(2020年12月現在)

国立研究開発法人理化学研究所(理研)、株式会社理研鼎業、株式会社JSOLの共同出資により、2020年10月1日、株式会社理研数理が設立しました。3社によって誕生した理研数理は、来るべきSociety 5.0時代に向けて、アカデミア(学会)と産業界の連携を深め、さまざまな社会課題の解決に数理を活用して取り組んでいきます。新会社設立の背景や目的、将来展望についてJSOL 代表取締役社長の前川 雅俊と、JSOL執行役員 デジタルイノベーション事業本部長であり、理研数理 代表取締役社長の江田 哲也が語りました。

左)株式会社理研数理 代表取締役社長 江田 哲也
右)株式会社JSOL 代表取締役社長 前川 雅俊

アカデミアと産業界の連携を推進し、数理で社会課題の解決を

−−理研数理はどのような目的を持って設立した会社ですか? 

江田: 

 理研数理の主な事業は、企業とアカデミアの共同研究をつなぎ、そこから得られた知財を企業にライセンスとして販売するというものです。
 将来的には、得られた知財を新規事業化して理研数理自体が直接マーケットに展開、あるいは新しく設立するベンチャーを支援する形で事業の促進、活性化を目指しています。

−−数理は、一般にはなじみのない言葉ですが、何を意味するものですか? 

江田: 

 数理とは主に「数学を中心とした学問」を指します。社名に込めた意味としては、「数学+学術的な数式」や「サイエンス理論」、スーパーコンピューター富岳に代表される高速な計算機などを用いた「計算科学全般」。それらを総称するものとして「数理」を掲げています

前川: 

 森羅万象のいろいろな社会現象を数式に置き換えて考える学問ともいえます。
 少し脱線しますが、以前天才科学者が犯罪の謎を解く推理ドラマがありました。彼は事件解決のヒントを思いつくと数式を書き連ねます。あの主人公のように、社会現象などを数式として捉えることによって、誰もが思いもよらなかった何かが見えてくるわけです。

江田: 

ニュートンもアインシュタインも、物理現象を数式で表しました。数式で証明できたからこそ、後世の学者がその研究を引き継ぐことが可能となり、科学の発展へとつながりました。

前川: 

 既知の現象を数式化して新しいものを生み出すことは、JSOLのブランドメッセージである「今はない、答えを創る。」にも通じています。数理によって、いろいろな社会現象、社会課題に対して解決の道筋を作り、さまざまな貢献ができるのではないかと考えています。

 江田:

 ビジネスや社会への貢献、新しい発見に加えて、「日本の研究者、研究機関の環境向上の一助、突破口になること」にも取り組もうとしています。
 日本のアカデミア、特に基礎研究分野の費用はほとんどが税金から捻出されています。しかし理研数理の活動によって民間企業との共同研究が増え、民間の資金も多く活用できるようになれば、より研究しやすい環境になると思うのです。

Society 5.0時代の社会課題解決に役立つ数理のアプローチ

−−数理の活用によって、どのようなことが実現できるのですか? 

江田: 

 身の回りの生活、日々のビジネスにも数理は役立つものです。例えば銀行では、融資先であるお客さまの与信管理を定期的に行っていますが、たいてい年1回の決算書をもとにスコアリングして、1年間単位で検討するものですが、もっと短いサイクルで状況を把握できれば、融資先に対してタイムリーなアドバイスが可能となるでしょう。
そこに数理を使えば、企業の入出金明細など、日々刻々と動いているお金の動きを分析し、タイムラグなくモニタリングできるモデルが作れるはずです。
 ほかにも、新型コロナウイルス感染症の拡大を抑えるための研究にも数理が用いられています。以前なら、どういう薬を使えば感染を防げるのかというシミュレーションは難しかったのですが、高速な計算が可能な富岳を使うことで実現できるようになり、すでにさまざまな成果も見えています。

前川: 

 日本は、Society 5.0という新しい社会を目指して歩み始めています。Society 5.0とは、デジタルと現実が融合して、さまざまな社会課題を解決しながら発展していく社会です。高齢化、エネルギー、格差などさまざまな問題がありますが、理研数理のような取り組みから課題解決するケースが増えていけばいいなと思います。

江田: 

 数理が役立つ範囲は意外に幅広いものです。これまでは「デジタルはあくまでも、現実を補完するもの」という現実中心の社会でしたが、Society 5.0では、「デジタルありき」として社会を捉えることになります。これまで以上にデジタルの力が、社会のさまざまな場面、ビジネスの現場でも私たちの身近な生活においても、役立つ時代が到来するでしょう。
 その中で社会問題の解決を図るには、高度なアカデミアの力も必要になってきます。アカデミアと民間事業会社の連携が進めば、政府が唱えるSociety 5.0の課題解決を推進するエンジンのひとつになりうるのではないでしょうか。

発端は、研究者と産業界の間にハブがあれば、日本の研究環境が向上するという思い

−−理研数理の設立経緯を聞かせてください。 

江田: 

 発端は6年前。ある仕事で理研とJSOLが組んだことがきっかけでした。そのプロジェクトの担当だった私は理研に足しげく通うようになったのですが、そのときに対応してくださったのが宇宙物理学の研究者でした。宇宙オタクだった私は、役得とばかりに仕事の合間に宇宙の話を聞いていたのです。
 そういうやり取りの中で、こういった優秀な研究者がもっと自由に研究できる環境づくりのお手伝いをしたい、と考えるようになりました。

前川: 

 日本は海外に比べて研究論文数が少ないという指摘もあります。また海外に拠点を移して研究する科学者もいます。国内の研究環境をもっと充実できれば、より良い研究が日本で増えていくでしょう。

江田: 

 そのような思いから、研究者と産業界のハブとなる機関を作るという考えが生まれ、理研数理の設立、という形になったのです。
 ビジネス目的の共同研究だけでなく、アカデミアの研究者、民間企業に籍を置く研究者、データサイエンティスト、コンサルタント、エンジニアがお互いの強みを生かしながら活動できるハブ、人材交流するためのハブにもならなくてはと考えています。

前川: 

 その先に「新たな社会の創出に挑戦する皆様の共有プラットフォーマーになれば」という期待も持っています。どこかの1社が単独で利益を得るのではなくて、ある会社の研究成果をいろいろな会社、団体が享受できるような、懐の広い形のプラットフォームでありたいと。

−−2020年10月に設立したばかりですが、反響はいかがですか? 

江田: 

理研は国内で唯一の自然科学の総合研究所であり、信頼性の高い組織と言えます。その理研が戦後、国立の研究機関が初めて民間企業と共同出資をして会社を作ったわけですから、かなりのインパクトがあったようです。

前川: 

 反響は非常に大きく、いろいろなところから問い合わせをいただいています。寄せられた声からは、研究者が持っているリソース、知財を広く民間で生かすための突破口を開いたことに対する期待が感じられます。

江田: 

 理研数理は、資本金300万円という極めて小さな規模でスタートしています。その金額が少ないと思われますが、私たちは、この金額でも事業を展開できるという考えを持っています。ただ、事業をマネタイズするプロセスにおいてはJSOLのような企業による支援は不可欠です。今はJSOLだけですが、いずれは第2、第3のJSOLとなる企業が生まれ、このスキームが広がっていけばいいと思います。

理研数理が、アカデミアに呼びかけ、産業界との共同研究をコーディネート

−−理研数理に業務を依頼する場合は、どのようなイメージになるのでしょうか? 

前川: 

 新しいビジネスアイデアを思いついても、「これは社内の人材、一般のデータサイエンティストだけでは対応できない」という悩みを抱えている企業も少なくないはずです。
 そのようなとき、理研数理、もしくはJSOLに声をかけていただければ、アカデミアから適切な研究者を見つけて仲介し、共同研究を進める支援ができます。

江田: 

 従来、一般企業がアカデミアに共同研究を依頼する場合は、特定の商品開発などの目的から投資、共同研究が始まります。その際、企業は目的にあった研究室や研究者を自分で探さなくてはいけなかったわけです。そしてアカデミア側では目的に沿った形で研究を進め、その範囲内で成果を出そうとしてきました。

前川:
 産業界からアカデミアに研究を依頼し、アカデミアから産業界へ「依頼に対するアンサー」という形で成果が送られるという、一方通行のやり取りだったといえます。ですが、その研究の過程では、求められたアンサー以外にもさまざまな成果が出てもおかしくはありません。当初の目的からは逸脱したとしても、役立つ研究成果が出ているなら、活用しないのはもったいないことですね。 

江田: 

 とはいえ、アカデミアで基礎研究をしている研究者がビジネス化のノウハウを持っているとは限りません。そういうところも実際のビジネスをよく知るJSOLが支援します。
 このような支援活動によって、アカデミアと産業界のやり取りが活性化し、さまざまな学術的な価値が生み出されていけば、理研数理、またはJSOLが、依頼者、もしくは産業界全体に対して逆提案をすることも可能になるでしょう。

−−逆提案とはどのようなことが考えられますか? 

江田: 

 例えば、新型コロナウイルス感染症の有効な治療薬を同定するために、スーパーコンピューター富岳を使ってさまざまな研究が進められています。この過程で開発されたモデルやソフトウエアは、他の分野でも応用利用できる可能性があります。命を守るための研究は、何より大切ですが、その知財が広く活用されることも必要だと思います。
 まだまだアイデア段階ですが、アンチエイジングのサプリメントに応用され、最大効果を個人別にレコメンドできるようになれば、今まで以上の投資を呼び込むことが期待されます。

次世代の研究者のため、夢とチャレンジする場を提供したい

−−理研数理で事業を展開するうえで大切にしていることはどのようなことですか? 

江田:
 信用力ですね。設立メンバーとの議論を繰り返す過程で、「この仕事は、次世代の研究者のために取り組んでいきたい」という思いを強くしました。
 ところが世の中にはいろいろな価値観が存在します。目の前の利益だけにとらわれることなく、本来の目的を見失わず、未来のための活動を継続していくには、お互いに信用しあうことが大事と思ったのです。 

前川: 

 理研数理は夢を持つ会社であってほしい。お客さま、社員、未来ある若手に対して夢をかなえてほしいなと思います。その夢がJSOLと協力することでかなえられるならハッピーですね。

江田: 

 もうひとつ大切にしたいのはチャレンジすることです。次世代の研究者だけでなく、これまで機会に恵まれなかったベテランにもチャレンジしてほしい。80歳の起業家が生まれるなら、心から歓迎したいです。

前川: 

それはいいですねえ。ぜひ見たいものです。

 −−10年20年後の将来を見据えての展望を聞かせてください。

江田: 

 今は存在しない新しい事業、会社が数多く生まれていくプラットフォームとして、起業家同士が連携するスクエア、広場として存在し続けるようになればと考えています。

前川: 

 新しい価値を次々と生み出し、社会に還元していく会社として世の中に知られるようになって、いつか「あの理研数理を生み出したのは、JSOLだったのか」と思われたらいいですね。

−−最後に理研数理、数理という学問に興味を持った方に、一言お願いします。 

江田: 

 理研数理のメンバーには、世界有数の研究者がたくさんいます。理研数理という名前に、敷居が高く感じる方がいらっしゃるかもしれません。
 ただし、私自身は研究者でもなく、ただの文系の元野球少年です。そういう人間が社長を務める会社ですので、ぜひ気軽に声をかけていただければと思います。

 前川:

 日本の力のある科学者のみなさんが、安心して日本で研究できる環境を作るお手伝いをして、「この分野では日本が一番」といわれるような分野が数多く出てきたらと期待しています。


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