(2025年11月現在)

ビジネスの効率化、顧客との接点強化に役立つSalesforce。その良さを最大限に活用するには、サービス思想の深い理解と利用するお客さまのニーズの本質的な理解が欠かせません。今回は、立ち上げ期からSalesforceのビジネスに関わり、多くの導入プロジェクトを推進してきた吉長篤史が、現場が求めるニーズの変化とSalesforceの進化、将来性について解説します。

JSOL認定プロフェッショナル
アプリケーションコンサルタント
吉長 篤史

自身の専門分野とプロフェッショナル職の活動について

Salesforceの知見を高め、時代に即した新しい価値を生み出していく

 昨今、さまざまなビジネスシーンで利用されているCRM(Customer Relationship Management)サービス。その代表でもあるSalesforceは、DXや業務効率化、生成AIの活用など、企業が抱えるあらゆる課題に応えるため、日々成長を続けています。

 例えば営業支援。かつての営業部ではいろいろな営業支援ツールを使い分け、一つのシステムでは業務を完結できないという状況が普通でした。しかし営業に必要な機能が網羅されているSalesforceであれば、登録したデータが直ちに他の担当者にも共有され、各自が自分の営業活動に生かすことができます。取引先や商談の情報を一元管理することで、活動の見える化や好事例の共有が進み、組織全体での営業力強化、ビジネスのスピードアップにもつながります。

 顧客からの問い合わせを受けるコンタクトセンターや、自社製品を使う顧客を訪問し修理や点検、保守などを行うフィールドサービスでも、Salesforceは効果的に機能します。対応履歴や購入製品の情報を統合的に参照できるため、迅速で的確なお客さま対応が可能となるのです。過去の問い合わせや修理内容もすぐに把握できるので、「この部品には故障が多い傾向がある」など、データを元にしたサポートも可能になります。

 これらの相乗効果として挙げられるのが、「お客さまへの親身なアプローチが可能になる」点です。返品処理や修理など、マイナスなイメージを持たれることもあるコンタクトセンターとフィールドサービスですが、いずれもお客さまとのかけがえのない接点です。営業部門とも連携する形で一元管理や見える化を行い、フィールドサービスでも「そのお客さまに対して、営業がどのようなアプローチをしているのか」という情報が共有できるようになれば、より適切な顧客対応が可能になります。

 その他、Salesforceは社外向けポータルサイト構築などにも利用されています。BtoBの例では、メーカーが構築したポータルサイトに販売代理店の営業担当者がログインし、登録した顧客情報や商談情報をメーカーとリアルタイムに共有することができます。社外向けのシステムと社内の営業支援システムをスピーディーに簡単につなぐことができるのは正にクラウドサービスならではの利点です。

 このように単一業務の効率化にとどまらず、複数の異なる業務をつなげてデータを活用することで「顧客体験の向上」と「企業全体の生産性向上」を両立できる点が、業務改善にSalesforceを用いる重要な意義であると考えています。

 私が所属しているエンタープライズ&ソーシャルビジネス統括本部 カスタマーエクスペリエンス事業本部 カスタマーエクスペリエンス第二部 第二課では、金融業や製造業をはじめとする多様な業種のお客さまに対してSalesforceを中心としたクラウドソリューションの導入、開発、保守を行っています。その中で私は、コンサルティング、プロジェクトマネジメント、アーキテクチャ設計、システムの実現性を検証するPoC(プルーフ・オブ・コンセプト)の推進など、さまざまな立場でお客さまを支援してきました。

 私がSalesforce を専門とするようになったのは、2016年ごろのこと。JSOLでSalesforce事業を本格的に推進する取り組みの立ち上げ期のメンバーとして参画したことがきっかけです。当時のJSOLには、Salesforceに関する知見、ノウハウが不足していたこともあり、試行錯誤の連続でした。さまざまな苦労を繰り返しながら、お客さまへの提案や導入プロジェクトを通じて経験を積み、専門性を深めていったのです。

 自身の経歴を振り返ると、新入社員時代に自社製のワークフロー製品の導入、開発を担当していました。当時の主流はJavaフレームワークを活用した大規模なスクラッチ開発であり、私のようにパッケージ製品を使って数ヵ月の短期間でカスタマイズ導入するというスタイルは少数派でした。しかしこのサービス型ビジネスの経験が、後のSalesforceビジネスにも生きていると感じています。

現在の課題や注力している取り組みについて

データの統合や生成AIなど新しいSalesforceのサービスの普及を目指す

 お客さまがSalesforceに期待することも時代とともに変化してきました。私が関わり始めたころ、Salesforce導入の目的は営業支援や顧客管理といった単一業務の効率化が中心でした。

 その後、お客さまのニーズは「システムごとに分散したデータをまとめ、業務横断で活用したい」という方向に変化してきました。Salesforceは営業シーンならSales Cloud、コンタクトセンターなどのカスタマーサービスシーンならService Cloud、社外とつながるシーンならExperience Cloudというように多様なサービスが用意されています。それらを共通のプラットフォームでデータ管理できるメリットは大きく、「まずはSales Cloudを導入した企業が、他のサービスを追加導入しながら業務領域を広げていく」ケースも広がってきました。さらに外部システムやDWH(データウェアハウス)などとのデータ連携を伴うプロジェクトも増えてきたのです。

さらに近年では、顧客体験やデータ活用を重視する傾向が一層強まっています。Salesforceのユーザーも、Data Cloudによる顧客データの統合やAgentforce(Salesforceが提供するAIエージェントサービス)のような生成AI活用への関心が高まっていると感じられます。

 Data Cloudは一般的にCDP(Customer Data Platform)と呼ばれる顧客データ基盤の製品です。社内の複数のシステムやDWHに分散している顧客データを統合、名寄せし、マーケティング、インサイドセールス、営業、コンタクトセンターなど、複数の顧客接点で活用できる基盤を作ることが可能になります。

 このデータの統合の目的には生成AIの活用も関係してきます。生成AIの回答精度を高めるためには信頼性のあるデータをインプットすることが欠かせませんので、社内データの整備が重要です。Salesforceで生成AIを使うなら、Data Cloudで整備されたデータをAgentforceで活用する流れが理想的になります。

 Agentforceはまだ活用事例も多くはないですが、私もPoC(実現性検証)のプロジェクトに取り組んでいます。例えば、代理店向けのポータルサイト上で営業担当者の問い合わせにAIエージェントが対応する、などのユースケースをテーマにプロンプト設計や回答精度検証を実施していますが、生成AIを活用することで、業務の効率化だけでなく、新たな付加価値の創出ができるのではないかと考えています。

 このようなSalesforceの機能を十分に活用するためには、お客さまと綿密なコミュニケーションを取り業務理解を深め、現実の業務ルールに即した設計を行う必要があります。とはいえ、要件を細かく作り込みすぎると、機能追加時の対応や保守が大きな負担になりかねません。

そこで重要になるのが、要件定義時に「標準機能をどのように活用するか」を話し合い、Fit to Standardの実現を目指すことです。独自のカスタマイズを極力避け、Salesforceの豊富な標準機能をベースにすることで、短期間での導入が可能になるだけでなく将来的な機能追加や変更にも柔軟に対応することができるようになります。

 とはいえ、どれだけ話し合いを重ねたとしても認識の誤りによるトラブルや見逃しは起こるものです。それを避けるためには、Salesforceの豊富な経験を持つ有識者 が勘所を押さえることも重要になります。例えば権限設定を誤り、「第三者にデータを閲覧されてしまう」などの重大な問題の発生も想定されます。そのような観点を 有識者が指摘し、リスクを低減していくわけです。

 こうした課題に対応するために、JSOLでは全てのプロジェクトを横断してSalesforceのノウハウを提供するCoE(センター・オブ・エクセレンス)組織の立ち上げや、経験豊富なアーキテクトが第三者視点でプロジェクトリスクをレビューする仕組みを整えてきました。

 CoEのメンバーには、長年Salesforce開発を経験してきたプラットフォーム技術の有識者やセキュリティーの専門家、スクラッチ開発経験者などが含まれます。スクラッチ開発経験者を必要としている理由は、Salesforceのようなクラウドサービスの開発だとあまり意識することのない視点、例えばデータベースやミドルウェアに対する理解などが役立つ場面が少なくないからです。

 私自身が担当することもある第三者視点でのプロジェクトリスクレビューでは、要件定義が終わるタイミング、設計が終わるタイミングなど、要所要所でガバナ制限(マルチテナントのクラウドサービスであるSalesforce独自の制限事項)やセキュリティーの観点などからリスクを洗い出す作業を行っています。

 これらの対策を始める前は、プロジェクトごとの担当者がそれぞれに活動していたので、「問題が共有されないため、複数のプロジェクトで同様の問題が発生した」ということもありました。それを避けるためにチェックポイントをまとめたリストを共有してはいたのですが、どうしても見落としや理解不足による考慮漏れも発生してしまいます。

 しかしCoE組織を立ち上げ、リスクレビューを始めてからは、問題が起きる件数は減少し、仮に問題が発生したとしても早期に気づいて対処できるようになりました。

 またリスクレビューは、生成AIなどの新しいテクノロジーを採用しようというときにも役立っています。Salesforceに長く関わってきた経験者から見ると、新しい挑戦に対し「ジャンルは異なるが、似た失敗が過去にあった」という過去の経験からの助言もできます。また「それを実現したいのであれば、別の手法を使った方が良い提案になるのでは?」というアドバイスを送ることも可能です。

学生時代に取り組んだ内容、興味のあった領域について

ビジネス現場を情報システムで支える研究の経験がクラウドのビジネスに役立つ

 大学では、理工学部の経営システム工学科に進みました。当時の日本はフィーチャーフォン、いわゆるガラケーからスマートフォンへと移行しているタイミングであり、学生だけでなく、ビジネス現場でのコミュニケーション方法も変わりつつあると感じていました。

 所属していた研究室には、「ソフトウェア工学」と「オフィス情報システム」という二つの研究分野があり、私が専攻したのはオフィス情報システムでした。他の学生にはプログラミングや開発技術を研究できるソフトウェア工学の方が人気でしたが、私には「ビジネスの現場を情報システムで支える」というテーマの方がイメージしやすく、興味を惹かれたのです。

JSOL認定プロフェッショナル アプリケーションコンサルタント 吉長 篤史

 そこでの学びを通して「システムによる効率化や生産性向上を目指す」という経営的な視点を意識できたことは、現在Salesforceを扱う際の姿勢にも少なからぬ影響をもたらしていると感じています。

 勉強以外に取り組んだこととしては、音楽活動が挙げられます。高校生のときからギターを始めていたのですが、そのうち楽器そのものが好きになり、さまざまな楽器に触れたいと感じるようになったのです。

 この活動は社会人になってからも続いており、今でも時間があれば新しい楽器や演奏法に挑戦し、気分転換や発想の切り替えに役立てています。特にIT業界以外の人との出会い、コミュニケーションをとることは大切だと考えています。楽器を通して現役のミュージシャンやクリエイターなどさまざまなジャンルの人々と関わることで得られる刺激は、日常生活やビジネス上での発想や考え方にも大きな影響をもたらしていると感じています。

 社会人になってから経験した長期の海外出張も、今の自分らしさにつながる大きな要素の一つだと感じています。現地の技術者とのコミュニケーション、日本より進んでいたアジャイル開発などの経験を通して、日本の特殊性に気が付けたのです。今の自分がプロジェクト全体を俯瞰しつつ、状況に応じて柔軟に方針を選択できるようになったのは、海外出張で培われた経験によるところも大きいと考えています。

プロフェッショナルとして今後取り組んでいきたいこと

幅広い技術知識と業界理解をバランスよく備える

 これからのSalesforceビジネスは、特定業界に特化したサービスの拡充が大きなテーマになると考えています。

 Salesforceは、業界業種を問わずに使える汎用的なテンプレートとして営業支援やコンタクトセンター支援のサービスを提供してきました。これらの業務はいろいろな業種で共通する点が多く、機能として求められる要素も汎用的と見られていたからです。

 しかし共通の要素が多いからと言って、まったく同じというわけではありません。特有の要素については導入企業がギャップを埋める必要があり、それが追加開発をして作り込む必要があるような場合はSalesforceを導入することのメリットが薄れてしまいます。
 
 そこでSalesforceでは、より業界に特化した製品の提供を開始しています。その一つの例が、従来の営業支援システムであるSales Cloudをベースにしつつ、より金融業界向けに特化したFinancial Services Cloudです。これには「顧客の世帯管理/ライフイベント管理」といった業界特有の機能が標準で用意されており、金融業のお客さまはカスタマイズ量を抑えて導入することが可能になります。

 他にも、製造業界向けにはManufacturing Cloudという サービスがあります。「販売契約管理/販売計画」などのデータ活用モデルが追加で提供されるため、導入企業はROI(投資対効果)を早期に実感できるようになります。

 ただ、業界向けに特化したこれらの新しいサービスも、今のところ日本での導入数は多くはありません。その理由として挙げられるのが、「機能数の増加やデータモデルの複雑化により構築が難しくなっている」という点です。

 そもそもFinancial Services Cloudを活用するには、SalesforceというプラットフォームとベースになるSales Cloudに対する知見が必要となります。さらに金融業界の業務への理解も欠かせないため、要件定義、設計、等に関わるSIerには、金融のプロを求めるお客さまが少なくないのです。

 その点、JSOLは長年にわたり金融業や、ERP導入で培った製造業に関する豊富な業務ノウハウを持っています。Salesforceのプロフェッショナルと業務の専門家の知見を合わせることで、より大きな付加価値を提供することが可能です。これらの専門性を融合したチームにおいては、私はチームの力を最大化するために両者をつなぐ立場でありたいと考えています。

 一方で、JSOLだけで優れたビジネスを展開していこうとしても限界があることも事実です。その点、SalesforceではAppExchangeと呼ばれるマーケットプレイスを中心に、サードパーティの企業により数多くの拡張サービスが提供されています。これらの企業とアライアンスを組むことで、お客さまにとってより役立つシステムを提供できることでしょう。

 Salesforceはこれからも新しい機能を採り入れ、さらに発展していくはずです。私たちSIerは幅広い技術知識と業界理解をバランスよく備えることが大切になってきます。そのためにも社内ナレッジの体系化と共有、資格取得の推進などを進めています。定期的に若手を含めた勉強会を開催していますが、そこで得た知識はそれぞれの担当プロジェクトに生かされていると感じています。また副次的な効果として、若手社員が意見を出しやすくなる雰囲気づくりにも役立っています。

 また、生成AIを駆使するようなビジネスについては、参考になるような前例がまだあまり存在していません。だからこそ人材育成を強化し、次世代を担う人材を育てることも重要な使命だと考えます。そのため私は、プロフェッショナル職としての経験を活かしつつ、お客さまのビジネス成長を支える新技術の活用と、人材育成による組織力強化の両輪に取り組み、JSOLのSalesforceビジネスをさらに成長させていきたいと考えています。

 Salesforceは多くの可能性を持つサービスだと思っています。だからこそ、これほど多くの企業で導入されているのです。その中身と真の価値を理解し、お客さまのニーズに答えるために最大限の効果を引き出すことにやりがいと醍醐味を感じています。これからも、私自身もこの仕事を楽しみながら成長を続け、お客さまのビジネスの成功に貢献していきたいと考えています。


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