(2025年12月現在)

従来の業務プロセスにイノベーションをもたらし、企業価値の向上に寄与するERP。JSOLでは、お客さまと共創しながら現場の潜在的な課題や業務の本質を深く洞察し、最適なソリューションを導き出すアプローチを大切にしています。今回は、信頼と専門性を重視するJSOLのコンサルタントとして、SAPで豊富な実績を積み上げ、JSOL独自のSAP向けテンプレート「J-Model」の開発に当初から携わってきたアプリケーションコンサルタントの後藤有子が、ERPをベースにした業務標準化、経理DXの最前線について解説します。

JSOL認定プロフェッショナル
アプリケーションコンサルタント
後藤 有子

自身の専門分野とプロフェッショナル職の活動について

ERP導入は、業務のあるべき姿を再定義する絶好の機会

 企業のビジネスを支える基幹システムとして利用されるERPの導入は、単なるシステム構築に留まらず、企業の業務や経営に深く関わる変革プロジェクトです。特に経理・財務領域においてERPは業務標準化の中心となり、経理のデジタル化、すなわち経理DXを推進するための強力な基盤となります。特にこの2、3年は、その傾向が高まってきたと感じています。

 一例としては、コロナ禍におけるペーパーレス化が挙げられます。以前は請求書や納品書などの紙の伝票や書類への押印といった手続きを必要とする企業が多かったのですが、コロナ禍を期にデジタル化が進み、紙を使わない運用へと様変わりしました。ERPもこのニーズに対応し、紙の書類が必須だった時代にはできなかった経理のリモートワークも可能としました。

 その他にもERPにはデジタル化に役立つ、多くの機能が追加されてきました。例えばERPのSAP S/4HANAでは、財務会計と管理会計を単一の勘定コード表で記録するユニバーサルジャーナルによる財管一致が可能となります。かつては財務会計と管理会計が別のシステムとなっていたため照合が必要とされていましたが、SAP S/4HANAを使えば自動的に一致するので、照合は不要になります。

 このような自動化は、経理処理の高速化にも役立っています。決算資料の作成に10営業日を要していた企業が、ERPを効果的に活用することでデータの自動集約とレポート出力によって5営業日に短縮されたケースもあります。
このように、経理担当者が従来手作業で行っていた定型業務を自動化、短縮化することで、より経営に貢献できる会計、経理業務へとシフトすることが可能となります。

 経理業務の高度化と効率化を同時に実現するERP導入は、単なるシステム刷新ではなく、業務の標準化やデジタル化を推進し、業務のあるべき姿を再定義する絶好の機会です。そのために私たちSAP会計コンサルタントは、業務とシステムの両面から最適解を導き出すことが使命と考えています。

 私が所属している「エンタープライズ&ソーシャルビジネス統括本部 ビジネストランスフォーメーション事業本部 エンタープライズビジネス第一事業部」では、SAP導入の提案、導入を推進しています。私は入社以来SAPを担当し、プログラム開発の作業者から新規導入の提案、プロジェクトを推進する旗振りまで、SAP導入に関する全ての工程を経験してきました。

 担当してきたお客さまの業界も、製薬業界や食品業界などを中心に多岐にわたっています。会計という業務は、業界が異なっていても基本的には大きな違いはありません。ただ業界によって注意すべき点は異なります。例えば、食品業界では取引先の数が膨大であるため、入金遅延への対応も必要となる一方、製薬業界では取引先は卸になることが多く、イレギュラーな事態はあまり起きません。このような業界ごとの違いを理解しておくこともERP導入には欠かせないことです。

現在の課題や注力している取り組みについて

SAP向けの独自テンプレートJ-Modelで、導入効率化と業務標準化を

 私が入社して間もない2000年代前半にスタートし、現在もなお発展を続けているプロジェクトに「J-Model」があります。J-Modelとは、JSOLが長年蓄積してきたSAP導入のノウハウをもとに開発した、SAP向けのJSOL独自のテンプレートモデルのことです。業種別のベストプラクティスやアドオン機能などを体系化しており、特定の業界が求めている独自機能で、SAPが標準では持っていない機能を搭載しています。そのため、その業界における業務の効率化や導入期間の短縮化にも効果的です。

 業務の標準化を推進する上でも、J-Modelは非常に有用です。J-Modelには要件定義から設計、テスト、移行までを体系的に進めるための方法論と、豊富なドキュメントのひな型を提供しています。そこでお客さまと要件について相談する際、業務とシステムの最適な接点を見いだすための「導入の型」としてもJ-Modelを活用しています。特に、Fit to Standardを前提とした議論も進めやすくなります。

 このJ-Model開発のきっかけは、JSOLが製薬業界のお客さまのERP導入プロジェクトを数多く手掛けていたことにあります。いずれの会社でも「類似するアドオンを開発している」という状況から、「汎用的なプログラムや部品を開発すれば、それぞれの会社で利用できるのではないか」と発想したのです。

 その後も製薬業界のニーズを反映させるために機能の追加やSAPの新技術に対応、さらに別業界向けのテンプレートを開発するなど、J-Modelは発展を続けてきました。SAPの標準機能にはないものの、「日本の◯◯業界では要望が多い機能」をJ-Modelに組み込むこともあれば、製薬業界向けの「J-Model Pharma」や、消費財・食品業界向けの「J-Model CP」など、業界特有の業務要件に対応したテンプレートを用意し、ラインアップを広げることで機能を拡充してきました。

 また、コロナ禍で需要の高まったペーパーレス対応や伝票の承認ワークフローなども、J-Modelというテンプレートがあったからこそ、多くのお客さまにスピーディーに導入できたと言えます。

 私は開発当初からJ-Modelが成長していく過程を見てきているので、個人的にも強い思い入れがあります。今でもお客さまとコミュニケーションする中で、「この機能は他のお客さまでも役立つだろうから、J-Modelへの追加を検討してみよう」という考えが浮かぶこともあります。

 私がERP導入で重視しているのは、業務とシステムの両面をバランスよく捉えることです。特に会計領域では、制度要件や内部統制、経営管理の視点、SAPの機能や構造を結びつけて、最適な解決策を導き出す力に自信を持っています。

 また、25年にわたるSAP導入経験を通じて、さまざまな業種・業態のお客さまと向き合ってきたことは大きな財産となっています。その中で私が心がけているのは「お客さまの期待を超える価値を提供すること」です。どんなに複雑な課題でも、「課題の本質は何か」「どこから手をつけるべきか」「この提案は本当にお客さまのためになっているか」を見極め、着実に前進させる力が身についていると感じています。

 重要なのは、お客さまの課題を言葉通りに受け取るのではなく、その背景や改善の目的を理解すること。こうした課題の本質を理解、確認しながら、目指すべき新しい業務の姿をお客さまと一緒に考えていきます。

 その姿勢が評価され、ERP導入の前段階であるITグランドデザイン策定から関与してほしいと依頼されることもあります。通常は、ITシステム全体の目標であるITグランドデザインを決めてからERP導入に着手することになるわけですが、これはコンサルタントに求められる役割です。しかしシステムを理解していない者だけでITグランドデザインを描いてしまうと、実現不可能な絵を描いてしまうリスクがあります。そこで実現性の高いITグランドデザインを策定するために、業務とシステムの両面に精通している私にご相談いただく機会が増えています。

学生時代に取り組んだ内容、興味のあった領域について

アルバイトや海外滞在を通して培った「人との対話力」

 今でこそIT領域を専門にしていますが、学生時代には工学部の機能分子工学科に在籍し、化学や物理を基盤とした分子研究に取り組んでいました。この領域を選んだ根底には、「目に見えないものの仕組みが気になる」という強い探求心があります。

 昔から「この化粧水はなぜ肌に良いのか」「どういう素材でできているのか」といった点が気になる性分でした。そのため、分子がどのように結びつくのか、材料の構造がどのように成り立っているのかを探求する学びは非常におもしろく、研究室に所属してからは実験ばかり繰り返していました。

 学業を通して培った論理的思考や構造的なアプローチ、そして実験結果を積み重ねることの重要性は、今の仕事にも通じる部分が多いと感じています。

 学業以外の取り組みで印象深いものとしては、アルバイトと海外での滞在経験の二つが挙げられます。飲食店や販売業など、さまざまなアルバイト先でのコミュニケーションを通じて、責任感や対応力を持つことの重要性を学べたことは得難い経験でした。

JSOL認定プロフェッショナル アプリケーションコンサルタント 後藤 有子

 また、長期休暇のたびにアメリカやヨーロッパへ旅行していたのですが、異なる文化や価値観に触れることで視野が大きく広がったと感じています。

 こうした取り組みを通して培われた「人と向き合う力」と「未知の環境に飛び込む姿勢」は、さまざまな立場の方々との対話が求められる現在の業務を進める上で、大きな支えとなっています。

プロフェッショナルとして今後取り組んでいきたいこと

グループチャットや社内勉強会を通じて、若手の育成に尽力

 今後のERPは、企業の変革を支えるプラットフォームとしての役割がますます重要になると考えています。特にSAP S/4HANAのような次世代型ERPは、リアルタイム性や拡張性に優れており、経営判断のスピードと精度を高める基盤として期待されています。

 その上で鍵となるのが、新技術を活用した新しい業務プロセスの実装です。SAP自体もSAP BTP(Business Technology Platform)などで新機能を拡張しており、生成AI、RPAとの連携を積極的に図るなど、新技術を取り入れる姿勢に余念がありません。

 これらの拡張により、従来は人手に頼っていた業務の自動化、データ活用の高度化が進んでいくでしょう。私自身も現在、SAP BTPによるマスター自動登録や決算業務のモニタリング、入金照合、支払処理の自動化といった新しい業務プロセスの構築に取り組んでいます。

 入金と債権が合致しているかを確認する入金照合で問題が発見された場合、従来はどの明細が合っていないかを人の目でチェックしていました。こうした問題は、経理が忙しい月末、締めの時期に起こりやすいものです。それが自動でチェックされるとなると作業負担が大幅に軽減され、経理担当者も精神的なストレスから開放されます。

 このようにSAPの進化に触れてみると、定型的な業務のための「使われるERP」から経営に貢献して「価値を生み出すERP」へと、ERPそのものの位置づけが変化しているのを感じます。

 新技術の提案でも、業務とシステムをバランスよく理解してお客さまに伝えることが重要です。AIなどのテクノロジーに関する知識やノウハウは大切ですが、業務自体を知らなければいかなる技術も活用できません。一方、業務に詳しくても技術を知らないと、お客さまから「それを使えば、この問題を解決できるのか」と質問されたときに答えられません。ニーズをしっかりと受け止め、最適な答えを提案するためには、業務とシステムの両方を理解し、多くのプロジェクトで経験を積むことが大切なのです。

 現在、ERPは「導入して終わり」ではなく、「導入後にどう生かすか」が問われる時代となりつつあります。だからこそ、導入から運用・改善まで一貫して支援できる体制づくりが、今後のERP事業の発展には不可欠だと感じています。

 このように企業にとって重要な基幹システムであるERPを構築、提供し続けるためには、JSOL社内の人材育成も欠かせない視点と言えます。そのためには「経験を通じて学ぶ機会を与えること」が何より大切だと感じています。

 私自身も、プロジェクトの中で若手メンバーに、その立場より一つ上のレベルのタスクを担当させて、レビューやフォローを通じて成長を支援しています。お客さまの前でプレゼンテーションや提案などを実施する前には、資料や発表内容などを細かくレビューし、万全の態勢で本番に臨めるように指導しています。終了後にも必ず振り返りなどのフォローを実施し、幾多の経験をさせることで、誰もが目に見えて成長していくのを実感できます。このように、若手のスキルアップを支えながらプロジェクトを推進していきたいと考えています。

 また、社内ナレッジの共有にも力を入れています。その具体例の一つが、プロジェクト間にまたがるグループチャットの作成です。通常、チームごとにプロジェクトを進めるため、チームを超えた情報共有は起こりにくいもので、あるチームで課題が発生したとしても他のチームからは見えません。しかしグループチャットを活用すると、気軽に困りごとを相談しやすくなります。特に東京と大阪に拠点を持つJSOLでは有効であり、東京のチームの疑問に大阪の人が回答したり、その逆の連携もあります。そうして、単に解決策を教えるだけでなく、「自ら学び、考え、提案できる人材」を育てることが、ERP事業の持続的な成長にとって不可欠だと考えています。

 加えて、2025年10月からはSAP会計塾という社内勉強会を始めました。従来のレビューやグループチャットは、私が個人的にやってきた活動です。この勉強会はそれらの活動を事業本部の取り組みとして立ち上げたもので、SAP会計に携わるメンバーが参加して実務に直結するテーマをもとに知識を深め、チーム全体のスキルアップを目指す取り組みです。その一番の目的は、私たちの経験やノウハウ、知見を、次世代のJSOLを担う世代に継承すること。加えて法改正など、ERPを扱う上で欠かせない情報などを共有することも目的としています。

 ERP事業の一番の醍醐味は、「お客さまの業務そのものの変革に関われる」ことです。私自身はシステムにしか携わっていない人間ですが、この仕事に関わることによって多くの業界、企業に深く関われました。特定業界特有の知見だけでなく、個々の企業の経営や現場の業務を深く理解し、改革のための一歩を一緒に考え、形にしていくプロセスに大きなやりがいを感じています。

 ERP導入は多くの部門や関係者が関わるため、「人と人をつなぐ仕事」でもあると受け止めています。経理部門、IT部門、経営層、営業部門や製造部門まで、さまざまな立場の多くの方々と対話を重ねながら、共通のゴールに向かって進んでいく。その過程で信頼関係が築かれ、「ありがとう」「この仕組みで業務が変わった」という言葉をいただけたときはうれしく感じます。


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