあるため、企業がERP導入を検討する際に、同じ業界のフロントシステムを開発したという実績は、とても重視されます。私自身も、お客さまから相談されたときに「他社では、こういう対策をしており、このような効果が出ています」と具体的な解決案を提示して、納得していただけることもありました。
放送メディア業界向けに作った「J's-TV」も、実績を積み重ねた結果生まれたERP+会計フロントです。多くの企業の場合、源泉徴収が発生するような支払い先は弁護士や会計士、税理士など、ごく一部に限られていると思います。ところが放送メディア業界では「源泉徴収が発生するような支払い先(=タレント)との取引が多い」という特徴があります。
源泉徴収するという点では弁護士などと同じですが、タレントへの支払いには、本人の出演料のほか、ヘアメイクなどのスタッフへの支払い、ロケの宿泊費などを含む場合もあります。そのようなものも含めて1枚の請求書で処理したいとなると、雑多な項目をまとめて記載できる機能が会計フロントに求められます。
また弁護士や税理士の請求書と、タレントの謝金の請求書では、必要な項目が違ってくるので、放送メディアの会計フロントは両方に対応できる機能を持たせて、いずれのやり方でも請求から支払いまでを正しく処理できるようにする必要があります。
さらに、番組を作るプロデューサーから見れば、「自分が担当した番組」に関するコストの伝票は1枚にまとめて精算したいものです。そうすると制作会社への支払いやタレントの謝金が混在するような伝票になり、画面の要素が複雑になります。
また一般的にERPシステムは、利用者のいない時間帯である深夜にシステムを停止させてバッチ処理を実行することが多いのですが、放送メディアの場合、昼夜限らず経費申請されるため、システムは停止させず、裏側でバッチを実行するといった仕組みが求められます。
そのような放送メディア業界特有のルールや事情を踏まえて作った会計フロントが「J's-TV」に組み込まれており、すでに複数社の放送局さまで活用していただいています。
このほかにも、特別な用途のために専用のフロントを作ることもあります。その一つが、製薬業界向けの「透明性管理システム」です。これは日本製薬工業協会による「透明性ガイドライン」に対応するためのフロントです。
製薬会社は、新薬を作るための研究や治験、講演などで医療機関と協力し、それに対する支払いが発生しているのですが、そこには高い倫理性が求められます。そのため、製薬業界では倫理性を担保しつつ企業活動を推進していることを示すために、研究費の用途や支払い先などを透明性ガイドラインに従った形式で公開しているのです。この製薬会社側の活動の計画段階から医療関係者への支払い・公開までの手続きをシステムで管理するために開発したフロントが「透明性管理システム」です。
「医療機関への支払い」という観点から見ると、一般的な会計フロントで対応できるように思われるかもしれませんが、透明性ガイドラインに準拠するには「経費発生の前の計画段階」から、「支払った後の情報公開」までを一連のものとして管理する必要があります。それに対応するには、専用のフロントが必要でした。
公開することを前提に支払いを行うため、支払いが発生する役務を実施する際には、事前に医療機関などに公開する旨を承諾してもらう同意が必要となります。研究開発費、謝金、執筆料など役務の内容によって公開するべき内容も異なります。そのため、入力者には非常に多くの項目を正確に入力してもらわなければいけません。
入力に誤りがあった場合は、集計の際にエラーとなり、修正作業に追われることになりかねません。そのため透明性管理システムは、入力ミスが発生しないようにする対策だけでなく、マスターデータの扱い、自動チェックの方法などを確認しつつ、情報公開を見据えて確実に情報を入力できるフロントを目指して開発しました。
そのような業界特有のルールや制度を正確に理解して業務を正しく円滑に運用できるようにすることがフロントを作る私たちの責務となります。
学生時代に取り組んだ内容、興味のあった領域について
通信教育の添削指導員として培った、見えない相手への理解力
大学では経済学部に進みました。当時は公定歩合などの金融政策で物価の安定を目指すマクロ経済に興味があり、卒論のテーマも金融に関するものを選んでいます。
勉学以外の取り組みとして印象的というか、我ながら頑張ったなと思う活動は、通信教育の添削を行うアルバイトでした。「答案用紙を見て採点するだけの、簡単な仕事では」と思われるかもしれませんが、なかなか大変な作業でした。
私は数学を担当していたのですが、設問に対してきちんと解答してくる生徒の場合は、丁寧に採点を行い、最後にメッセージを書くだけで済むため、1枚あたり30分程度で終わります。
逆に一筋縄ではいかないのが、悩み抜いた末に誤答してしまった生徒の場合です。添削指導員としてはバツを付けるだけでなく、「どこで間違えたのか」を推察した上で正解に導くための適切なアドバイスをしなければいけません。しかしこれが難しいのです。
対面でのやり取りなら「なぜこの解答になったのか?」と尋ねられますが、通信教育ですから解答用紙を前に悶々と間違えに至ったプロセスを推察しなければいけません。こうなると一つの添削に数時間はかかってしまいますが、生徒の思考をたどり、誤答に至るまでのルートを見つけ出したときの手ごたえは大きいものでした。
今振り返ってみると、顔を合わせないで相手の思考を推測してきたことは、現在の仕事にもつながっているかもしれません。フロント開発時の要件定義の際に重要なのは、お互いの頭の中にあるシナリオ・思いを共有することです。「お客さまが望んでいるものは何か」「どういうシナリオを思い浮かべているのか」を推測しつつ、こちらの考えを提案し、双方の考えを擦り合わせ、同じ方向へ向かって進んでいく手法は、学生時代の添削のアルバイトの経験から学んだことといえます。
プロフェッショナルとして今後取り組んでいきたいこと
経理担当者が持つ知見をさらに発揮していくために

これからの社会では、人口減少と労働力不足が業界を問わずますます大きな課題になっていくでしょう。それでも経理や会計の仕事・タスクが多岐にわたることに変わりはありません。むしろ改正電子帳簿保存法やインボイスへの対応のように、経理担当者がチェックすべき処理が増加しているのが実情です。いずれは「人間で処理するには到底無理」というレベルまでタスクが増えるのではないかと危惧しています。
そこで、経理担当者の業務を「経営の参謀的な役割」へとシフトさせる支援をしたいと考えています。経営管理指標を見て自社の経営状況を分析したり、経営層に経理の知見を伝えて経営判断に役立てたりという活動により、経理担当者の仕事の価値はさらに高まるはずです。BIを駆使すれば経営層が自分でデータを見られるかもしれませんが、数字を読み解く力はやはり経理の知識とスキルが必要となります。そこに経理担当者の本来の力を発揮してほしいと思っています。
これまでの経理・会計は、正確性に重きが置かれていました。そのため、伝票を正しく処理し、間違いがないかを確認する負担が重かったといえます。しかしその考えが変わらない限り、経理担当者の負担軽減はなかなか進みません。
しかし、経理担当者の負担そのものを軽減しようという動き自体は起こり始めています。例えば紙の書類を読み取ってAIでテキスト化する「AI-OCR」を使えば、領収書をスマートフォンで読み取るだけで、必要な情報を自動的に入力できます。また、「RPA」を使えば申請や承認、突合、他のSaaSとのデータ連携やアップロードなどを自動化することも可能です。
他のインターネットのサービス、SaaSをフロントと連携させる取り組みもさらに広がるでしょう。現段階でも、交通系ICカードとSaaSを連携させて交通費を自動で算出するようなサービスや法人カードでの支払いを管理するSaaSなどが利用されています。
その上、今後はAIのような新しいテクノロジー、FinTechと呼ばれる金融とテクノロジーの融合、経理に役立つSaaSなど、さらに新しい技術が実用レベルに成長してくるはずです。そういう最新の情報、役立つ情報を私たちからお客さまに提供することで、お客さまと深く関わり、情報や知見を共有していきながら、より良いサービスを作っていきたいと考えています。
JSOLが開発したフロントの一部の機能を外販することも検討しています。例えば、経費精算に関する個々の機能は、いろいろな会社で共通して利用できるものです。そこで一部の機能を切り出して、単体として提供していけば、新たなビジネスを広げられるのではないかと考えています。
そのような取り組みを進めることで、JSOLのお客さまも、他社のお客さまも、業務の自動化、効率化、標準化を進め、経理の仕事そのものを変えていくことを支援していきたいです。
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