(2026年09月現在)

生成AIの登場によって、システム開発の現場は大きな変革期を迎えています。従来、人間の経験に頼っていた開発が生成AIによって短時間で行えるようになる一方、品質の担保や開発方法論の再構築といった新たな課題も生まれています。長年SAPの技術基盤である「SAP BASIS」を軸に品質管理にも携わり、全社横断のAI駆動開発の体制づくりを率いるJSOL認定プロフェッショナル ITアーキテクトの林大介が、AI駆動開発の取り組みについて語ります。

JSOL認定プロフェッショナル
ITアーキテクト
林 大介

自身の専門分野とITアーキテクトの活動について

SAP BASISから品質管理、そしてAI駆動開発へと領域を拡大

 近年、SIerの事業における大きな柱だったシステム開発そのものが、生成AIによる自動化によって変わりつつありますが、この潮流はクラウド普及期に経験した構造変化とよく似ていると感じています。かつてクラウドが登場したことで、オンプレミス時代のハードウエアなどの商品を販売するビジネスは縮小し、サービスとして提供する形へと推移しました。現在起こりつつある生成AIの登場による構造変化は、そのクラウドによる変化と共通している点が多く、「2回目の波」が来ているように思います。だからこそ、これから到来する新しい生成AIの時代においても、JSOLはお客さまの変革を支える最適なシステムの実現を追求しています。
 私が所属しているエンタープライズ&ソーシャルビジネス統括本部 データ&テクノロジーコンサルティング事業本部では、データとAIという観点に立ちビジネスを展開しています。データ利活用の分野ではDatabricksを代表とするデータ分析基盤ソリューション、AIの分野では「AIエージェント」と「生成AIによって開発を推進するAI駆動開発」の両輪で取り組んでいます。
 もともと私が専門としていたのはAI分野ではなく、ソフトウエア開発とインフラ領域でした。1994年に入社した当初はホストコンピューターのソフトウエア開発を担当しました。COBOLでプログラムを書いた経験を持つ最後の世代だと認識しています。同時にPCの部門展開担当としてインフラ領域の業務も経験しました。転機となったのは入社して3年を過ぎたころのこと。文系と理系の両方に触れられるということから、大学では経営システム工学を専攻し、その中で生産管理を学んでいた私は、SAPに生産管理モジュールがあることを知り、自ら志願してSAP部門に異動したのです。しかしインフラ領域も担当していたこと、当時のインフラ領域担当者が抜けてその穴を埋める形で任されたことから、SAPの技術基盤である「SAP BASIS」を担当することになりました。
 SAPは、企業の重要データと業務プロセスを守る要塞にも例えられるような複雑な構造を持ち、会計や生産管理のようなアプリケーションからアプリケーション制御やジョブ基盤、インターフェース基盤、監視基盤まで、さまざまなモジュールや機能で構成されています。そして、それらを運用するための技術基盤が「SAP BASIS」です。決して多い人数ではありませんが、このSAP BASISのための専門職が存在するのはSAPを扱う業界ならではの特徴です。
 SAP BASISを含むインフラ領域はシステム構築のときだけでなく、ソフトウエアのバージョンアップ、ハードウエアやプラットフォームの更新などでも関わっていくことになります。さらにネットワークやセキュリティーの知識も必要となりますので、奥が深く、幅広い業務と言えるでしょう。
 またシステム稼働後にアプリケーションの開発担当者が現場を離れても、インフラ領域の保守の仕事は残り続けます。そのため、システム構築が終わったあとも関係が継続しているお客さまも多くいらっしゃいます。
 世の中一般にSAP BASISを専門とする人材は少なく、その仕事を外注している開発業者もいます。その点JSOLでは、SAP BASISが分かるインフラ領域担当者の育成と確保に力を入れており、ソフトウエア開発とインフラ領域の両方のチームを自社内に持っているため、問題が生じた際にも互いの領域を越えて協力して対応できます。
 2012年ごろより、私は構築するシステムの品質活動にも関わることになりました。当社の品質活動には「品質管理」と「品質保証」があります。「品質管理」は開発中のプログラムなどの成果物の不良や欠陥を早期に発見、是正するものであり、「品質保証」はお客さまに対してプロジェクト全体の品質を保証するものです。私は、開発プロジェクトに参画している立場のときは品質管理を、PMOや第三者レビューワーとして関わる場合には品質保証を担当しています。
 最近は、人による品質レビューと生成AIによる機械的なチェックを併用することも試行しています。レビューでチェックする項目は、これまでに蓄積してきた経験から確立されており、そのノウハウを基に生成AIによるチェックを実行するのです。こうした経緯から、私の業務の中でも生成AIと関わることが増えてきました。

現在の課題や注力している取り組みについて

全社横断で挑むAI駆動開発体制づくり

 現在最も力を入れているのが、AI駆動開発の体制づくりです。要件定義から製造、テスト、運用に至るまで、ソフトウエア開発にはさまざまなフェーズがありますが、AI駆動開発はその開発プロセス全体に生成AIを活用する開発手法です。
 AIをシステム開発に活用すること自体は以前から行われていました。従来型のAIによるシステム開発は人間が行う作業を支援する形で行われるのに対して、AI駆動開発はAIエージェントが自律的に判断して開発を進めることになります。人の手を使って行ってきた従来の開発に比べて、効率化、スピードアップが実現できると期待されています。
 私は現在、このAI駆動開発推進を担当しています。JSOLのエンタープライズ&ソーシャルビジネス統括本部には、データ&テクノロジーコンサルティング事業本部を含めて4つの事業本部があるのですが、各事業本部がそれぞれで模索していたAIの取り組みを束ねる形でタスクフォース化し、2026年に10のチーム体制に再編成しました。
 オファリングチームは、ServiceNow、Salesforce、SAP、Biz∫(インテグラル)/intra-mart、JSOL独自のマスターデータマネジメントシステム「J-MDM」、医薬品の実消化・MDMソリューション「J-apis」の6チームで構成しています。このオファリングチームに加え、「AI駆動開発・開発標準」「クラウド基盤・システム運用」「プロジェクト管理」「ガバナンス・セキュリティ」という4つの横断活動チームを新たに設けました。
 現在は上記10チーム体制で、「AI駆動開発の案件を受注したら、デプロイまで対応できる」体制を、1年間かけて作りあげている段階です。
 とはいえ、AI駆動開発のプロジェクトを推進するのは容易ではありません。例えばJSOLは、他のパッケージベンダーが提供する製品も扱っていますが、AI駆動開発の位置付けはベンダーによって異なります。AI駆動開発を積極的に推奨するベンダーもあれば、「Fit to Standard」を掲げ独自開発そのものを最小限とする方向性を掲げるベンダーもありさまざまです。そうしたベンダーごとの方針を踏まえた上でAIの取り組みを進めなければ、方向性を見誤ることになりかねません。
 また、「AI駆動開発の向き、不向き」という問題もあります。
 AI駆動開発が向いており期待されているのは、DXの領域です。AI駆動開発を使えばシステムを早く作れるので、アジャイル開発のようにスピーディーに開発サイクルを回して、DXの早期達成を狙うためです。そのようにAI駆動開発の真の価値、必要性を理解しているプロジェクトでは、うまく活用できるでしょう。
 ただし、お客さまにおいてそうしたプロジェクトを主導される部署は現場部門であることが多く、「システムやインフラの詳細についてはよく分からない」というケースもあります。そこで私たちも、システム構築に馴染みの薄いお客さまがどのようなニーズを抱えているのか、どういう角度でアプローチすればお客さまの課題に届くかを考えていく必要があります。
 一方、現時点でAI駆動開発が向いていないと考えられる領域もあります。例えば、電力や鉄道などのライフライン、医療や車の自動運転といった人命に関わる領域、勘定系のような正確性が絶対条件となる基幹システム、セキュリティーの領域などです。AIを利用して問題が起こった場合に「誰がどのように責任を負うか」を明確にしづらいためです。また、生成AIで作るプログラムには揺らぎが生まれるため、同じ指示で開発させても全く同じプログラムができあがるとは限りません。「責任の所在」と「品質の不確実性」という要因から、人命が関わるような領域、責任が不明瞭な領域での利用には向いていないとされています。
 品質管理の視点からも、大きな変化が起きています。まず、生成AIは大量のプログラムを書き上げてきます。人間が書いたプログラムであれば、「この2行を修正して」と具体的に指示を出しやすいのですが、AIは膨大なプログラムを書く上に、修正指示を出すと全て書き直すこともあります。この「意図しないコードの再生成」という問題を解決するために、開発のルールとスキルを明確にAIに伝えた上で、プログラムの開発、修正、テストをさせていく「仕様駆動開発」も広がりつつあります。
 人間にはルールとスキルをAIに伝える能力が求められ、品質管理だけでなくソフトウエアの開発方法論やテストの方法論を理解する必要がでてきます。今後はプログラムを書く能力と品質管理を行う能力の両方を備えた人材が重要になっていくでしょう。
 AI駆動開発は比較的新しい考え方であり、JSOLのプロジェクトの中にも、うまく活用できているものもあれば、要件定義の段階から試行錯誤しながら取り組んでいるものもある状況です。そういった中でもすでにAI駆動開発を活用してシステム構築を完了し、保守フェーズへと移行している成功事例もあります。
 このようなAI駆動開発を推進する上で、私が個人的に取り組んでいるのが、自分自身でも生成AIのサービスを契約し、いろいろなプログラムを開発する(させる)ことです。実際に自分でやってみると、さまざまな課題に直面するものです。例えば、あるサイトからデータをダウンロードするプログラムを作って実行したところ、頼んでもいないのに認証情報を勝手に保持していたことがありました。このようにAIが起こす予想外の挙動を数多く経験していくことで、実際のプロジェクトで苦労しているメンバーから相談を受けたときなどに臨場感を持って議論を進められるようになったと感じています。

JSOL認定プロフェッショナルとして今後取り組んでいきたいこと

AI駆動開発で、答えのない課題に向けて新しい価値の創造を

「今はない、答えを創る。」をブランドメッセージとして掲げるJSOLは、「お客さまが今、望むものを提供するだけでなく、その先にあるもの、お客さま自身がまだ気づいていない価値をお見せする」ことを使命としてきました。今は「その先にあるもの」として生成AIの使い方を提示したいと考えています。
 AI駆動開発をどう使えばお客さまにとって新しい価値につながるのか、その答えを出すために日々探求しています。まずはAI駆動開発の真の価値を理解してくださっているお客さまのプロジェクトでの利用、あるいは部分的な利用から始めて、徐々に広げていこうと模索している段階です。そしていずれは、DXが進めやすくなるなど、さまざまな利点が見えてくるはずと信じています。

 またAI関連の人脈づくりにも注力しています。社外においては、クラウド事業者などのアライアンス活動を通じてビジネス化、あるいは連携強化、問題発生時の支援要請などに努めてきました。そして、前出の10チームが取り扱おうとしている商材に近い会社とも情報交換やディスカッションをしたりして、新しい人脈を増やしているところです。
 併せて力を入れているのが、次世代の育成です。私自身もAI駆動開発という新たな領域にリスキリングして取り組んでいます。プロフェッショナル職は直属の部下を持たない立場なので、人材育成への関わり方が難しいのですが、若い世代に対してどのようなスキルを身に付けてほしいかを示す「キャリアパスモデル」の整備に取り組んでいます。
 その際、若い世代には「境界線を乗り越えてください」と伝えています。大人数の組織、プロジェクトとなるとセクショナリズムが生まれがちですが、相手の領域を理解しなければ、本当の問題がどこにあるのかも判断できません。特にAI駆動開発のような新しい取り組みとなると、自分の担当する領域だけ見ていては、全体の動きが把握できなくなります。だからこそ若手には知識習得の観点で積極的に領域を越えることを勧めています。
 プロフェッショナルの仕事は、マネジメントと異なる点があります。プロフェッショナルの役割は進むべき道を示して、「そのためにこのスキルを身に付けてください、この仕事をやってください」と伝えること。そして困った社員から相談を受けたとき、然るべき答えを提示することです。相談に答えるということは、「その領域の責務は持ちます」という責任を一緒に背負うことでもあります。
 当社のプロフェッショナル認定は2007年に始まった制度ですが、最初にITアーキテクトとして認定されたのが私でした。以来、3年ごとの更新審査を重ね、上席プロフェッショナルとなり、現在は上席のさらに上に位置付けられる「主席プロフェッショナル」として活動しています。
 これまでを振り返っても、認定の階級が上がったことへの実感はあまりありません。それよりも、お客さまと議論しながら何かを作り上げていくプロセスそのものが、自分にとっての楽しみだったのだと思います。直近では12のシステムを一斉に切り替えるという大掛かりなプロジェクトも経験しました。そのとき、膨大なシステムをどう確実に移し替えるかをお客さまと一緒に考え抜いた経験は、まさにその面白さを実感できるものでした。
 一方で、テクノロジーがどこに向かうべきかを経営陣に進言する機会も増え、プロフェッショナルとしての責任感を強く感じるようになっています。この先も、テクノロジーへの探求心を持ち続けながら、AI駆動開発を軌道に乗せ、次の世代にしっかりとバトンを渡していきたいと考えています。


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