番組制作に伴う複雑な経費精算の効率化や働き方改革への貢献、グループ会社のガバナンス強化へ。ERP「Biz∫」にAI-OCRやBIツールなどを組み合わせた会計システムを構築

認定放送持株会社であるTBSホールディングスを中核として、ラジオ/テレビなどの地上波や衛星などの各種放送事業、インターネット配信やイベント主催など、さまざまな事業を展開しているTBSグループ。総合メディア企業として「コンテンツを通して社会に貢献すること」を目指し、さらなる飛躍に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)や働き方改革にも精力的に取り組んできた。
その一環として2017年に着手したのが、グループ全体にまたがる会計システムの刷新である。そして、放送局特有の複雑な承認フローなどに対応できるものとして選ばれたのが、NTTデータ・ビズインテグラルのERP「Biz∫」と、その構築に長けたJSOLだった。

課題・解決・効果

課題

  • 紙の伝票が前提であるため、経費精算時には番組スタッフが帰社する必要があった
    (本来、番組制作に費やしたい時間が経費精算に割かれる状況があった)

  • 放送局特有の複雑さにより、経費精算の承認ルートが500を超えていた

  • グループ全体での利用規模を踏まえると、ユーザー数や伝票数の変動によりコストが変わるライセンス課金体系からは脱却したかった

解決

  • グループ会計に強いERP「Biz∫」、ワークフローの「intra-mart」、「さくっと経費(JSOL経費精算テンプレート)」に、AI-OCR、BIツール、AWSなどを組み合わせた会計システムを構築

導入効果

  • 証憑の電子化、電子承認ワークフローによって、いつでもどこでも経費精算、承認が可能な働き方が実現

  • AI-OCRにより領収書をスマホで撮影するだけで伝票に必要な情報を自動入力できることにより、現場スタッフの負担を軽減

  • BIツールで、番組ごとの損益分析、予実管理が簡単に

  • CPU課金、サーバー課金のライセンスで、多くのユーザーが利用可能に

  • 放送局へのソリューション導入経験を持つJSOLのプロジェクトマネジメントにより、ほぼ計画通りにシステム構築を完遂

株式会社TBSホールディングス様導入事例:インタビュー動画

インタビュー動画(3:24)

システム概要図

システム概要図

DX、働き方改革に取り組むために、会計システムの刷新へ

 TBSグループがDXや働き方改革に取り組むにあたり、課題として見えてきたのが「会計業務の非効率さ」だった。同社が約20年前に構築した会計システムは、インターネットやクラウドを活用した現代的なアーキテクチャーでなく、社外からのアクセスができなかった。またハードを含むさまざまな保守期間の終了も迫っていた。
 TBSホールディングス、TBSテレビの財務戦略局 経理部 部次長の増田一成氏は「従来の会計システムは紙が前提であり、申請者が印刷したものにはんこを押し、上長の押印を経て経理に届くプロセスになっていました。そのため経費精算時には外出先から会社に戻り精算業務をする必要がありました」と課題を挙げた。
 以前はラジオやテレビの番組制作を担当していたというTBSテレビのICT局 システム開発部 部次長の加藤克行氏も「私も最盛期は年間250日くらい社外に出張していたことがありました。このような状態だとほとんど会社にいることがなく、経費精算を思うようにできませんでした。そのため、『精算のためだけに出社する無駄はなくしてほしい』という声は、自分以外の多数の現場スタッフから挙がっていました」と説明する。

左)株式会社TBSテレビ ICT局 システム開発部 部次長 加藤 克行氏
右)株式会社TBSホールディングス 株式会社TBSテレビ 財務戦略局 経理部 部次長 増田 一成氏

放送局特有の課題も。経費承認ルートだけでも500にも及ぶ

 会計システム刷新は、テレビ局特有の事情もあり、簡単ではなかった。「テレビ局の経費はとにかく種類が多いのです。領収書には、ロケ先で必要になった小物や弁当のような少額のものも多く、1日あたり2000件ほどに達していました」と増田氏はテレビ局ならではの悩みを説明する。
 さらに経費精算の承認ルートの多さも大きな悩みだった。番組ごとに承認ルートが異なるため、一人のアナウンサーがタクシーに乗る場合でも、テレビ出演時とラジオ出演時では申請先が違ってくる。このような事情から承認ルートは500パターンを超えていた。
 さらに30社を上回るTBSグループ全体のガバナンス改善も視野に入れていた。
 「各社の動きを、TBSホールディングスですぐに把握したいと考えていました。万が一問題が生じた場合に、グループ会社が異なるERPシステムを利用していると、調査に時間を要する可能性があります。同じERPシステムに統一していれば、タイムリーに数字を確認し、問題点を洗い出すことができます」(増田氏)
 放送用システムの多くは365日24時間、1秒たりとも欠落やシステムダウンが許されない。そのため重要なシステムだけでなく、従来の会計システムもオンプレミスで構築していたが、新システムではユーザーの利便性を考慮し、どこからでもアクセスでき、かつ将来の拡張性や保守性にも優れるクラウド移行も視野に入れた検討を進めた。
 ライセンスリスクの低減も大きな課題となっていた。というのも、放送という特殊な業界の会計システムはユーザー数や伝票数に応じた料金体系との相性が悪く、今後の事業拡大やユーザー数の増加によりコストがかさむことが予想される。また、長期にわたって利用する間にライセンス契約の内容(規約)が変わることにより、予期しない追加費用が請求されるということもある。
 「会計システムは一度構築したら10年、20年と長くグループ全体で利用するものなので、ライセンスリスクを最小限にするために、サーバー課金で国産のソリューションにしたいと、かなり早い段階から考えていました」(加藤氏)

Biz∫とAI-OCR、BIツール、AWSの組み合わせをJSOLが提案

 今回のプロジェクトは、2018年末までにRFPを用意し、複数のSIerに声を掛けてコンペが行われた。このうちの1社がJSOLだった。
 しかし、「承認ルートが500を超える」「他番組の予算や実績は閲覧不可にしたい」といったテレビ局特有の難しさがわかると、コンペの参加者は徐々に手を引いていった。「そのような中でも最後まで『対応できます』と答えてくださったのが、JSOLでした」と加藤氏は振り返る。
 JSOLの提案は、NTTデータ・ビズインテグラルのERP「Biz∫」を基軸に据え、電子承認に用いるワークフロー「intra-mart」、intra-martを基盤とする「さくっと経費(JSOL経費精算テンプレート)」に、経理業務特化型AI-OCR「領収書Robota」、BIツール「DaTaStudio@WEB」などを組み合わせたものだった。インフラとしては、クラウドのAmazon Web Services(AWS)を提案した。料金体系は「Biz∫」がユーザー課金、intra-mart、さくっと経費、DaTaStudio@WEBがサーバー課金である。
 またJSOLは、他のテレビ放送局や出版社、製造業などへBiz∫を構築した実績を持っていた。JSOLが保有する放送業界に関する知見により、RFP内容に的確に対応する提案が実施できた。
「JSOLは、放送事業に特有の損益管理や経費承認プロセスに対して知見を持っていたこともあり、提案のレベルが高いと感じました。そして膨大な承認ルートにも対応できそうな点が印象的でした」(増田氏)

 だが構築作業は困難を極めた。旧来の紙ベースのやり方は、曖昧な部分を包含したままでも運用を柔軟に変更することで通用していたが、電子化するためにはそういった不明点を残すことは許されず、すべての工程を明確にする必要があった。RFP作成時にはまとめきれなかったり把握しきれていなかったさまざまな特殊な運用も明らかになり、JSOLがプロトタイプを作っては課題を洗い出し、随時修正を加えていく作業を繰り返した。
 加藤氏は「開発作業の進行中に参加したJSOL社主催のセミナーで、JSOLの経営者の方から『JSOLの最大の強みは、一度受けた仕事は最後まで諦めずに必ずやり通すことです。信頼して任せてください』というご発言がありましたが、振り返ってみると本当にその言葉の通りだったと感じています。カットオーバーに向けてのギリギリの調整や修正、カットオーバー後の迅速な不具合対応など、その時々のJSOLの対応力や忍耐力には本当に感謝しています」と高く評価している。
 その過程で感じたのは、JSOLとNTTデータ・ビズインテグラルとの強いパイプだった。課題が発生した際はBiz∫の開発担当者と協力して対処することもあり、それが迅速な問題解決に繋がった事例も多かった。

会計システムに向かう時間と手間を、本来の番組制作に

 そして2020年11月、新しい会計システムが稼働した。新システムでは領収書や請求書などの証憑や承認ワークフローがすべて電子化された。
 「以前は、領収書を見て手入力する作業が著しく多かったので、今回はAI-OCRを使って番組制作スタッフが手入力する項目を減らしました。また申請が電子化し、ペーパーレスになったのも大きな違いです」(増田氏)
 「新システムでは、経費精算の作業をするためだけに出社する必要はなくなりました。ロケ先であっても、スマートフォンで領収書の写真を撮影し、アップロードをしてタイムスタンプを押せば、必要な情報があらかじめ入力されます。私も今は番組制作の現場を離れてしまいましたが、自分が番組作りに関わっていた時期にこのツールが欲しかったと思いますね(笑)」(加藤氏)
 BIツールは番組や部門ごとの損益を見るときや、仕訳の確認などに活用している。損益を見る機能は以前の会計システムにも存在していたが、ライセンスの問題から閲覧できるスタッフが限られていた。しかし、新しい会計システムではライセンスの問題がなくなり、必要な人には全員に見せられるようになった。さらに、他番組の予算や実績などは見られないように設定するなど、細かいアクセス権も制御できる。

 2021年現在、当初予定していたグループ主要企業に加え、新たに再編し設立されたグループにも新会計システムは導入されている。今後、さらに導入範囲を広げていく予定だ。
 「プロジェクトの進行中に、当初は予定していなかったグループ企業の合併や買収などもあったが、そういった会社にもBiz∫を導入することができました。新しい会社やユーザーなどの仲間にも同じ会計システムを使ってもらえるよう柔軟に対応できる基盤を整えられたことは、長い目で見たとき大きなアドバンテージだと思います」と加藤氏は今回のプロジェクトを振り返った。

左から、JSOL 渡辺 雅之、住田 貴敏、株式会社TBSホールディングス 株式会社TBSテレビ 増田 一成氏、株式会社TBSテレビ 加藤 克行氏

企業情報

TBS

会社名

株式会社TBSホールディングス

本社所在地

〒107-8006 東京都港区赤坂5丁目3番6号

設立

1951年5月10日(創立登記5月17日)

事業内容

認定放送持株会社 傘下子会社およびグループの経営管理、不動産事業

WEBサイト

(2021年10月現在)


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