貸出債権市場の活性化へ、地域金融機関をつなぐ「信用リスク取引プラットフォーム」(略称「CRMP」)を創設。Salesforceを活用しセキュアかつスピーディーに市場を立ち上げ

金融機関では、金利、為替に次ぐ新たなリスクヘッジ手段として、保有する貸出資産のポートフォリオを適切に調整したいというニーズが高まっている。しかし、地域金融機関にはそのための取引相手を探し、情報をやり取りできる十分なノウハウ・仕組みがなく、円滑な債権譲渡やシンジケートローンの組成が困難だった。東京金融取引所はこの課題に対応すべく、地域金融機関などが能動的に取引案件を打診・組成できるCRMPの構築を決断。開発パートナーには金融業界の知見が豊富なJSOLを選定し、システム基盤に「Salesforce Experience Cloud」を採用した。地域金融機関が低コストかつ安心して利用できる「場」を構築し、日本の貸出債権市場の流動性向上に向け、新たな一手を打った。

キーワード

業務

業種

課題・解決・効果

課題

  • 地域金融機関には貸出資産の入れ替えやシンジケートローン組成のニーズがあるものの、取引相手を探すネットワークやシステムが不足していた

  • 従来の貸出債権取引は電話やFAXなどのアナログな手段が中心で、業務の効率性に課題があった

  • システム投資余力が限られる地域金融機関にとって、高額なオンプレミス型システムの導入はハードルが高く、安価な費用で利用できるサービスが必要だった

解決

  • 「Salesforce Experience Cloud」を採用し、金融機関同士が貸出債権の譲渡やシンジケートローン組成の相手先を探索・打診できるクラウド基盤を構築

  • 従来のアナログな手段に代わり、案件情報の共有や相手先とのやり取りをWeb上で行える仕組みを整備し、取引プロセスのデジタル化と効率化を実現。システムの個別導入ではなく、サービスとして提供することで、地域金融機関が参加しやすい仕組みを整えた

導入効果

  • 約1年半の開発期間を経て、2025年4月にサービスを予定通りローンチ

  • 横浜銀行、静岡銀行、福岡銀行など有力な地域金融機関9行(2026年4月時点)が参加

  • 地域金融機関から能動的に債権譲渡やシンジケートローンを打診することが可能となり、新たなコミュニケーションの「場」が創出された

株主貢献の一環で、金利・為替に次ぐ「信用リスク」の調整市場を

 金融デリバティブの総合取引所である東京金融取引所(以下、TFX)は、1989年、国内外の銀行をはじめとする主要金融機関の出資により会員制組織として設立された。以来、銀行を中心とする金融機関に対して、金利リスクを調整する手段として金利先物などの市場を提供してきた。2004年4月には株式会社に転換し、近年は外国為替証拠金取引「くりっく365」や株価指数証拠金取引「くりっく株365」など個人投資家向けの商品ラインアップも拡充している。

 一方で、2000年代以降の長引く低金利環境下で金利商品に対するニーズが変化する中、同社は新たな存在意義を模索してきたという。代表取締役専務の山下 伸一 氏は「当社の主な株主は銀行です。株主への貢献という観点で言うと、金利が動かなかったために、金利ヘッジ商品で十分にお役に立てない状況が続いていました」と振り返る。そうした課題意識の下で立ち上がったのが、貸出債権の売買や文書共有をオンラインで完結できる「信用リスク取引プラットフォーム」(CRMP)プロジェクトだ。

「銀行が抱える主要リスクの一つである『信用リスク』の調整、すなわち貸出資産のポートフォリオ調整をお手伝いするために、CRMPを開発することにしました。平時から安心して債権を売買できる『場』を作ることは、金融インフラとしての社会的な意義があると考えたのです」(山下氏)

 特にこの仕組みを必要としていたのは地域金融機関だ。金融機関間のシンジケートローン組成や貸出債権譲渡取引はメガバンクが主導する例が圧倒的に多く、地域金融機関は受け身になりがちだ。自ら取引案件を組成して参加者を広く募りたくても、そのためのネットワークやシステムを持っていなかった。

 こうした背景から、TFXはCRMPの開発を決断。従来の取引所業務とは異なり、CRMPは貸出債権そのものを扱うため、運営主体として子会社「株式会社信用リスク管理基盤」を設立し、2025年4月にサービスを開始した。

左)株式会社東京金融取引所 代表取締役専務(兼 株式会社信用リスク管理基盤 代表取締役社長) 山下 伸一 氏
中)株式会社東京金融取引所 新規事業開発室 調査役(兼 株式会社信用リスク管理基盤) 井内 真也 氏
右)株式会社東京金融取引所 新規事業開発室 調査役(兼 株式会社信用リスク管理基盤) 十川 明徳 氏

「地域金融機関目線」を共有できるパートナー、JSOLへの信頼とSalesforceの親和性

 CRMPは、さまざまな金融機関が参加し、機密性の高い情報をやり取りするシステムだ。新規事業開発室 調査役の井内 真也 氏は「堅牢なセキュリティーはもちろんのこと、将来の参加者拡大に耐え得る拡張性が求められます。同時に、コスト制約のある地域金融機関が参加しやすい料金体系を実現するためには、初期投資を抑えたスモールスタートが可能な構成である必要がありました」と説明する。

 これらの要件を満たすシステム基盤として採用されたのが、「Salesforce Experience Cloud」を中心としたクラウドネイティブなアーキテクチャだ。「オンプレミスでリソースを抱え込むのではなく、クラウドネイティブなシステムでスケーラビリティーを確保する方針を採りました。また、Salesforceを導入している地域金融機関も多く、金融業界で求められるシステムの信頼性を満たしていることをユーザーに理解してもらいやすい点や、想定ユーザーにとってUIの親和性が高い点にも優位性を感じました」(井内氏)

 開発パートナーにはJSOLが選定された。金融業界における深い知見と、地域金融機関への浸透度が決め手だった。山下氏は「以前検討していた外資系パッケージは多機能ですが高コストで、地域金融機関のニーズとは乖離がありました。一方、JSOLからの提案は、我々が目指す『地域金融機関目線』のサービス像と非常によくマッチしていました。銀行の実務を深く理解している安心感に加え、多くの地域金融機関と既に取引があるという『ユーザーからの信頼』も大きな選定理由でした」と語る。

 TFXとJSOLは企画段階から連携してサービスを練り上げた。「地域金融機関へのヒアリングを実施するにあたり、JSOLにはCRMPのモックアップを作成してもらいました。ポジティブな反応を現場から得られ、JSOLを選んで間違いなかったと感じました」(山下氏)

 また、同プロジェクトは規制当局との折衝という高いハードルも乗り越える必要があった。当局者との折衝を担当した新規事業開発室 調査役の十川 明徳 氏は、規制対応の側面でもJSOLの存在が心強かったと話す。「取引所が貸出債権取引に関するビジネスを行うことは前例がない」との指摘を当局から伝えられていました。しかし、地域金融機関への貢献につながるという公益性を訴えるとともに、JSOLという地域金融機関への支援実績が豊富なベンダーと組んでシステム構築すると説明したこともあって、最終的に『面白い試みだ』と当局の理解を得ることができました。

約1年半で予定通りローンチ、トラブルのない開発プロセス

 CRMPは金融機関の実務ニーズに応え、掲示板や文書共有、取引・入出金管理、電子契約(外部サービスと連携)といった機能を実装し、貸出債権取引やシンジケートローンの組成と、それらに関するタスク管理をオンラインで実行できる仕組みを整えている。

 2024年の本開発開始から約1年半でローンチに至ったが、開発プロセスは極めて順調に進んだ。井内氏は「金融サービスのシステム開発で、これほどトラブルなく予定通りに進むケースは稀です。JSOLはプロジェクト全体を俯瞰し、電子契約の外部サービスとの連携に関する仕様調整などで部分的にスケジュールの組み換えや一部要件の追加が発生した際も、的確なリカバリー策を提示してくれました」と評価する。さらに、ローンチ直後のSalesforceの基盤移行への対応や検索機能の改善など、運用フェーズに入ってからのサポートも迅速だったという。

 2026年4月現在、横浜銀行、静岡銀行、福岡銀行、佐賀銀行、名古屋銀行、高知銀行など、計9行がCRMPに参加している。「参加いただいている地域金融機関は、信用リスク管理に強い意識を持つ銀行やDXに前向きな銀行が多いです」と山下氏は手応えを語る。

 これまでの貸出債権取引は情報の非対称性が強く、特定の相手との取引に限定されがちだった。CRMPの稼働により、売り手と買い手がフラットにつながるデジタル空間が生まれ、市場の透明性と効率性が向上する。「例えば、ストラクチャードファイナンスに強みを持つ銀行が取引案件を組成し、リスク管理ニーズを持つ別の銀行がそれに参加する。これまで接点がなかった銀行同士がCRMPを通じてつながることで、新たなビジネス機会が生まれます」(山下氏)

金融機関をつなぐハブとして、JSOLと共に市場を育てる

 今後の展望について山下氏は「参加者を増やすことが最優先です。将来的には証券会社や生損保、サービサー(債権回収会社)など多様なプレイヤーに参加いただき、信託受益権など取扱商品の拡充も検討していきます」と意欲を見せる。これらは関連法令や業法上の規制もあり一足飛びにはいかないが、段階的に市場を育てていく計画だ。

 また、TFXではコミュニティー形成にも力を入れている。参加行のリスク管理部門同士の意見交換会などを開催し、横のつながりを強化している。「CRMPは、金融機関の皆さまに使っていただいて初めて価値が生まれるプラットフォームです。金融機関同士の対話や知見がCRMPに還流し、さらに価値を高めていく──JSOLには、その循環を支える役割を期待しています。単なるベンダーと発注者の関係を超えて、このプラットフォームが日本の金融市場に欠かせないインフラとなるよう、共に育てていきたいと考えています」と山下氏は力を込める。

 地方経済の縮小など、地域金融機関を取り巻く環境は厳しさを増している。しかし、CRMPという新たなプラットフォームとそのコミュニティーは、日本の金融市場に新たな連携の可能性を広げている。

左から、JSOL 菊地 武夫、真鍋 慶崇、平野 大輔、株式会社東京金融取引所 山下 伸一 氏、十川 明徳 氏、井内 真也 氏


CRMPサービス紹介


企業情報

株式会社東京金融取引所様のロゴ

会社名

株式会社東京金融取引所

所在地

〒100-0005 東京都千代田区丸の内一丁目8番2号 鉄鋼ビルディング

設立

1989年4月(株式会社信用リスク管理基盤は2024年6月設立)

事業内容

金融商品取引所として、金利先物、FX(くりっく365)、株価指数(くりっく株365)などの市場を開設・運営。2024年に子会社として「株式会社信用リスク管理基盤」を設立し、翌2025年、「信用リスク取引プラットフォーム」(CRMP)の提供を開始

WEBサイト

(2026年04月現在)


  • ※

    本ページ上に記載または参照される製品、サービスの名称などは、それぞれ所有者の商標または登録商標です。

  • ※

    当コンテンツは掲載した時点の情報であり、閲覧される時点では変更されている可能性があります。また、当社は明示的または暗示的を問わず、本コンテンツにいかなる保証も与えるものではありません。

リーフレットダウンロード