構造解析受託サービスを利用して高機能な樹脂部品を開発

各種の機能性部品の軽量化やコスト低減を目的として、樹脂を使った機能部品が増えてきました。それとともに、様々な特性を有する樹脂の構造強度の解析ニーズが高まっています。樹脂成形品の製造、金型設計・製造および成形加工技術を開発している三光合成株式会社は、日本総研ソリューションズが衝撃・構造解析系CAE(※1)ソフト「LS-DYNA」を使って提供する解析受託サービスを活用し、開発期間の短縮や金型製作コストの効率化を実現しています。是近孝二・三光合成株式会社 オート内外装社副社長にCAE技術の活用の現状と有用性についてお話をうかがいました。

ベストミニマムな設計を実現

LS-DYNAによる解析受託サービスを利用した理由は、どのようなものですか。

三光合成株式会社 オート内外装社 副社長 是近 孝二氏

三光合成株式会社
オート内外装社
副社長
是近 孝二 氏

是近副社長:
当社の中でCAE業務の一環として、樹脂による機能部品の開発にともなう事前検討(シミュレーション)の重要性が高まってきていることがあります。

ご承知のとおり樹脂成形品は、その軽量性とコストの安さから、あらゆる分野で幅広く利用されています。当社でも、自動車のインストルメント・パネルやセンターコンソール、複写機のトナーカートリッジや機構部品、さらに住設機器やエアコン、家電製品などの部品を提供しています。

しかし、樹脂には引っ張り速度に応じて降伏応力が変化する「ひずみ速度依存性」や温度が低くなると割れやすくなるなどといった「温度依存性」、成形品では一方向には強く別方向には弱い「異方性」などといった特質があります。しかもそれらの特質は、線形方程式として単純に定式化できない「非線形性」を有しているのです。

このため樹脂の複雑な挙動を詳細に把握するのは困難であり、ユーザーの安全に密接に絡む部品では、生死に係わる問題となるために樹脂化に踏み切れない分野が多く残されています。

そこでCAEによる解析を利用すれば非線形性や異方性を考慮した事前検討が可能になり、開発や設計工程を合理的かつ効率的なものに改められます。CAEの活用でベストミニマムな設計を実現したいと考えました。

負荷に対する予測の困難さが思わぬコスト増につながったりしていたのですね。

是近副社長:
そうです。樹脂の機能部品を開発しようとしても材料のもつ非線形性のために予測が難しく、結果的にトライ・アンド・エラ-の繰り返しとなって、金型の試作費がかさんだり、開発期間が延びてしまうケースが少なくありませんでした。また強度的な安全率を大きめに見込まざるをえず、これも製作コストを押し上げる要因となっています。

実際、試作段階で大丈夫だと判断し、量産金型を作り、成形品を生み出してから試験や評価をすると、結局は使えない、ということが何度もありました。金型の改造、作り直しが何度も必要なケースが多く、トライ・アンド・エラ-では開発効率の改善には限界があったのです。

  • 1 CAE=Computer Aided Engineering。コンピューター技術を利用して製品の設計や製造について事前に解析、シミュレーションを行うこと。

エアバッグ用樹脂部品の開発に解析を活用

具体的には、どのような製品開発にシミュレーションを活用しているのでしょうか。

エアバッグリッドの展開シミュレーション

エアバッグリッドの展開シミュレーション

是近副社長:
実際社内で活用しているCAEに関しては構造解析だけでなく、樹脂流動など様々な分野への適用を試みています。そのうち構造系に関する代表的な事例のひとつとして、自動車のエアバッグシステムを構成する重要部品であるエアバッグリッドとリテーナーの展開時における挙動の問題が挙げられます。

自動車のエアバッグは、衝撃を感知するとエアバッグにガスが注入されると同時に、エアバッグを納めてあるリッド(外装カバー)が開き、リテーナー(保持器)がリッドの飛散を防ぎます。ガスを発生させるインフレーターは、低温、常温、高温でガス発生の活性度が異なり、インフレーター自体の出力特性も仕様値に対してプラスマイナス10%程度ばらつくと言われております。そのため樹脂のリッドやリテーナーに作用する負荷も使用条件によって大きく変わり、樹脂の各部位毎に発生する応力が大きく変動して予想外の亀裂が起きたり破断したりします。

エアバッグが開く際には、リッドやリテーナーは4~6ミリ秒という短時間で展開し、その展開加速度は1,500Gにも達します。そのため実験的にリッドやリテーナーに作用する荷重の時系列的な変化や、各部位に発生する応力を計測することは非常に困難です。また解析においても非線形方程式の解は、ある与えられた初期条件や境界条件の下での解に過ぎません。

したがってむしろ条件を何種類か設定して数値解析を行い、最適な条件を探っていくようなアプローチが必要となります。

シミュレーション結果の活用と次の段階の設計業務への取り組みはどのように進められているのでしょうか。

是近副社長:
部品の形状データと物性データを日本総研ソリューションズに提供して解析してもらっています。モデルの規模にもよりますが解析にはおよそ3週間かかります。解析の依頼と並行して新たな部品の設計が行われ、解析結果が出ると、それを基に工学的な判断を加えて部品の形状や材料の変更といった作業を行ないます。

さらにチャレンジングなプロジェクトとして試作レス、すなわちCAE(LS-DYNAの予測結果)のみを使って量産型の金型の製作を試みたことがあります。一部修正点はありましたが、成果は十分に実用に耐えうるものであり、満足しました。金型の試作には2,000万円程度はかかりますから、このコスト削減効果は大きい。今後はデータをさらに蓄積してシミュレーション結果の精度をさらに高めていきたいと思っています。

安全性に関する新しい課題に対する提案型部品を連携して生み出す

樹脂部品がさらなる高度機能を備えるために、シミュレーションをどう活用されますか。

是近副社長:
樹脂部品の開発は、めざましい技術革新を盛り込めなければ付加価値がつきにくいという難しい分野です。にもかかわらず、CAEのようなIT技術を駆使して提案しているケースは一部の大企業に限られています。たとえばアメリカの内装部品メーカーによるコックピットモジュールの提案では、必ずCAEのデータを提示しています。つまり、解析データを事前に揃えておくのは、競争力を確保するための重要な手段なのです。

そうしたメーカーと戦っていくためにも、日本総研ソリューションズのサービスを活用して自前のITリソースや要員が十分ではなくてもCAEの応用技術に関しては高いレベルを確保していこうと考えています。また日本総研ソリューションズは、わたしたちの事業についての理解が深く、パートナーとして信頼できる存在ですし、大いに期待もしています。

「樹脂製シリンダの圧縮特性解析」

「樹脂製シリンダの圧縮特性解析」
※シリンダ内のガスの影響を考慮した流体構造連成解析

機能性樹脂部品の次なるターゲットは、どのような分野ですか。

是近副社長:
自動車業界でいえば、下肢傷害への対応です。

シートベルトやエアバッグの技術が向上し、交通事故による死亡者数は大幅に減少していますが、一方で増えているのが、乗員の下肢傷害です。

これは、インストルメント・パネルの下側のエネルギー吸収構造がうまくできていないために起きる問題です。金属を使えばある程度の構造はできますが、車は重くなり、コストもかかります。また大腿部に入力する荷重を基準以下に抑えつつ変形量を一定以下にコントロールすることが難しい。

そこでわたしたちはある樹脂メーカーが大学などとともに開発したエネルギー吸収効果の高い新しい樹脂材料を使った部品を提案できないかと考えています。当然、その開発過程ではLS-DYNAのシミュレーションが大きな役割を果たしてくれると考えています。

三光合成様では、得意な樹脂加工技術と非線形散逸構造を組み合わせた“華飾技術”を開発されましたね。

モルフォ蝶の羽

是近副社長:
散逸構造と呼ばれる理論を基に三次元的な凹凸を作り、それをナノサイズでプラスチックに加工する技術を確立しました。ひとつとして同じものがない曲面を持った薄いプラスチックを重ね合わせていくと、光が複雑に反射(多層膜干渉)して構造色を発します。構造色とはモルフォ蝶の羽根の色ですね。散逸構造は非線形であり、いわゆる“ゆらぎ”を実現したものです。

当社では、光を分光することで構造色を発するこの技術を「華飾技術」と名付け、たとえば携帯電話のボディ、化粧用コンパクトなどへの実用化を進めています。モルフォ蝶の羽根の碧色のインストルメント・パネルが登場するかもしれません。

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多くのプロジェクトを抱える非常にお忙しい立場ながら、是近副社長はわたしたちの質問に終始身を乗り出すようにして熱く語ってくださいました。外装部品としてだけでなく、強度部品、機能部品など用途が広がっている樹脂部品の設計・製造だけでなく、“華飾技術”のような夢のあるテクノロジーに関しても「非線形」をキーワードとして果敢に取り組む三光合成様のメーカーとしての先進的なポリシーは、メーカーとのお付き合いを通じて「ものづくり」に貢献する日本総研ソリューションズとしてもたいへん参考になりました。

Customer Profile


三光合成株式会社 オート内外装社 副社長 是近 孝二氏

三光合成株式会社
オート内外装社
副社長
是近 孝二 氏
Koji Korechika


1951年生まれ。立命館大学理工学部卒業、三菱自動車に入社。設計技術者としてシートベルトなどの安全装置の開発に従事。欧米で現地のR&D事務所長、帰国後に欧州現地生産車のプロジェクトマネージャーなどを歴任。 2001年にオートリブ社(Autoliv)に入社、先行開発部長として新たな安全装置を多数開発。2006年、三光合成に入社して樹脂の機能性部品の商品開発を担っている。


企業情報

SANKO GOSEI

商号

三光合成株式会社

本社

富山県南砺市土生新1200番地
TEL 0763-52-1000
FAX 0763-52-1925

創業

昭和15年10月12日

設立

昭和19年9月18日

従業員数

単体:804人 連結:2,181人(2007年5月31日)

資本金

1,890.8百万円

事業内容

  1. 合成樹脂成形品の製造並びに販売

  2. 機械、電子部品の製造並びに組立加工

  3. 合成樹脂成形用金型の設計、製造並びに販売

  4. 工業製品用のデザイン、設計、試作並びに販売

  5. 工業用ロボット、各種機械器具の自動制御装置の設計、製造並びに販売

  6. 労働者派遣事業

  7. 前各号に附帯関連する一切の事業

ホームページ

(2008年8月取材)


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