(2025年11月現在)
ERPは、製品ごとの特長や開発の流れ、ベンダーの姿勢といった違いを踏まえて導入する必要があります。グローバルスタンダードのSAP、国産ERPのBiz∫の両方に精通したアプリケーションコンサルタントの法島大輔がERPの構築のポイントや将来展望を語ります。

JSOL認定プロフェッショナル
アプリケーションコンサルタント
法島 大輔
自身の専門分野とプロフェッショナル職の活動について
グローバルスタンダードのSAP、国産ERPのBiz∫の両方の知見を蓄積
昨今ビジネスにおいてITは、加速度的に進化と発展を遂げています。当然、販売や会計などの基幹システムであるERPも例外ではなく、バージョンアップのたびに時代に合わせた新しい機能が拡張されています。例えば、経営判断に役立つ情報をスピーディーに提示する機能、生成AIなどの新しいテクノロジーを使った業務の効率化、分析の精度向上などです。それらは企業がさらなる進化、変革を行う際の重要な手段でもあります。
またサポート期間が終了した古いバージョンのERPを使い続けることは、セキュリティーの面で大きなリスクがあります。ERPを安全に利用するためにも、適時のバージョンアップは必要なことなのです。
ところが、現場のユーザーとしては、こうしたERPの進化を求めてきたかというと、そうとは言いづらい部分があります。ユーザーにとって最も大切なのは日々の業務が滞りなく行えることであり、使い勝手が変わることはあまり歓迎されてこなかったのです。
むしろ求められているのは安定性、信頼性、そして効率です。製造業であれば、得意先からの受注、出荷、請求までを正確かつ決められた時間内に処理することが必須となります。この当たり前の業務を当たり前にやるのが重要なのです。そもそもERPにトラブルが発生すると、商品の出荷、配送が止まるなど業務に多大な影響を及ぼします。時にはテレビや新聞のニュースで目にするような、長期にわたる大問題に発展することもあるほどです。ERPの機能拡張やバージョンアップによってトラブルが生じるなどということは、絶対に避けなければならないことです。それだけERPは企業活動に密着した重要なシステムと言えるのです。
私が所属するエンタープライズ&ソーシャルビジネス統括本部 ビジネストランスフォーメーション事業本部 エンタープライズソリューション事業部 エンタープライズソリューション部 第一課は、国産ERPであるBiz∫を推進するために発足した組織です。Biz∫を活用し、お客さまへのシステムの構想策定からシステム導入、保守までを行ってきました。私も、食品、消費財、ガス、医薬、メディア業界など多業種にわたるお客さまに対し、多くのシステムを提案・導入してきました。
ただ、私自身はこの部署が組織されるまでは、主にグローバルスタンダードであるSAPを担当し、その知見とノウハウを磨いてきました。そのため現在でもその知見を生かし、SAPを専門とする部署のサポートを行うこともあります。
同じERPというカテゴリに含まれるものの、SAPとBiz∫では、製品に対する考え方、開発の進め方は全く異なります。SAPは世界で最も有名なERPパッケージの一つであり、グローバルな観点から必要とされる機能を有したシステムと言えます。
一方、国産パッケージであるBiz∫はベンダーとの関係性の濃さが特徴です。開発元であり、当社とはグループ会社でもあるNTTデータ・ビズインテグラル社は「作れるERP」を掲げており、お客さまの声を共有してパッケージの機能を拡張したり、将来に向けたロードマップを一緒に検討したりもできます。
このように同じERPといっても製品によって特徴や開発の進め方が異なるので、両方に精通するのは容易なことではありません。必然的にSAP、Biz∫のプロジェクトは、それぞれのスペシャリストによって推進されることが多くなります。
もともと新しい仕事、未知の領域に飛び込むことをいとわないのが私のスタイルですが、SAPとBiz∫の両方に深く関わっているのはJSOL社内でもごく少数です。それぞれのスペシャリストとはまた違った俯瞰的な観点に立ってプロジェクトに関与できるので、汎用性があり、融通が効くという点が自身の強みと考えて、両方のプロジェクトに関わっています。
現在の課題や注力している取り組みについて
クリーンコア、Fit to Standardで柔軟で拡張性の高いシステムを構築
近年のERP構築では、シンプル化、標準化に注力しています。というのも、旧来は業務要件に対応すべく、パッケージに搭載された標準機能をあまり利用することなくプログラム開発を行い、細かいところはアドオンで対応するというパターンが一般的でした。アドオンなどを動かすためにパッケージ標準機能にも手を加えることもあり、そのため非常に複雑な仕組みになりがちでした。
また、一度導入したERPは長きにわたって利用されます。その間、バージョンアップによりいくつもの機能拡張が加えられることも珍しくはありません。アドオンやカスタマイズが増えると、あたかもスパゲッティーのように複雑に絡み合います。そうなると保守管理は難しくなり、バージョンアップの際には、コストも開発期間も増えることになりかねません。
そうした事態を避けるために、近年ではクリーンコアや、Fit to Standardという考え方が重視されるようになりました。クリーンコアは、パッケージ標準の要素とアドオンやカスタマイズした機能を分離するという考えです。企業が独自に必要とするようなアドオンなどを切り離すことで、コアの部分をクリーンに保つわけです。Fit to Standardは、パッケージ標準の使い方に業務を合わせ、なるべくアドオンなどを使わないようにするという考え方です。
パッケージの標準機能を極力活用することで、ERPが本来持つ機能を最大限に有効活用できるだけでなく、システムの安定性、信頼性も向上します。さらにバージョンアップの際もコストと開発期間を抑えられるだけでなく、生成AIなどのテクノロジーも活用しやすくなります。
ERPの構築、更改が難しい要因の一つに、立場の異なるさまざまなユーザーが利用していることが挙げられます。例えば、経営層は経営目標やKPI、中期経営計画など経営に資する要望が多くなり、経営判断に役立つデータを多角的かつスピーディーに提示してくれることをERPに求めます。一方、各部門の現場ユーザーについては日々のタスクの効率化を重視します。いかにして間違いなく正確かつスピーディーに必要な情報を入力して仕事を終えるかが重要になるのです。
このような立場の違いは、時に相反することもあります。例えば経営に資する情報を提示させるには、現場ユーザーの日々の業務に関係のない情報も登録しなければいけないケースもあるのです。
その解決には、両者のメリット、デメリットを単純に天秤にかけたり、「やる/やらない」といった短絡的な結論にせず、真の課題は何かをお客さまからヒアリングし、実現の方向性を導き出して考えていくということが重要と考えています。
そしてもう一つ重要なのが、お客さまからいただく期待と内容を理解し、かみ砕き、言語化して提案すること。例えば、ロードマップを示して実現性を見える化し、構築時はここまでやる、来年度はこれを拡張、そしてX年後にはこういう形を実現するという将来ビジョンを提示します。そうした活動を通して現在抱えている真の課題をヒアリングし、実現の方法を相談することで、将来のあるべき姿までを見通した導入が可能となるのです。
JSOLは一般的なコンサルティングだけでなく、開発・テスト・移行・保守というシステム導入も手掛けています。システム開発を理解している者がロードマップを描くので、実現不可能な絵空事を提案するようなことはありません。
またERPの導入、構築は開発体制も大規模になりがちで、開発のパートナー企業と協力することもあります。そういう時に大切になるのがコミュニケーションです。担当Aと担当Bの仕事に隙間があると、開発の漏れにつながりかねません。そこでしっかりコミュニケーションを取ってプロジェクト全体をうまく回していくことが求められます。
その点私は、作業の漏れ、野球で言えば守備の隙間に生まれるポテンヒットのようなミスを拾うことは得意だと自負しています。もちろんそういうミスは起こさないことが一番ですが、プロジェクトが大きくなればなるほど発生しやすくなるのも事実。それを起こる前、あるいは被害が小さいうちにフォローすれば、全体がうまく回ります。
そしてERPをお客さまに提供する上でJSOLが大切にしているのが、「やり抜く」姿勢です。これは、当社が掲げる経営理念・バリューの一つでもあります。大規模なERPのプロジェクトは、どこかで問題が起こるとスケジュールの延期も起こりやすいものです。しかし私たちJSOLは、決められた期限までに必ず実施しようと臨んでいますし、提案書にもそのように記載しています。スケジュールが遅延すれば、いろいろな関係者との調整も必要になりますし、コストの増加にもつながります。誰にとっても良いことはありません。
時には、お客さまの事情で遅れが生じそうになることもありますが、お客さまと共にプロジェクトを確実に成功に導くために、躊躇せずに「この件は、いついつまでにお客さまが判断してくれないとスケジュールに影響します」と迫ることもあります。
学生時代に取り組んだ内容、興味のあった領域について
ヒューマンエラー回避に必要なことは? 人間工学の知識がERP構築に生きている
大学時代、理工学部の管理工学科に進んだ私が悩んだのが、研究対象の多さです。一言に管理工学といっても、資産運用やリスクマネジメントを扱う金融工学だったり、航空機や自動車の運動を扱う制御工学だったりと、さまざまな領域がありました。
その中で私が専攻したのが、モノや環境の配置や動線、デザインを研究することで利便性を向上させたり、ヒューマンエラーを防いだりすることを目的とする人間工学でした。
例えば、私たちが何気なく利用している電車のつり輪。あれにも人間工学の研究が生かされています。現在のつり輪は、身長や年齢を問わず、あらゆる人にとってつかみやすい高さや形状となっています。しかしその完成形に到達するまでには、実際の使いやすさや心地よさなど、数字には表しにくい「気持ち」の要素が大きく関わってきます。
このようなファジーな点に他の研究対象とは異なる面白さを見いだし、人間工学を専攻しました。そこで学んだことの中で印象的だったものが、ヒヤリハットに関する研究です。

日常生活から工場現場まで、人間が活動する場所にはさまざまな危険が存在しています。その中にはフライパンをひっくり返しそうになったというような軽度のものから、病院で患者に注入する点滴を間違えたり、空港で航空交通管制が操作手順を間違えたりといった人命に危険がおよびかねないものもあります。そうしたヒヤリハットの事例を調査することでヒューマンエラーを防ごうという人間工学の研究は、学んでいて楽しかっただけでなく、操作ミスを起こしにくいシステムを作るという点で、今の仕事にも役立っていると感じています。
学生時代には、こうした勉強以外にもサッカー部やピアノ教室、塾講師など、さまざまな活動をしていました。サッカーでは運動量が求められるサイドバックを任されていた私は、一度試合が始まるとほぼ休むことなく延々と走り続けなければいけません。チームのために動き回るという姿勢は、この時の経験が生きていると感じます。
対して、小学生の頃から始めたピアノは、19歳前後まで続けていました。通っていた教室が学区外だったため、発表会でも見知った顔がなく、競争心を抱かずにいられたので、気楽な気持ちで鍵盤を叩いていました。最初は難しいと感じていたのですが、弾けるようになってからは楽しさも理解できるようになり、やり続けることの大切さを学びました。
塾講師を通して学んだのが、教え子と視点を合わせることの面白さです。「何が分からないのかが分からない」といったケースから、「なんとなく分かっているが、回答として書けない」というケースもあります。そのように生徒ごとに違う悩みに対して、一人一人と同じ視点で考え、必要なステップを設定し、寄り添いながら積み重ねていくという体験は、現在の仕事にも生きていると感じます。
これらの経験に共通しているのが、継続すること、やり抜くことの重要性です。どんなことでも「難しい、諦めたい」と思うことはあると思います。しかし、そこで折れることなく、仲間と協力しながら目標に向かって最後までやり抜くことの重要性は、仕事にも共通すると考えています。
プロフェッショナルとして今後取り組んでいきたいこと
自由気ままなニーズにも迅速に対応できるERPの構築を目指す
これからはERPでもAIによる予測や効率化が重視されるでしょう。今までは企業活動を支える基幹システムの導入が大きな目標の一つではありました。そのため私たちJSOLも、停止することなくトラブルも発生させない安定性を重視したシステムの構築、運用を重視していました。
しかし、今後はデータを分析し、見える化するだけでなく、AIを利用して随時戦略を立て、見直していくスピード感が求められると思っています。
例えば経営陣がこれまで「日本でこの商品がどれくらい売れたか」を見ていたのが、突然「売れ行きのデータをベースに事業所の再編をしたい。北海道、東北、関東とエリア別の詳細なレポートを出してくれ」といった話が出てくることもあります。従来のERPであれば、数人が掛かりっきりになってその資料を作っていたでしょう。しかしAIを駆使すれば、そういうニーズに対してもスピーディーに対応できるようになります。
またAIが自動的に判断して商品を販売するような仕組みをERPが持つ時代が到来する可能性もあります。
ERPもそのような、ある意味自由で気ままなニーズに対応できないと、基幹システムの真の目的に達していないという認識が広がってくるように感じます。そうでなければ目まぐるしく変化する世の中の動きに対して、迅速に対応していくことが難しくなります。
私も、世の中の状況やニーズの変化に迅速に追随できる仕組みをご提案できなければ、お客さまに選んでもらえなくなるだろうという危機感を抱いています。ERPのバージョンアップの際には、そういう将来ビジョンをお客さまと一緒になって話し合いながら、これからのロードマップを描いています。
こうした中で、お客さまにより良いサポートを提供していくために私が取り組んでいるのが、複数のERPに対応できるメンバーの育成です。私自身SAPとBiz∫の2つのERPを扱う二刀流ではありますが、それぞれの領域で大規模プロジェクトを成功させるなど、大きな実績は残してこられたと考えています。
現在のJSOLではそれぞれのスペシャリストが多く、二刀流は少数派です。もちろん一つのERPに特化したスペシャリストは必要です。JSOLではSAPとBiz∫等顧客に合わせたERPサービスを提供していますが、今後別のERPが登場してくる可能性もあります。選択肢が広がったときに、俯瞰した視点に立ち、いろいろな知見を持って、お客さまに最適なERPを提供できるメンバーの存在も重要になってくると思うのです。そうした考えから、今後はさらにスコープを広げ、知見の幅を広げながらも、人材育成にも注力して、会社として強くなれるように尽力できればと考えています。
基幹システムとして使われるERPは、失敗はできない難しいプロジェクトです。特に企業や組織の規模が大きいほどERPの重要性も増していきます。それだけに、構築、更改を担当する私たちも、無事に正常稼働できた時の安心感は言葉に代えられません。
ちょっと逆説的に聞こえるかもしれませんが、ERPのサポート終了などでバージョンアップが必要となった際に「現行のシステムで課題、不満点はありませんか?」と質問して、「全くありません。このままでいいのでバージョンアップをしなくても・・・」との言葉をいただいくこともあります。そういうときには「お客さまに満足してもらった、いい仕事ができた」という充実感が満ちてきます。そして「前回以上に満足してもらいたい」と次のバージョンアップに臨んでいくのです。
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