(2019年12月現在)

2025年の崖が叫ばれている現在、旧態依然とした既存システムから脱却し、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が求められています。製造業においてDXを推進するには、「経営陣が定めた目標」と「製造現場の改善活動」の一致が必要です。JSOL認定プロフェッショナルで、コンサルティングとシステム開発にまたがってビジネスアナリストとして活動している山田政人が、利益創出に結びつけるためのビジネスのグランドデザインについて語ります。

JSOL認定プロフェッショナル
アプリケーションコンサルタント
山田 政人

自身の専門分野とビジネスアナリストの活動について

経営視点の「お金」と現場視点の「数」を紐づけて、ビジネス全体を俯瞰した改善へ

 
昨今のICTは目覚ましいほどの進化を見せており、日本企業もその技術を取り入れ活用することで成長してきました。ICTがさまざまな業務の現場に浸透している現在、人と機械、ICTが連携しながら、ビジネスが展開されていると言っても過言ではありません。ところが各現場にシステムが個別に導入された結果、それぞれの業務効率化、見える化は進んだものの、ビジネス全体を俯瞰して見ることが困難になってきているのも事実です。
 
製造業で例えれば、経営陣と製造現場の間のギャップが挙げられます。経営陣は会計データなどをもとにして利益創出という目標を設定します。生産現場では、その目標達成のために、「生産活動を増やす」「歩留まりを減らす」「設備の稼働率を高める」などのKPIを設定し、さまざまな改善に向けた取り組みを実行します。ところが、現場で行った取り組みが必ずしも、経営陣が望む利益創出につながっているとは限りません。
 
例えば、効率化により製造時間を短縮したとしても、そこで生まれた時間を有効活用できなければ、利益創出に寄与したことにならないからです。製造現場では経営陣が定めた目標に向けてアクションをしているはずなのに、実際には目標とアクションが断絶していることもあるのです。
 
この課題の解決には、ビジネス全体を俯瞰してとらえる視点が欠かせません。経営側は利益、つまり「お金」という視点で経営を進めますが、生産現場は量や時間という「数」で考えます。そこで必要なのは、お金と数を紐づけるアプローチになります。生産現場でどのような改善活動を行えば、どのような利益につながるかと紐づけて考えることで、利益に結び付く改善が達成できることになるのです。
 
しかし、本来の目標に向けて経営も現場も同じ目線で推進できるようにするには、その業務の専門技術を持った人間が、経営的な視点から現場の改善活動を改善に取り組むことが必要となります。
 
私がビジネスのメインターゲットとしている分野は、医薬、食品、組み立てなどの製造業です。そして私のミッションは、ビジネスアナリシスの技術を用いて、企業が望む要求を定義し、その実現に適しているソリューションを提示して、企業価値を高める変化を提供することです。企業価値を高めるために、生産現場の領域はもちろん、経営や会計などを含めたグランドデザインを作っています。具体的には、主にSAPの最新のソリューションであるS/4 HANAの導入を中心に、経営管理や業務自動化のソリューションと組み合わせて業務全体の効率化やビジネス戦略に活用できる仕組みを提供しています。
 
例えば、SAPの情報と生産現場の情報などさまざまな情報を結合して、企業体としてのビジネス活動の見える化をしています。そして価値向上のためのアクションをとるための仕組みをビジネスインテリジェンス(BI)で提供し、複数の部門にまたがったビジネスプロセスをBPMで統合し、ビジネス全体の改善へとつなげる仕事をしています。
 
私の仕事はコンサルティングとシステムの両面にまたがっているといえます。コンサルティングの領域では経営視点である「お金」と現場視点である「数」を結び付けることになります。システムの領域では、個別に導入された設備や品質管理といった製造現場のシステムのデータを集約して、本当に会計の数字に結びついているかを見ます。そして、経営陣と製造現場の合意につなげています。このような仕事は、純粋なコンサルタントでもなく、システム開発とも違いますが、システムが本当の意味でビジネ改善に役立つためには、必要な仕事です。

アナリストとしての視点、注力している取り組みについて

ビジネス戦略のためのICTを実現するには、各業務を有機的につなぐグランドデザインが必要

 
経営と現場のギャップという問題が顕著になったのは、ここ10年のことといえるでしょう。バブルのころは、作れば売れるという時代でした。バブルが弾けて以降、製造業の多くは効率化やコストカット、品質改善、歩留まり向上、安定供給などに注力しました。当時はそれが成果に結びついた時代でしたが、そのアプローチでの改善はやりつくしており、すでに限界に達しています。今は、選択と集中の時代と言われ、利益が出る品目だけを作らなくてはいけないという流れに移っています。こういった背景もあって、「業務効率化のためのICT」から「ビジネス戦略のためのICT」へのシフトが始まっています。
 
個々の業務の効率化であれば、その業務を理解し、現場の声を聞いて改善に取り組めます。しかしそこには複数の「システム」「プロセス」「ルール」が存在します。それを読み解かないと、業務の全体が理解できず、企業価値の向上へとつながる変化へと導くことができません。利益につながる改善、キャッシュフローの改善に結びつけるためには、優先順位を明確にしてそれぞれの取り組みを有機的につなげる必要があります。
 
そこで必要になるのが「グランドデザイン」です。私が行っているのは、SAPなどのERP、SFA、BI、製造実行システム(MES)、設備のシステムなど、さまざまなシステムや設備からデータを取り込んで、ビジネス全体を分析して、骨組みとなるグランドデザインを考え、システム実装に落とし込むことです。
 
グランドデザインは、現場の業務を理解している人と専門の分析技術を持った人が共同で変革して作り上げるものです。大切なことは、導入したシステムが「企業の価値を高める」という結果に結びついているかどうかです。その実現にはバックボーンに技術力がなくてはいけません。

学生時代の取り組みと現在の仕事のつながりについて

高専時代の旋盤加工などの経験が、製造現場の理解に役立つ

 
私は、高専で5年間システム工学を学んだあとに、大学の工学部に編入して生産システム工学を学びました。さらに大学院に進み、生産システム専攻 博士前期課程を修了しました。そして卒業してからも、生産系のシステムを勉強しています。

アプリケーションコンサルタント 山田 政人

といっても学生時代は勉強だけをしていたわけではなく、部活動やバイト活動にも積極的に取り組んでいました。高専では弓道で全国大会に出場し、個人戦で優勝1回、団体戦で全国3位に2回という成績を残しており、いい思い出になっています。ただ、高専は各都道府県に1校しかないので容易に突破できたという点も考慮しなければいけませんが。

新卒で入った会社では、INFORE、MC FRAMEなどの基幹システムの導入などを経験し、SCMのデータを会計仕訳に変換する業務を担当していました。そこでは、生産現場で実際に作業をサポートしながら、企業の経営者が見る会計情報と学んだ生産活動を結びつけ、どのように企業が動いているのかを学べたことが非常に有益でした。

高専や大学の工学部、前職で学んだことは、すべて今の仕事に役立っています。学生時代は、情報の基礎を学ぶだけでなく、旋盤加工の機械を操作してモノを作ったりするなど、さまざまな経験を積むことができました。現在の仕事では、製造現場の業務改善を提案する前に、お客さまの製造現場を回ることがあります。そのときに仕事内容がどういうものかを見ていくのですが、私は操作した経験があるので、現場の仕事に対する理解のレベルが違ってきます。

もちろん、現場で働いている方と同じレベルまでの理解とまでは達することはできませんが、ICTの仕事ではこのような経験を持っている人はそう多くはありません。製造機械にまったく触ったことがない人とは、実感が違っているのではないでしょうか。

JSOLに入社してよかったと思うのは、自分のこのような経験や特性を軸として仕事をさせてもらえることです。上司に「こういったジャンルが得意」と伝えれば、「こういう案件があるんだけど」と持ちかけられて、アサインしてもらうことが度々ありました。このように、JSOLには一人ひとりがやってみたいと思うことを受け入れてもらいやすい土壌があります。自分のキャリアとしての軸を尊重してくれる点は非常にいいと思っています。

ビジネスアナリシスは業種を問わない汎用的な知識ではあるものの、それを活用するためには業務に対する理解とシステム知識が欠かせません。私の場合は、製造業がメインとなっていますが、それも学生時代からの経験を生かせる仕事を任されてきた結果でもあります。

プロフェッショナルとして今後取り組んでいきたいこと

2025年の崖を超えるために

 
最近「2025年の崖」を危惧する声が高まっています。2025年の崖とは、2018年に経済産業省が発表した、「企業が旧態依然としたICTシステムを使い続けるリスク」を訴えたものです。部門ごとに構築された既存システムがブラックボックス化し、維持に多大なコストを要するだけでなく、全社横断するようなDXの阻害となると危惧されています。2025年の崖を乗り越えられない場合は最大12兆円/年の経済損出が生じるという試算もあります。
 
この2025年の崖を超えるために多くの企業がDXに取り組もうとしていますが、それには最先端の基幹システムの活用と現場部門をつなぐビジネスプロセス全体の可視化とスピードアップのための活動、また改善活動を実施できるために包括的に確認できるインテリジェンスツールの活用が不可欠です。
 
それを支援するためJSOLでは、それぞれの専門家と有機的に結びついたソリューションを作っています。繰り返しになりますが、そこで重要になるのは「やみくもにソリューションを導入するのではなく、企業価値を高め、ビジネスに有益な地に足が付いた仕組みを提供する」ということです。
 
特に最近は、IoTやAIによって膨大なデータを吸い上げ、分析することが可能になっています。それらのデータは現場だけでなく、ビジネス戦略や経営にとっても重要なものになってきており、ますます現場と経営は切り離せない状況になっています。
 
そしてIoT、AI、RPAなどの新しい技術も、現場で有益に活用できる仕組みを求められています。どの技術も謳い文句はきれいですが、「使える技術」「使えない技術」の見極めが非常に難しい状況です。そこの線引きができないと絵に書いた餅になってしまい、グランドデザインの設計ができません。
 
その半面、ICTは日進月歩なので、半年前は実現できなかったことが実現可能になったりすることも珍しくはありません。だから、私たちも常に最新の技術動向を勉強して、日々研鑽を積んでいます。知的好奇心を常に満足させてくれる業界なので、「楽しい」「役立つかもしれない」と思ったことに飛びついて、自分の目で見極めていくことも大切です。
 
諸外国に乗り遅れることなく、そして2025年の崖で失われると言われている12兆円/年の経済損出をプラスに代えるためにも、「ビジネス価値を高めるために何が必要か」という要求を考え、効率化・ビジネス戦略の活用にICTを上手く使うことは欠かせません。
 
JSOLは、お客さまから「絵に書いた餅を提案するのではなく、結果に結びつく現実的なものを提供してくれる」という期待を掛けられていると感じています。その期待を裏切るわけにはいきません。どのようなプロジェクトであっても、私が常に心がけてきたのは「常に業務の目線を忘れないこと」と「ユーザーの付加価値を生むためにどうするか」ということです。システムを正しく理解した上で判断できるようにするために、最新のトレンドをウォッチしながら、実現可能なことを見極めて、お客さまに提供していきたいと考えています。


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