製品の実物を3次元モデル化するSimpleware Software™。
ミクロな構造を分析、シミュレーションを行い、ものづくりや医療の品質向上に

福沢諭吉が1858年に開塾した蘭学塾を起源とし、「独立」と「実学」を理念に掲げながら日本の教育界をリードしてきた慶應義塾大学。理工学部で「確率的なシミュレーション法の開発」に取り組んでいる高野直樹氏が活用しているのが「Simpleware Software™」だ。製造や医療で用いる製品の実物を3次元モデル化し、品質や強度などを分析、シミュレーションに活用している。

課題・解決・効果

課題

  • 3Dプリンターのパラメーターによって異なってくる製品の強度。その違いを生む要因を分析したい

  • マイクロCTやMRIの画像を、3次元モデルに構築し、ものづくりや医工連携に役立てたい

解決

  • 製品の実物を3次元モデル化するSimpleware Softwareの活用

導入効果

  • マイクロCTやMRIの撮像を、Simpleware Softwareで3次元モデル化。コンピューター上で分析、シミュレーションへの応用が容易に

  • JSOLが提案したスクリプトの利用で、何千カ所もの断面計測の自動化が可能に

不確かさのシミュレーションで、製造や医療を変えていく

 「計算力学」を研究する慶應義塾大学 理工学部 機械工学科教授の高野直樹氏の専門とする分野のひとつが「不確かさのシミュレーション法の開発と、その妥当性確認の研究」である。その研究は、3Dプリンターを活用した積層造形や複合材料の構造設計などをはじめとする製造分野、さらに医療分野(医工連携)では一人ひとり異なる生体組織の解析やバイオメカニクスなどに役立つことが期待される。
 高野氏が研究している「不確かさ」とはuncertainty(不確実性)とも呼ばれるものだ。ものづくりの分野では、設計開発段階での試作品を3Dプリンターで造形するケースも増えてきている。金型を使うよりも短期間で安価に効率よく作れるためだ。しかしある部品を、同じ3D CADデータを使ったとしても、パラメーターの設定の違いなどによって品質や強度にバラツキが発生してしまう。画一的に作られているように見える工業製品でも、実は一つひとつに差異が生じるのである。
 そこで高野氏は、3Dプリンターなどで製造された「実物」をマイクロCTやMRIなどを用いて画像データを撮影し、コンピューター上で3次元モデルとして再現し、それらのバラツキ、不確かさをシミュレーションしている。そして、強度などに影響する要因などを分析し、繊維強化プラスチックや金属材料などといった工業用の素材や、歯や骨を対象としたインプラントなどのバイオメカニクスなどの品質向上に役立てようとしている。

慶應義塾大学教授
理工学部機械工学科 博士(工学)
高野 直樹 氏

CTやMRIによる実物撮像データを3次元モデルに変換する
「Simpleware Software」

 3次元モデルを作る目的として、高野氏は「電子顕微鏡と違ってCTやMRIは3次元を扱えることが強みですが、得られる画像は2次元、いわば輪切りの断層画像です。しかし対象を2次元で把握するのと3次元で把握するのとではまったく違います」と説明する。例えば、複合材料や多孔質材料といったミクロ情報は、3次元で捉えなければ実像を把握することが難しい。内部に穴(ボイド)が空いていたような場合、その穴の直径は断層画像の切り方によって変わるので、把握しにくくなるからだ。
 この問題を解決するための3次元モデル作成に用いているのが、米国Synopsys社が開発したイメージデータプロセッシングソフトウエア「Simpleware Software」である。これを用いれば、CTやMRIで撮像した断層データからセグメンテーションやフィルター処理を行い、3次元モデルを作れる。形状の構造、長さや角度、混合物の体積、空隙率の測定なども可能となる。そして、このソフトウエアの正規代理店として販売、サポートなどを行っているのがJSOLだった。

シミュレーションの信頼性を確保するため不確かさを追求

 高野氏が「不確かさ」を扱い始めたのは、2000年代にさかのぼる。当時は製造業界において「シミュレーションの信頼性をどう担保するか」という標準手順を模索していた時代だった。その信頼性を高めるために求められたのが、「不確かさ」の研究だった。実物を直接扱うのではなく、コンピューター上の3次元モデルでシミュレーションするには、不確かさを含めて分析することが求められたのである。
 そこで2019年ごろ、高野氏はSimpleware Softwareの活用を始めた。「当時、3Dプリンターを使っていても、意外に造形不良が生じていることに驚きました。設計図であるCADデータを複数の会社に送って3Dプリンターで造形してもらったのですが、ものの見事に各社の作り方が違っていたのです。そこで出来上がりにどのような差があるか、その要因は何かに興味が湧き、計測してみようとSimpleware Softwareを利用してみたのです。モデリングや各部の寸法などの計測もできるSimpleware Softwareは、工業分野でも非常に優れたソフトだと思います」

医療器具の効果や疲労寿命の分析も視野に

 その後、高野氏は製造分野、医療分野でSimpleware Softwareの利用を広げていった。慶應義塾大学では、異なる学部と連携しながらの研究も多く、理工学部に属する高野氏が医学部とともに進める医工連携の研究も少なくない。そして医療は、一人ひとりが異なる人体を対象にするだけに、カスタムメイドの医療器具のニーズが高く、3Dプリンターへの期待も大きい。そこでもSimpleware Softwareが適している点があると高野氏は見ている。
 第一に、分野が異なると専門用語が異なるケースがある。例えば、医療分野にも人体を3次元モデルとして扱うソフトウエアがあるが、工学分野では3次元の方向を表すのにX-Y-Z軸を用いるのに対し、医療分野では骨の形状を基準とした特有の名称も使われる。
 「用語が違っていると、分野が異なる人と話すときに意思疎通に混乱が生じて、ミスのもとになりかねません。医工連携で活用するなら、工学分野でなじみのあるX-Y-Z軸が使えるSimpleware Softwareが使いやすいと考えました」
 第二に、複雑な構造を持つ人体を3次元モデルにする際の精度の高さだ。「入れ歯」のような曲線ばかりのものをモデリングする際、ボクセルベースだとカーブの部分がギザギザになってしまい、正確な寸法が計測できないこともあるが、なだらかな曲線を描けるSimpleware Softwareを用いれば、微妙なカーブも細かい計測が可能となる。
 第三に、他の分析ツールとの連携だ。歯科矯正に用いるアライナーという器具では、一人ひとりの口、歯の形状に合わせて作るため各部分の厚さに差異が生じる。そこで、人間の口に装着したときに「どの部分にどのような力が作用して、矯正が進むか」「何回の着脱に耐えうるか(疲労寿命)」を事前にシミュレーションしておきたい。高野氏が検討しているのが、Simpleware Softwareに、非線形のものに対する衝撃・構造解析に強いソフトウエア「Ansys LS-DYNA」を連携させる活用だ。これもJSOLの製品だが、その連携によってCTによる撮像からシミュレーションまで一気通貫に実行できるようになる。

JSOLの適切な活用支援により、効率的な計測も可能に

 Simpleware Softwareを利用するうえではJSOLの支援も効果的だった。そのひとつが膨大な測定画像の計測を効率化するためのスクリプトである。JSOLは、何千カ所も繰り返し計測してCSVに出力するスクリプトを用意した。
 「研究している学生が、パソコンの前に張り付いて何千カ所もクリックしながら計測していたら、膨大な時間がかかるだけでなく、精神的にも疲労してしまいます。しかし、JSOLが作ったスクリプトを使えば、操作は簡単。あとは計測が終わるのを待っていれば結果をCSVファイルで出力できますので、その時間を研究に費やせます」

ミクロの世界でしか見られない構造観察を日本企業の武器に

 不確かさのシミュレーションの研究に関して高野氏は「試行錯誤を繰り返す設計開発の現場では、おそらく失敗例が大量にあるはず。そういうものをシミュレーション上でデータベースにして見える化し、発生確率を含めて確率的に扱えば、知能データベース、ナレッジのデータベースも作れるはず」という展望を持っている。
 そして「材料やバイオメカニクスの分野では、CTを使わないと見えてこないミクロ構造にバラツキの原因があるケースに多く遭遇します。企業の設計、開発の現場でもSimpleware Softwareを使ったシミュレーションをルーティンワークとして使えるような方法を考案できれば、ミクロ構造の観察という武器が浸透していくのではないでしょうか」と、不確かさのシミュレーションの未来について高野氏は期待を口にした。

左から、JSOL 宮崎 美季、慶應義塾大学 高野 直樹 氏


慶應義塾大学 教授 理工学部機械工学科 博士(工学) 高野 直樹 氏

慶應義塾大学教授 理工学部機械工学科 博士(工学) 高野 直樹 氏

経歴
1988年04月 - 1994年03月 東京大学工学部精密機械工学科助手
1993年05月 - 1994年03月 ミシガン大学機械工学・応用力学科訪問研究員
1994年04月 - 1995年11月 大阪大学工学部生産加工工学科助手
1995年12月 - 2004年03月 大阪大学大学院工学研究科生産科学専攻助教授
2004年04月 - 2008年03月 立命館大学理工学部マイクロ機械システム工学科教授
2008年04月 - 継続中 慶應義塾大学理工学部機械工学科教授


お客さま情報

慶應義塾大学様

校名

慶應義塾大学

所在地

東京都港区三田二丁目15番45号

設立

1858年10月

事業内容

教育、研究

WEBサイト

(2022年05月現在)


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